第2話 キャラクターメイク

 自室の電気をつけてひとまずパソコンの起動を待ちながら説明書を読む。


「ファンタジー世界であなただけの冒険が待ち望む――ゲームのほうじゃなくてゲーム機のほうの起動と設定方が知りたいんだよ!」


 ノリツッコミを自室でしながら、目的の説明書を探し出して改めて開いた。


「えっと、パソコンとUSBケーブル等でアリアン本体をつなぐ。なお、アリアンはパソコンと繋がった状態でなければネットに繋がりません。ご丁寧にどうもありがとうございます。それで、まずはこのディスクのデータをパソコンにインストールしてアリアンとの同期が行えるようにすると」


 起動が完全に終わったパソコンにディスクを入れて、画面にでた案内にしたがってインストールを始める。残り30分という絶対にあてにならない数字がでてきたので、漫画雑誌をひらいて、椅子をまわしながら時間を潰すことにした。


『インストール終了!』


 というネットで拾って設定しておいた音声が流れて、俺はパソコンに目を移す。


「これで本体は使えるようになったのか……まあいいや、とりあえずこのOAO? のゲームサービスのアカウント作って、そんでもってディスクをゲームの方に取り換えてっと」


 ダウンロード版とパッケージ版が存在するらしいけど、パッケージ版の場合はパソコンのほうにディスクを入れるとアリアンにゲームがインストールできるらしい。

 ついでに言えば、今回の作品は稼働は明日だが、インストールとキャラメイク等の事前準備は数日前からできる状態にしてあるらしい――勝手な予想だけど、多分当日にキャラメイク全員が同時に行ったりして、サーバーがパンクしたり似たり寄ったりの質問が大量に来るのを防ぐためだろうな。

 なんで運営の思考を考えているんだ俺は、どれもこれも――アカウント登録は終わったのにゲームインストールが70分とかわけの分からない数字がでたのが悪い。


 俺は読み終わった漫画雑誌を棚に入れて先月号を取り出したのだった。

 さらに時が過ぎて、インストール終了の音声が流れる。


「お……キャラメイクまで終わらせちゃうか」


 一応時間を確認して、まだ夕飯には早いということで、俺はヘッドギアのように頭に付ける形になってるアリアンを装着してベッドに寝転がった。


「これでいいんだよな。そんでこの右耳あたりにある電源を入れると――んっ!」


 一瞬の浮遊感とともに俺は、電子世界へと足を踏み入れたのである。


 ***


 数秒後、俺の視界に何やらパネルのようなものが写った。

 今のところVRという感覚はないどころか、手にコントローラーを握っている感覚だ。現実では寝転がっているだけのはずなのに。


『脳波を登録しています……完了いたしました。どのゲームをプレイしますか』


 ボタンを押すと、インストールしたOAOの他に設定やインターネットなど、わざわざこれを使ってやる必要ないだろうという初期機能がでてくる。俺はひとまずOAOを選択した。


『Original Adventure Onlineを起動します』


 音声案内とともに画面が切り替わる。稼働まであと1日という文字が書かれて、ゲームスタートボタンが選べなくなっているが、スタンバイというボタンが用意されていたので選択する。


『キャラクターメイクを開始します。簡単メイクと通常メイクを選んでください』


 何が違うんだと思ったら懇切丁寧に違いがパネルに現れてくれた。


 大雑把に言えば簡単のほうはMMORPGとかでよくやる髪の色や目の色とかの大まかな配色を変えられるものらしい。通常のほうはその配色をかなり細部までこだわってやれるほか肉質等もメイクできるらしいが、現実と差ができすぎないように身体に関しては大きすぎる変更はできなくなっているようだ。いってしまえば低身長の人が夢見るバスケットボールプレイヤー並の身長になったりはできないということ。


 まあそれならそこまでこだわりないし、顔とかその他のものについては脳波含めたスキャンで自動的に作られるし、なんなら体幹とか筋肉の微調整も行ってくれるらしい――それならそこまで色を気にしたりもしないでいいと思う。

 俺は簡単メイクの方を選んだ。するとわかりやすく色などの変更が可能という感じのパネルがでてくる。


 無言で俺は色を選んでいく。


 髪の色は黒のままでいいとして、目の色は桜色がなんとなく好きだからやっておこう。そんで最初の服装やインナーの基本色は……まあ黒にしておこう。


『お疲れさまでした。最後に名前を入力ください』


 最後にそんな音声アナウンスが流れる。

 俺はゲーム等で自分で名前が決められる場合に使っている「アキ」という名前を打ち込んだ。

 秋乃あきの――女っぽいとよく言われる俺の本名だ。なんか女の子が両親は欲しかった気持ちというのと、男女どっちでもこの名前なら問題ないだろうというノリだったらしい。

 でも、完全に女っぽいと言われる名前なんだよな。しかも、体は細身なせいで、よくからかわれるし……あぁ、いかんいかん。とにかく決定ボタンを押す。


『アキ様ですね。それでは、正式稼働まで今しばらくお待ち下さい』


 その音声が流れると再びゲームのロゴがうつるスタート画面に戻された。俺はそのままゲームの電源を落として、自室へと戻った。


「ゲーム自動で起動できる設定とかないのかな」


 説明書を読んでみると、パソコンのほうの同期アプリで、起動ゲームを選択肢てからアリアンの電源を入れるとそのままゲームスタートするらしい。


「今度からはこれにしよう」


 俺はそうつぶやいて、パソコンの電源を落として、アリアンをパソコン横の引き出しの上にそっと置いた。

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