外伝 智愛の悩み事
EX 智愛と夏海の姉妹愛
OAO初の大規模イベントが終わった翌日。
私は家ですることもなく天井を見ていた。ゲームにログインしようと思ったけど、お腹いっぱいな状態だったことと――イベント中に思い出した余計な事があって、秋とばったり会うのが精神的によろしくないからってわけです。
さすがにずっと天井だけ見ているわけにもいかずに、体を起き上がらせた。そして視線に入るタンスの上にある写真立てが目に入る。
その写真には昔の私となっちゃんと秋の3人で撮った写真が入っている。
「なんであの時あんなこと言っちゃったんだろ~……ていうか、それを今まで忘れてたことに自分で驚きよ」
そう、今の私がおかしいのはあの時のことをはっきりと思い出してしまったからだ。
たしか中学はいってすぐに頃だった気がする。小学校から上がって思春期真っ盛りで私は完全に早めの反抗期に入っていた。
そんな時にお母さん達の恩師か、そんな感じの人のお葬式があって4日くらい家を開けるってなった時のこと。私にとっては名前すら初めて聞いたような人で、会ったこともなかった。その上で反抗していた時期ということもあったし学校は楽しかったということもあって、家に残るといったら――秋の家に預けられたんだよね。
たしかそれで、あの事件というか、思い出したある意味でやばいことがあったのが5日目くらいになったときの事だった。
***
「ただいまー」
「おかえり、お兄ちゃん!」
「ぐえっ!?」
秋の家に帰ってきた途端に、なっちゃんは秋に飛びつき、そのまま押し倒す――数日に1回くらいの頻度で見ているもあって慣れてしまった。
「夏海ちゃん……せめて、ソファとかベッドがあるとこでにしてくれ。いくら俺でも玄関前の床に頭ぶつけたら死にかねないから」
「お兄ちゃんなら大丈夫だよ!」
この頃のなっちゃんは、今以上に天真爛漫だった。
「あ、智愛さん……お、おかえりなさい」
そしてこの頃はまだ打ち解けてなかったこともあって、かなり他人行儀というか怯えられてしまっていた。案外、なっちゃんは人見知りの1面も持っている。
この日は秋の部活が休みで早く帰ることがかなったはずだったのだけど。
「ん? すまん、電話きた。はい、もしもし。秋乃の携帯にかけたんだから秋乃ですよ――」
お世話になって数日がたったけど全く打ち解けられないのよね。話しかけようとしても秋の後ろに隠れられちゃったりすることもあるし。
「すまん、智愛。ちょっと、なんか部活のことで話があるらしくて、いってくる。部活自体はないから40分くらいで戻ると思うから」
「えっ!? ちょっと」
秋はそういって学校へと走って行ってしまった。そして私は秋の両親もいない家になっちゃんとふたりきりになってしまう。
一応着替え終えてリビングにきたけど、気まずいわ。
「え、えっと、夏海ちゃん何かする?」
「じゃ、じゃあ、ゲーム」
なっちゃんはそう言うと、テレビの近くにあった家庭用ゲーム機を指差す。テレビ前に移動しておもむろにパーティーゲームを始める。
でも、会話がどうしてもできない。
こういう時に何を話せばいいかわからないのよね。部活にも入ってないから、後輩との絡み方もよくわからないわ。それどころかなっちゃんとは実質的には数年単位の付き合いがあるはずなのに、私はいまだに表ではなっちゃんって呼べてない。
しばらく無言でプレイしつつ画面内ではかなり殺伐バトルになってきた時、なっちゃんがふと口を開いた。
「智愛さんって……お兄ちゃんと付き合ってるんですか?」
「はゅぇっ!?」
「ぶふっ……」
思わず自分でもだしたことないわけのわからない声を出してしまって笑われた。
「あ、秋とそういうのはないわよ! うん!」
「でも、幼馴染だし……それに仲良いじゃないですか」
「いや、それは長い付き合いっていうのもあるし」
「家に呼んできたりするの、智愛さんくらいです」
「親同士も仲良いからね」
「……ぅ」
途中から少し鼻をすするような音が聞こえて、そっと横を見るとなっちゃんが泣きそうになっていた。
「え、えぇと、いや、えっと、夏海ちゃん!?」
「だって、だってぇ――」
そのまま何故か抱きつかれることになってしまう。
「お兄ちゃん、智愛さんといる時楽しそうだし、どこかいっちゃいそうで……お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなっちゃうかもってぇ」
一体どういう意味なのかさっぱりわからない。
「秋はずっと夏海ちゃんのお兄ちゃんに決まってるじゃない」
「だって、智愛さんみたいに優しくて頭良くてかわいい人、なつじゃ勝てないし、お兄ちゃんとられちゃうって」
「えっと――」
そういえば昔っからお兄ちゃん子だったわね。そっか、お兄ちゃんとられちゃうと思って心配になっちゃうのか。若干、ブラコンな気もしなくもないけど、でも不安になっちゃうかもしれないもんね。私に姉妹いないからわからないけど、そういうことなのよね。
「大丈夫。夏海ちゃんのお兄ちゃんはとらないから! 絶対に秋は夏海ちゃんのお兄ちゃんのままよ!」
「本当ですか……」
「本当よ!」
「智愛さんとらないですか?」
「とらないっていうかとれないわよ……私がとれるとしたら夏海ちゃんのお兄ちゃんの秋乃じゃなくて、男の子の秋乃だけ!」
なんかものすごい私恥ずかしいこと言ってる気がする。
「そっか……えへへ」
とりあえず泣き止んでくれたけど、今度は私が真っ赤になりそう。
「お姉ちゃんがいたりしたら智愛さんみたいな人がいいなぁ」
「うえっ!?」
「智愛姉って呼んでいいですか!」
「……いいわよ。私もなっちゃんって呼んでいい?」
「もちろん!」
***
「男の子の秋乃だけってなによ。まるで私が秋のこととることが決まってるみたいな。ていうか秋をとるってなに!? ……いや、いわずもがなこれは恋愛的なあれよね。本気で、なんで忘れてたんだろう」
写真立てをもって思い出に改めてふけっていた時、突然ポケットに入れてあったスマホが震える。
「もしもし?」
『おう、オレだ。隼人! なぁ、これから秋乃んとこいかねぇ――』
「い、忙しいから!」
『あっ、ちょっ、まっ』
思わず電話を切ってしまった。
次に会う時、どんな顔して秋に会えたばいいのよ。あくまでなっちゃんと2人切りの時に話したことだから、秋に言ったって意味ないし、むしろ秋に話したら意識してるみたいじゃないのよ。
このあと悶々としたまま私は休みを過ごすことになったのは言うまでもない。
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