第9話 露店巡り
昨日は風呂に上がったあとに少しだけプレイして寝た。よく考えたら早起きして朝からプレイしたほうが続けてプレイできるし、視界が明るくていいと思ったからだ。
そして現在は朝の9時のリビングである。食パンを焼いて卵を焼いて、朝食の準備は完了した。両親はすでに仕事にでて、徹夜したのか早朝からプレイしてるのか寝てるのか不明な夏海ちゃんの扱いに困る。とりあえず自室前でまできて扉をノックしてみる。
「んぅ……ぅ……」
耳を澄ましているとそんな寝息が聞こえる。
「朝飯すぐ食うかー?」
「ぅん……食べるー」
のっそりとベッドから起きたような床の軋む音が聞こえて、扉が開く。中からは髪をボサボサにY シャツと下着のみの夏海ちゃん。
「……とりあえず、顔くらい洗ってからこいな」
「うん……」
リビングに戻ってテレビを見て一応夏海ちゃんを待つ。いつものことだから、多分――
「おっはよー、お兄ちゃん!」
いつもながらにスイッチの切り替えが異常だ。元気なことはいいことだけど。
「おはよう、いただきます」
「いただきまーす!」
ようやく朝食を始める。
「今日はどうするんだ?」
「ん~? ふぁにが?」
「のみこめのみこめ。昼何時ぐらいがいいってことだよ」
「あぁ、今日も友達と午前中からやる予定で少し手強い所いく予定だから遅めでいいかな」
「じゃあ、昼は2時頃な」
「はーい」
本当は作って机に置いておくのでもいいんだろうけど、聞くだけ聞いておくべきだよな。
朝食はあっという間に食べ終わる。夏海ちゃんは一足先にゲームにいったので、俺も片付けを済ませて冷蔵庫の中身を確認する。
そしてすべてのチェックを終えてから自室にはいってアリアンを装備してゲーム世界へと向かった。
前回ログアウトした林入り口のセーフティエリアにログインした俺は、ひとまずセンターシティへと戻る。
ついでに歩いて帰って平原のアイテムなどを細々と採取していく。
薬草・石・薬草・薬草――当たり前だが草率高いな。
平原のモンスターはセンターシティ付近に関してはこちらから攻撃しなければ無害なものが多い。たまにでるレアモンスターを除くが出会ったことがないので、詳しくは知らない。
センターシティにたどり着く頃には【アイテム重量軽減】のレベルがいくらか上がりながらも、結構ぎりぎりになっていた。
「重量限界超えるとスピードとかが極端に落ちるらしいし、売らないとな」
やることを口に出して確認するの、やめたほうがいいかなと余計なことも考える。そして俺がまず向かった先はNPCショップの立ち並ぶ商店街だ。
「ようこそ、本日はどうしますか?」
そう言われると半透明のパネルが現れる。購買画面とでもいうべきか、最初に購入と売却を選ぶことができて、選ぶとさらにアイテムの一覧か自分のアイテムインベントリが開くのだ。
今回は売却を選ぶ。そして自分のアイテム欄から薬草をひとつ売却アイテムの方に移動してみる。決定ボタンを押さない限り売却はされないので、どの程度で売れるかを確認したかった。
「1Gってマジか……いやでも買う時10本セットで7Gとかそこら辺だし、良心的なのか」
この値段だと売るか悩む。自分でいつかアイテム変換ができるスキルをとって、いいものにして売ったほうが金にはなるはず。問題はスキルレベルを上げていく必要があって、確実にアイテムを圧迫する原因になりかねないことだ。
「軽鎧だからかわすのが結構基本になってるから、動き阻害は辛いんだよな」
頭を抑えて、今回はスパイダーの素材だけを売っておく。レアドロップらしいものは手に入らなかったし、今は金のほうが重要だ。
それでもアイテム欄に溜まりに溜まった草の処分に困ってしまう。
「武器屋とか防具屋行ったところで売値は変わらないだろうしな……いいや、露店で今の金で武器かなんか買えないか見てこよう」
結局そうやってつぶやいてしまいながらショッピングロードへと俺は移動した。
相変わらずの賑わいを見せているショッピングロードだが、やっぱりサービス始まったばかりなのもあってβテストから金とかを引き継いで金に余裕がある人は、廃人並みの連続プレイしてる人であろう装備のお客さんが多い。
初期防具、初期武器、初期服装の俺はどうにも浮いていると思ってしまう。
しかし、需要の問題なのか槍が売っている露店はなかなかなく、次へ次へと店を流し見する状態になっている。
「ん? よっ、アキ」
歩いている途中で、前から見覚えのある緑髪に話しかけられた。
「あれ、はや――じゃなくてファルコ。買い物か?」
「金が溜まってきたのと、【剣】スキルが上位スキル出すところまでいってな! 新調したいとおもったんだが……専属とか贔屓にしている鍛冶師がいないから、探しにきた」
「そういうことか」
「露店の使い方分かるか?」
「一応マニュアルというかチュートリアルみたいなのは読んだ」
「んじゃ、一緒に少し回ろうぜ。オレこのあと約束あるから、あんまり長くはねえけど」
「あいよ」
不意の出会いからファルコと少し露店を見て回ることになった。
オレと違ってファルコは遠目から武器屋を眺めて、ずいずいと進んでいく。
「お前、それでわかるのか?」
「ん? なんとなくわな。ていうか目的の武器の形の基本くらいは知ってるから、それが多めの所で話しかけたい……あった! いくぞ!」
「あっ、待てって」
ファルコは目標を定めると走ってその店へと向かう。
「よう! 剣と斧を専門で作る俺様の店へようこそだぜぃ!」
ガタイのいいスキンヘッドサングラス店員さんが店にたどり着くとそう声をかけてくる。プレイヤーなんだよな……髪型は変えられるし、現実でもこの髪ってわけはないよな。
「最近【両手剣】のスキルを手に入れたんだけど、重量と攻撃力重視の両手剣ないすか!」
その見た目や雰囲気に物怖じせずに自分の要求を伝えるファルコもすごい。
「おう、そんならこの3本がオススメだぜ!」
そういってアイテムインベントリから2本と、店に並べていた剣の一本を目の前にもってきて見せる店員さん。
俺にはどれがどう違うのかよくわからない。もってみれば武器のデータはわかるんだろうけど。
「デザインがかっこいいから真ん中のが欲しいけど、何Gだ!」
「おう、素材とかいろいろな要素にNPCショップで似た性能の剣の値段から計算した適正価格と思われるのは4500Gだが、勢いのいい兄ちゃんを気に入ったから4000Gでどうだ!」
それでいいのか商売人。
「よっしゃあ、買った!」
お前そんなに金持ってるのかよ。
「ついでに彼女にこいつもおまけしてつけてやるぜ。楽しむゲームプレイしろよ」
見た目と裏腹にいい人だった。意外とイクメンだったりしてな。
でも俺は男だ。
「ほれ、おまけだとよ。せっかく出しもらっておけ」
「お、おう」
否定をしないこいつのことは置いておいて、渡されたのは腕輪だった。データを確認してみる。
【アイアンリングG】
ATK+2
普通に強かった。
その後、嬉しそうに背中に両手剣を背負ったファルコは走り去っていった。
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