第36話 喫茶店と料理

 昼食をとってからゲームに戻る。ナツのほうは午後もそのままパーティーで冒険三昧するということらしい。

 なにやら新ダンジョンを見つけたり、新ドロップ武器を見つけてかなりテンションがあがっているとか。

 俺はなんとなく自分のスキルを確認してみる。


SP7 【長槍Lv9】【軽鎧Lv35】【生産の知恵ⅠLv15】【跳躍Lv28】【HP強化Lv37】【アイテム重量軽減Lv41】【鷹の目Lv28】【調合Lv11】


控え 【槍Lv32】


 レベル上げしていて気づいたことだが、SPは40にLvが達したときにも入るらしい。結構いろんなスキルがとれるんだな――それ以上にスキルの種類が多いわけだけど。


「そういえば、早速来週の休みがイベントか。そっちの準備とかもしておかないとダメなのかな」


 イベント概要が発表されていないか、公式HPを見てみる。ゲーム内でもネットにつなげて手元のパネルで見ることができる。


「えっと……あ、発表されてる。【サバイバルパーティー】って、なんかすごい名前だな。特殊フィールドで――」


 とりあえずそこそこ詳しく読んでみてわかったこと。

 まずはフィールドは特殊フィールドに転移させられて行われる。フィールドにはアイテムの持ち込み制限があるらしい。アイテム重量30までのものと、それとは別に自分の身につけられる装備だそうだ。

 つまりは、装備重量に引っかからないギリギリまで装備していくのは吉とでそうってことだな。俺にはあんまり関係ないか。

 そんでその他は現地調達できるものが多く、死亡したらフィールドからはじき出される生き残り方式、まさにサバイバルなイベントになる。

 ソロ参加もパーティー参加も大歓迎と書かれているけど、基本的にはパーティー参加がセオリーになりそうだな。

 そして、当日に発表になる何らかのポイントや功績でのランキング上位にはいったプレイヤーとパーティーには景品が用意されている。


「……あ、これもしかして満腹度とかの管理アイテムも含めてか? そうなると【料理】スキルって結構貴重になるんじゃ」


 今日から需要自体は一気に上がっただろうが、それをこの日までに実用段階にもっていけるのはよっぽど料理特化したプレイをしてレベルを上げるか、プレイヤースキルでのゴリ押しが可能な人に限るわけだ。

 しかもプレイヤースキルのゴリ押しがきくとはいえ、ゲーム的レベル要素のほうが反映はされやすいと思うからな。


「薬草とかでも口に突っ込めば、満腹度回復するのは、午前にわかったんだけど――長時間動くには適さないよな」


 このイベントが1日単位で行われると予想しておいても、少なくとも一度は満腹度0になる。それどころかサバイバルで討伐多めとなると、満腹度の消耗も激しくなるはずだからな。

 草で回復するのは微々たるものだ。満腹度目的で食べるには採算が全く取れない。むしろHPの過剰回復になる。


「ナツとファルコにかんしては、自分のパーティーがあるだろうし、俺はそんなガチ攻略したいわけじゃないからな。でも、ティアとミドリはどうだ。そもそも参加するのかよくわからない……あいつは、くるのか?」


 そもそも今ログインしているのかわからないので、フレンド欄を確認してみる。

 ログインはしているようだな。ただどこにいるかはわからない。


「……野良パーティーの組み方とかも正直良くわからないしな」


 今までのネットゲームのチャットならともかくVRだと、話しかけるのもリアルと同じようだものだ。

 だから、きっかけがない限り初対面で話しかけるのは勇気がいる。

 それこそ初めてあったときのリーフとかみたいな強引な方法ができるか、俺と明らかに趣味が合いそうだ! という確信がないといけない。

 悩んでいても仕方がないな。とりあえず満腹度がかなり減って通知が出てきたので、料理を求めてその場をあとにした。

 センターシティや各村には小さな料理店や大きな料理店ができはじめた。NPCショップも存在しているが、プレイヤーが経営している店も格段に増えているのだ。

 その中でも、満腹度実装前から料理をし続けてきたプレイヤーの店は今や盛況である。

 だからこそ、料理されたものじゃなくて生の素材でも食べ物アイテムを集めて食べるというようなことをするプレイヤーも少なくない。


「うん?」


 そんな風にセンターシティ内で混み合ってる店をいくつか通り過ぎた時、よく使う路地裏の中に違和感を覚えた。

 道に入って確認してみると、小さな扉ができている。電気もついていて、ドアノブをひねると鍵は開いているようだ。


「……すみませーん」


 少しだけ扉を開けて中を覗きながら声をかけてみる。


「いらっしゃいませ……扉に隠れてどうかいたしましたか?」


 中にいたロングスカートのメイドさんがきて、対応してくれる。名前を見てみるとNPCのようだ。


「あ、いえ……あのここってお店なんですか?」

「ミラド様の喫茶店になっております」

「あ、喫茶店」

「店は開店しているのでどうぞ中へ」

「お邪魔します」


 おそるおそる中へと入ると、たしかに中は黒というよりは黒茶といえるような落ち着いた雰囲気の店になっていた。

 路地裏の喫茶店という見た目通りの雰囲気だ。


「ミラド様。お客様ですよ」


 店の奥に向けてメイドさんがそう言うと、ガタイのいいスーツのようなアバターの男性がでてくる。


「らっしゃい。ようこそ、あんたが初めてのお客さんだ」

「そ、そうなんですか」

「そう緊張すんなって。おれは接客業とかあんまりしたことねえから、そこらへんの礼儀は失礼だがしらねえけど、もてなす心だけはあるぜ」


 ものすごし渋くて太い声だ。大人の色気がむんむんってこういう人のことを言うんだろうな。


「しかし、嬢ちゃんみたいなのが最初に来るとは予想してなかったぜ」

「この路地裏通りはよくつかってたので、あと女じゃないです」

「……わかるぜ、路地裏とか通り抜けたくなるよな」


 女じゃないという部分を聞いて察したのはスルーしたのかわからないけど、話題をそっちに向けてくれた。いや、男だってこと認めてもらえたほうが嬉しいんだけどな。


「お客様、こちらがメニューになります」

「あ、ありがとうございます」


 ミラドさんが入ってるカウンター席に座っていると、メイドさんがそう言ってメニューを手渡してくれる。その後は、少し離れた場所で掃除等している。


「今日作ったんですか?」

「そんなに早く店の依頼出しても立たねえよ。もともと、ここらの空き地売ってるNPCを偶然見つけてな」

 センターシティの街中の空き地はかなり高い。ショッピングロードはその典型で、露店を開くために借りるなら安いが買うなら数倍で足りるかも怪しい値段がするらしい。

「路地裏だから、まだ安くてな。ロマンで買っちまったぜ」

「へぇ……ダージリンティーとショートケーキもらえます?」

「あいよ。ロビン、ケーキ頼む!」

「かしこまりました」


 メイドさんはロビンって名前なのか。


「NPCって雇ってるんですか?」

「一応な。ただ、あいつはゲーム内NPCじゃなくて課金で作れるNPCの一種だ。対応してるゲームなら今後発売されるVRにも連れていけるな」

「そんなのあるんだ。あれ? ってことはミラドさんは【料理】スキルはもっていない?」

「いや、もってるぞ。クリームとか材料作ったりはおれがしてるからな。ただ、トッピングとかはあいつ任せだ。女性的なAIというかキャラ性格を元に作ったやつだからな。センスがいい」

「へぇ~」

「ダージリンティーお待ち」


 なんか喫茶店というより寿司屋みたいだな。


「【料理】スキルに興味あるのか?」

「せっかく実装されましたからね。それに今度のイベントで役立ちそうなので」

「そういえば、そんなのあるんだったな。おれは仕事だから参加できねえから気にしてなかった……しかし、料理は結構地道な道になるから好きじゃないと続かねえぞ」

「本当ですか」

「あぁ、本当だ。なにせ最初はシステムアシスト付きとはいえ、三枚おろしとか野菜のみじん切りどころか、丸焼きとぶつ切りぐらいしかろくにできねえからな。プレイヤースキルがあれば、ぎりぎり野菜切るくらいがどうにかなるってところだ」

「うわぁ……」

「そんなもんだから、ある程度安定するまで材料費も馬鹿にならなくてな」

「ですよね」


 話していると、メイドさんが厨房から出てくる。


「お待たせしました」


 イチゴのショートケーキが到着しました。イチゴってどこで手に入れられるんだろう。


「ん。美味しい」

「そいつはよかった……まあ、そうだな。初来店記念だ。【料理】をとってレベルを上げる気があるならこいつをプレゼントだ」


 そういって、ミラドさんは1つのアイテムをだしてくる。現実にある一般的な包丁と、フライパンだ。


「……いいんですか?」

「新しいの鍛冶師に頼んで作ったから、もういらねえしな。使ってもらえるなら本望だろうよ」

「じゃあ、がんばります!」

「おう、頑張れ」

「美味しかったです。ロビンさんもありがとうございました」

「いえ、喫茶店ですので」


 俺はケーキと紅茶を味わい終えた後に、挨拶して店を出る。


「美味しかったです」

「おう、まあ気が向いたらまたこい」

「またの来店。お待ちしております」


 よし、やる気出てきた。

 俺はスキル欄を開いてSPを使って【料理】を取得する。そして、まずは材料を集めるべく、草食動物のいる平原フィールドへと走り出す。

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