雨の音を聞きながら迎える朝は寂しいけれど美しい

目覚めると雨の音がした。GWで仕事が止まっていた分、六月に入るまでは仕事もバタバタしていた。目覚まし時計をかけずに寝たが、時計を見るとまだ朝の四時だった。もう夏も直前だというのに、部屋はひんやりとしている。寝室の窓からは日が差さないため、この部屋で感じられる天気は、雨だけだ。今日も、雨が古いマンションの壁に打ち付けられる音が響く。

 そろりと毛布から抜け出し、裸足のまま台所へ向かった。お湯を沸かし、フォートナムメイソンの茶葉で紅茶を淹れる。世界で一人だけになったような、雨の日の朝。眠らない街・東京は、深夜より早朝の方が静かだ。

 来週末の土日で、圭子は光太郎の待つマンションへ引っ越す。この時間も、失われる。

「あの部屋が無くなる前に、もう一度行きたい」

 潤に同棲のことを告げた。圭子の愛する世界を、同じように好きだと言ってくれる男は最後に部屋に来たがった。彼の存在があるから結婚に迷うのか、それとも全く関係ないのか、正直なところ圭子には区別がつかなかった。

 不意に携帯が鳴った。LINEを受信した音だ。こんな早くに誰だろうとベッドサイドに戻って見ると、一年半前に自然消滅したセックスフレンドからだった。

「久しぶり。最近何してるの?」

 専門商社で働いている哲郎とは、六本木の個室カラオケで開催された合コンで出会った。海外出張が多いから、時たま変な時間にメッセージが来るのを思い出した。婚約してからは、光太郎と潤以外の男からの連絡は無視していたが、なぜか返信してしまった。

「久しぶり、こんな朝早くにどうしたの?」

 彼女に振られたのかセフレが切れたのか、そんなところだろう。月末に飯でも食おうぜ、出張が落ち着くから、と誘われて同意した。圭子は、過去の男に「私、婚約したの」と幸せそうに笑って見せたかった。そうでもしないと、もう「結婚する自分」を保てない気がした。具体的な日付を決めるやりとりが終わった時には、紅茶はずいぶん渋くなっていた。

 布団にもう一度滑り込み、眠りについた。

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