結婚式場は永遠に決まらない
「いつ顔合わせしようか」
そう言われたのは、珍しく定時で帰宅した夜だった。
「どうしたの、いきなり」
外は突然の雷雨だった。
圭子は濡れたストッキングを風呂場で脱ぎながら、嫌な予感は淀んだ天気のせいではないと感じた。
「今日、ボーナス支給前の人事面談で、式はいつ頃か聞かれたんだ。結婚祝い金とか新婚旅行の休暇の申請の仕方を説明された」
「あれ、会社の人に結婚するって言ってたの?」
そういうキャラじゃないからと、光太郎は当初婚約したことを家族以外には伏せていた。先日、同窓会で親しい仲間には打ち明けたことは聞いたが、仕事の人間には伝えていないはずだった。
「ああ、実は同棲始める時にさ。その場の流れで。まあ、驚かれたけど」
「あ…そうなんだ」
(ごめん、光太郎)
「式場の予約とか早めにしないといけないことも多いし。来週あたり、見学行ってみる?」
コーヒーを淹れながら、決断力に長けたこの男は話をテキパキと進める。仕事もきっと出来るのだろう。論理的で議論の仕方が同じところが好きだ。
でも、違う。
好きじゃ、ない。
「今、退職前の引き継ぎでバタバタしてるから、6月末まで待ってもらってもいいかな?…30日はちょうど金曜日だし、そのとき今後のこと考えよう」
「ああ、そうだね。ごめん。そうしよう」
光太郎は、圭子の様子に不審がることなく、淹れたてのコーヒーが注がれたカップを持って自分の部屋に戻って行った。
決断するタイムリミットが決まった。
もう、戻れない。
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