恋愛なんて娯楽
グレープフルーツを半分に切った。甘酸っぱい香りが立つ。
梅雨が始まった。太陽が遠いと南国の果物が食べたくなるが、このグレープフルーツの産地は果たしてどこだっただろう。
潤とは、会わなければ会わないで、それなりに大丈夫だった。彼がいてもなくても、光太郎との同棲はうまくいかなかっただろう。結婚への迷いに、潤を登場させたくなかった。結婚は結婚で、判断をしたかった。
だが、こういうタイミングで潤からLINEが来ていた。
「お疲れ。仕事立て込んでる?こないだ話してた美術展、いつ行こうか」
気分が舞い上がる。ときめきは消えなかったようだ。
圭子にしては、潤に対する恋心のようなものは長続きしている方だった。しかし、あと半年もてばいい方だ。「好き」は持続しない。会うのは楽しい、でも会わなくても生きていける。優先順位は低い。
恋愛なんて、娯楽だ。
最高に甘くて楽しい、暇つぶし。
すぐに返信をして、日程を調整した。光太郎は、大学時代の恩師に会いに行っていて朝から居ない。昼食の時間に自宅で一人なのは久しぶりだった。
グレープフルーツの皮をむき、お皿に並べる。身の半分は今日食べて、残りは冷凍庫にしまうことにした。
いつの夜だったか。潤との逢瀬当日に、生理になってしまったことがあった。だから今日はできないの、と謝った圭子に、潤は「じゃあ、今日は深酒しないでうちでゆっくりしよっか」と言った。
圭子たちはスーパーで巨峰を買った。潤はそれをよく洗い、小さめのボウルに入れて皮ごと潰した。布でこしてグラスに移し、上からシャンパンを注ぐ。マドラーで下から上に数回混ぜて完成。シャンパンのフルーツ割り。キッチンに立つ男は美しい。圭子は流し台に並び、潤の優雅な動作を見つめた。
器用な指先が、グラスを圭子に差し出す。
「飲んでみて」
グラス口をつける。
「あ、合うね。美味しい」
巨峰の甘さが優しく喉を潤した。少し口に含んで、そのまま背伸びをしてキスをした。先ほどまでカクテルを作っていた指が圭子の髪を梳いた。キスが深くなる。
「なんか、エロいキス」
口づけを解くと、潤がはにかんだ。
もし、潤に本当は彼女がいるのなら、圭子は潤との関係を切るだろう。勝手だが、二番目の女はやっぱり嫌なのだ。自分が婚約している状況でも、変わらない。
窓の外には、淀んだ空とマンションしか見えない。婚約した女と今まで通りデートする潤と、自分を異性として見られない女と一緒に住む光太郎。
圭子には、二人が何を思っているのか欠片も理解できなかった。
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