第10話 鍛冶師と薬師
俺は再び露店を巡る。ファルコほどの度胸はないので、あいも変わらずそれぞれの店を覗き込んでいく。
その途中で声をかけられる。
「そこの、槍使いさん」
そちらを見ると木箱を3つほど並べて、露店アイテムに混ざってるであろうシートに武器を並べている店だった。
そこにいる人は女性で明るいブロンド――プラチナブロンドだったかな。そんな髪色で、透き通った水色の目と褐色とまではいかず少し日に焼けたような色の肌をしている雰囲気の柔らかい人だ。どことなく、智愛を思い出す……まあ、結構風紀とか気にするアイツがこんな髪色とかにはしない気がする。
「ちょっと見ていかない? 可愛いアクセサリーとかも作ってるわよ」
まあ当たり前だが客引きのようだ。でも、他の店を比べると結構幅広く作ってるようで見るだけ見てみようと思えたので、その言葉にのって品物を見せてもらう。
「あなたみたいな可愛い人に似合うものもいっぱいだし、オーダーメイドも受け付けてるわ」
「あの、かわいいかわいいいわれると、その、ちょっと困ります。男なんで」
「……たしかにそういう楽しみ方はあるわよね。現実ではなれない自分になる。でも、スキャンに写真で判定されたアバターだから性別はさすがにごまかせないわよ」
冗談うまいねみたいな感じで流されたけど、本当に男なんですよ。
「ていうか、敬語じゃなくていいよ。多分、年近いだろうしね」
「は、はい。うぅん……やっぱりまだ手が出ないなあ」
「お金不足?」
「そんな感じ。正式版から始めたから、いかんせんまだお金集めとかレベルが上がってなくて」
「うーん、そっか。何かあるなら買い取りもやってるけどどうする?」
「残念ながら鍛冶師に役立ちそうなものは」
「まあ見せてみなさいって」
まあ見せるだけならただか。とりあえず、今持ってるアイテムを見せてみる。
「見事に平原とか林でとれるものだね……尋常じゃない量だけど。軽減つけてる感じかしら」
「正解。レベル上げに夢中なのとモンスター襲ってこなくていつのまにか……だけどNPCショップじゃろくに売れなくて」
「でしょうね。でも、薬草ならちょっと、待ってね」
そう言うと、少し後ろにさがって誰かに通話をかけて話し出す。聞いてはいけないと思い、武器の方を眺めておく。
槍がレベル不足もあって、少し手に持ってみたが重くて今までのように振り回せなさそうなんだよな。レベル上げはやっぱり必須だな。
「ごめんごめん。すぐ来るから待ってね」
「くるって、だれが……?」
「それは……ほらきた」
鍛冶師さんが視線を向けた方向を、見てみると黄緑髪のショートカットの女子が慌ただしくやってきた。
「おっとと……セーフ」
「そんなに走らなくてもいいじゃない」
「いや、呼ばれから急がないとなって思って」
「それで、この人が?」
「そうそう。えっと」
そこで鍛冶師さんが口ごもる。そういえばそうか。
「アキです」
「あ、ごめんね。そういえば、私も名乗ってなかったわ。ティアよ。それでこの子がミドリ」
「あ、どうも。ミドリです」
お互い名乗り終えて改めて木箱を挟んで話を始める。
「それで、まあミドリを呼んだ理由だけど。この子、いわゆる薬師をしててポーションとかを作って露天で売ってるのね」
「ポーションを?」
「そう、βテスト時代は無制限にNPCから買えたりしてたけど、正式版になってからNPCの量がある程度制限がつくようになってね。それこそ現実で品切れが起こるみたいに。だから転売とかも起きてて、露店でポーションとかアイテム売る人も多いのよ」
「そんなことが……あれ? でもそれだと、薬草とかも」
「正解。転売で値上げされたりね。でも、店を開けるわけにもいかないから大量に手に入れるには店を開ける時間減らして、自分で採取しにいくか買い取るかってわけ」
「あぁ、だから」
合点がいった。自分では買い取れなくとも需要がある人を紹介してくれたわけか。
「というわけで、まあ改めて薬師のミドリです。もしよければ薬草買い取りますよ……サービス開始して、プレイヤーが増えれば増えるほど価値があがってね。ぼったくる人も多いみたいで、普通の値段売ってるうちの店だといくら自分で採取してきてもすぐに売り切れちゃうんです」
感情豊かに首をうなだれながらそう言った。
「まあ、買い取ってもらえるならむしろこちらからお願いしたいです」
「ありがとう! 今ももう少しで在庫つきそうになってて」
「大変ですね」
この露店はティアのなので今回はトレード画面で取引する。
「この量なら、200Gぐらいで買い取るよ」
「えっ!? いや、数は多いけどそんな高くないですか」
「さっきも言ったけど需要と供給おいついてないからね。多少割高で買い取るので……またお願いできないかなってことで」
「ま、まぁそういうことなら……ありがたく受け取っておきます」
商売についてはよくわからないけど、今はかなり大変なときだったみたいだな。
200Gはクエスト報酬とかいろいろを考えるとやすいかもしれないが、薬草を無料で手に入れてきて手に入れるには、今の俺には結構大金だ。
「はい、取引完了。これで、今日を乗り切れますぅ……」
「いいわね、そんなに商売繁盛で。こっちは、今日はあんまりよ」
「武器は1個が売れれば結構な値段なんだからいいじゃないですか」
仲よさげな遣り取りをする2人を横目に、去るタイミングを図ろうと思ったが、そういえば少し聞いてみたいこともあるけど、聞いていいのかな。
「あの、ミドリさん」
「はい? なんですか?」
「あの、ポーションとかって何のスキルで作れるのかって聞いたりしていいんですかね?」
「あ、βテスターじゃなくて正式版からの方ですか?」
「はい」
「大丈夫ですよ。ポーション類含めて薬草などの草類からできるものは【調合】スキルで製作できますね」
「【調合】ですか。ありがとうございます」
パソコンのアカウントと連動できるメモ機能を使って記録しておく。
「アキちゃんは生産職なのかしら?」
俺たちの話を聞いてティアさんがそんなことを聞いてくる。生産職ではないんだよな……というか。
「まだ方向性を決めかねてる」
「あらま、意外と明確なやりたいこともってゲーム始める人多いから珍しく感じるわね」
「妹に誘われたようなものだから」
「……妹?」
「はい」
何故かそう言うとじーっと見つめられてしまう。流石に恥ずかしいというか照れる。
「あ、あの、何か」
「いえ、気のせいだったわ。ちょっと知り合いに似てるかもって思って」
「そ、そうなんだ」
「あ、アキさん。わたしにも敬語使わなくていいですよー。わたしは癖で敬語で話してるだけなので」
「え、あ、そ、そう」
そんな風に少しばかしゲームのことを知る会話ができた。今更だけどミドリも髪の色とか雰囲気がゲームに染まってるから気づかなかったけど、クラスメイトに似てるような気がしないでもない。
「じゃ、じゃあ、俺はそろそろ」
「俺っ娘きた!」
「はい、ティア落ち着いてー。アキさん、フレンド登録してもらえませんか? また売りきてくださるとうれしいですし、なんならポーションなども売ってますので」
「あ、私もお願いするわ。今は露店だけどあとで店開いたら常連さんになって欲しい」
ティアさんの理由はよくわからないけど、鍛冶師の人と知り合いになっておくのは悪くないか。良い人っぽいし。
「じゃあ、お願いします」
ゲーム内で初めてリアル友人や妹の力を借りずにフレンドを作ることができました。これもこのゲームの醍醐味なのかもしれない。
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