第8話 フレンドと俺の家の日常

 気づけばリアルの時間は夕方になっていた。ゲーム内時間も基本的にはリアルと同じ時間軸で進むようになっている。なので学校が始まったら夜プレイが増えることになりそうだが、今はおいておこう。空の色がオレンジ色になっていて、林から抜けた平原なこともあってとても景色がいい。


「わがはいそろそろ夕飯なので失礼するである」

「オレも一旦夕飯だな。その後どうせプレイするけど」

「カタも一旦ログアウトー。色々溜まってることやってこないとダメなんだよねぇ」


 林からでたところで俺も時間的に一旦ログアウトしようと思ったが3人も同じだったようだ。


「俺も夕飯だからログアウトするわ」

「あっ、まって。アキちゃんフレ登録しておこ」

「わがはいもよければお願いするである」

「そういえばしてなかったな。むしろこちらからよろしくおねがいします」


 ログアウト前にフレンド登録をしてフレンド欄が少しずつ空白が減ってきた。なんとなくだが嬉しい気持ちを感じながらログアウトする3人を見送り、俺もログアウトした。


 現実に戻ったあとにすることは単純で、夕飯を作ることだ。夏休み中は俺が夕飯を作ることが多かったりする。

 というのも両親共働きで帰ってくるのは早くても母さんが6時だが、基本的には7時頃になることが多いからである。

 夕飯を作り終える頃に、タイミング良く夏海ちゃんも自室からでてきてリビングへやってきた。


「あ、お兄ちゃん今日なに?」

「華麗なカレーだ」

「エアコン暖房にする?」

「しんじゃうからやめてくれ」


 兄妹の微笑ましいかはわからないやりとりをしながら皿にカレーと米をもってリビングの机に並べる。

 親の分もちゃんと作ってある。でも、帰りの時間がわからないのでこうして早く食べてしまうことも多い。特に今は夏海ちゃんはOAOの熱が向いてるからどうせ早めに食べたいとねだられる可能性があった。その判断はどうやら正しかったようだ。


「お兄ちゃん調子どう?」

「まあ、ぼちぼちだよ。一応、レベルは少し上がってる」

「ほうほう……ていうかどんなスキル組んでるの?」

「えっと――」


 俺は手近な紙に書き出してスキルを見せた。


「一応、最初は7個しかとれないけどスキルはもう少しつけられるようになるんだよね」

「攻略サイトでなんかみたな。スキルレベルが一定になるとスキルポイントが手に入るんだっけ」

「そうそう。ちなみになつはすでにひとつレベルが上がりまくったのでSPで新たなスキルをとったよ!」

「どんなスキル構成なんだよ」

「ふっふっふ。こんな感じ」


 いつの間にか紙にかかれていたリストを見せられる。


 【剣Lv12】【軽鎧Lv7】【攻撃力強化Lv8】【魔法の知恵ⅠLv4】【火属性技術Lv7】【HP強化Lv5】【装備重量軽減Lv4】【行動限界突破】


 本当に8つになってる。見てる限りは10レベルが基準になってるのか。


「ていうか1日でここまで上がるのか」

「思ったより上がらなかったよ? 本当はもっといけるはずだったのに、モンスターの動きが増えてて予定通りいかなかったの」

「とりあえず攻撃というか効率重視なのはわかったよ。【行動限界突破】はレベルがまだ上がってないのか」

「取ったばっかりだからね。特撮みたいな動きができるようになるの」

「ちょっと気になるなそれ」

「炎の剣士ナツの活躍をお楽しみに! ……それにしてもお兄ちゃんまた途中で、選ぶの面倒くさくなったでしょ」

「バレたか」


 俺のスキルを改めて見てそんなことをいう夏海ちゃん。ついでに水もなくなってる。そんなに辛口にした覚えないんだけどな。


「まあ武器は癖あるけど、生産の知恵って……不遇ではないけど、これとるなら生産系のスキルもとらないと意味ないよ」

「……あ、忘れてた」

「だろうね。だけど生産系のスキルは不遇というか地味だったりするのが多くて人気は高くないんだよね。鍛冶とかの場合は戦闘そっちのけで最初は生産だけでスキル構成するべきだし」

「うぅん……行動限界突破が魅力的で取ろうと思ったが、まずは何かそっちを取るべきだな」

「まあ、薬草とか栽培する分には確か知恵だけでいいけど、代わりに作業効率と値段の採算がとりにくくて殆どの人が買わない畑を買う必要がね」

「しばらくは保留だな……でもそうするとやりたいこと決めないとスキル選び難しそうだ」

「とりあえず跳躍だけは早くどっかにやったほうがいいと思う。これは不遇とか通り越して謎技能と名高いから。何の役に立つかも検証班が困ってるほどに」


 妹アドバイス――跳躍はオブラートに包むと役立たずな技能である。


「まあ、アドバイスありがとうな。そうだな……ひとまずしばらくは槍使い目指して練習しながら素材収集して金集めでもするわ」

「まあ、【アイテム重量軽減】は長いダンジョンとかだと役立つしレベルあげておいて損はないはずだからいいと思うよ。そして、レベルが上ってきたら一緒に次の大きい街目指そう!」

「わかったから。机を叩くな」


 本日の夕飯はそんなゲーム談義をして終了した。


 その後、片付け終えてゲームしようとも思ったが、なんとなく母さんか父さんのどちらかは迎えたいという気持ちのほうが強くてリビングでテレビを見て俺は過ごす。

 妹もそのようで風呂から出てものすごい油断しきった服装で転がってて、テレビから視線をずらしにくい。


「あははは!!」


 お笑い番組見て大笑いしている妹の声と被さるように、玄関が開く音が聞こえた。


「ただいまー」

「おかえり、母さん」

「ママ、おかえりー!!」


 リビングに入ってきた母さんの第一声は――

「夏海……やっぱりあたし似ね」

 だった。もう少し突っ込もうよ――いや、もしかして母さんも昔こんな感じだったのか。


「よし、ママ迎えたから、なつはゲームタイム!」

「ほどほどにしなさいよー……っていってもどうせ聞かないか。まあ成績落ちなければいいわよ」

「最近新しいゲームでたから、夏休みの課題は怪しいよ」


 夏海ちゃんがいなくなった部屋で、虚しいツッコミを入れておく。


「まあ……どうせ、あんたもやってるんでしょ? 最悪どうにかしてね」

「わかってるよ」

「秋乃は終わってるんでしょうし……あ、今年の文化祭いつ! 今度休みいれておくから」

「去年と同じ、10月の第2土曜と日曜」

「りょうかーい」

「じゃあ俺、風呂はいる」

「はいはーい。お、今日はカレーか」


 この少し騒がしくてずれてる感じ、俺の家族の日常である。

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