第3話 ゲームスタートとスキル決定

 早いことであっという間に時間が過ぎて、次の日の朝になった。稼働開始は厳密には10時らしく、現在は9時30分だ。リビングには夏休みでは珍しく早起きの夏海ちゃんがいる。


「あと30分……あと30分だよ!」

「わかったから落ち着け」


 ワクワクを抑えきれずに、そわそわを抑えきれていない夏海ちゃんを横目に食洗機から食器を出して、片付けをしてしまう。


「あ、お兄ちゃん。今日はすぐにプレイしに生きたいからチュートリアルはぶっ飛ばしてね!」

「俺はゲーム機の説明書はともかく、ゲームは説明書読まないでチュートリアルをやるタイプなのに」

「あんなもん感覚でどうにかなるから、最初に取得するスキルだけでもきめておいて!」

「スキル……スキルねぇ」

「最初に7つ。その後はそれぞれのスキルレベルが上がっていくことで、スキルポイントつまりはSPが入って新しいスキルを手に入れられるから!」

「……わかったよ。代わりに簡単な操作を今教えろ」

「もちろんいいよ。まずは――」


 この後、しばらくの間、基礎知識や操作方法を叩き込まれることになった。そして気づけば時計は開始時間まで残り10分を指し示している。


「あと10分そろそろスタンバっておく!」

「昼には一回やめろよな」

「……はい」

「少なくとも俺は一旦やめるからな」

「あい……」


 そもそも俺がこいつのプレイについていけるのかどうかもわからない。一緒にやりたがってるから、集合こそしてやるけどな。

 夏海ちゃんが自室へと意気揚々といってしまったのをみて、俺も自分の部屋でパソコンの電源を入れるなどして準備を始める。


「……夏だし、汗かいてもあれか」


 今日の天気予報は快晴だったはずだ。俺は部屋の窓を開放してから、ベッドに寝転がりアリアンを起動させる――そして、俺だけの冒険への一歩を踏み出した。


 ***


 ゲームが始まると、最後の作業が残っていたようですぐに世界に足を踏み入れることにはならなかった。


「スキルはここで決めるのな……数多すぎだろ」


 この前と違って、自分の目の前にパネルやキーボードが現れてるようで、指で弾いてスクロールなどができる。

 それは、さておいてそのリスト等に乗っているスキル量が尋常ではない。


「えっと、最低限武器はひとつとっておくべきだと思うしな。生産職特化とかじゃないし……そんで、あんまり他の人と被るのも面白くない」


 簡単にわけられているスキルを眺めていくうちに、いくつかを感覚だけで選び取る。


【鷹の目】【HP強化】【アイテム重量軽減】【生産の知恵Ⅰ】【軽鎧】


 残り2つの枠を残して決定した。


「あとは武器もとっておきたいな……戦闘はしたいし。お、【槍】なんてものもあるのか」


 武器の欄をスクロールしている中で、ふと目に止まった。


「どうせあとで別のとることもできるし、これにしておくか」


 俺は【槍】を取得し残りがひとつとなる。


「もう適当でいいや」


 わりと俺はこういう時になって雑になってくる――というより早くゲームをプレイしたくなるタイプだったりする。


「……こんなもんまであるのか。昔を思い出すなー……とろ」


 そして最後のひとつは行動スキルと呼ばれるカテゴリーにあった【跳躍】を取得した。

『ようこそ。マルティシアの世界へ』

 スキル取得が終わるとそんな音声アナウンスが流れて、俺は光りに包まれた。


 **


 次に視界が晴れると、そこには溢れんばかりの人と、活気あふれる洋風の町が広がっている。


「さすがサービス初日だな……ん?」


 少しあるきだすと何か違和感がある。妙に柔軟というべきか、体はやわらかく動く感覚に襲われた。昔、陸上をしていたのもあってそういうところには敏感である。特にいえば地面に足がついている時の違和感が強い。


「自動で調整されるんじゃなかったのか」


 体のスキャンは脳波から自動的に行われるか写真を使う方法と、両者をつかって確実性を高める方法がある。俺は写真登録もしたうえでスキャンもキャラメイク中に行われる設定にしておいた気がしたんだが……まあ気にし過ぎかもしれない。VRの感覚に慣れていないだけの可能性も大きいからな。


 そんな自己完結をした時に、「ポンッ」というような音が何回も響いて、視界の邪魔にはならない端の方に何かアイコンが出てる。


「たしかこのマークはメッセージだったか」


 俺がそう言うと自動認識されたのか、それとも考える事のほうを読み取ったのかメッセージが開かれる。

 内容は運営からのゲーム稼働の案内と初プレイ特典パックと呼ばれるものの配布だった。


「音声入力の反応感度さげておかないとだな。っとそのまえに、フレンド!」


 俺がそう口に出すとフレンドのパネルが現れた。当たり前だが1人も名前は表示されていない。


「えっと、たしか――」


 手元にキーボードをだして夏海のメルアドで検索をかける。すると1つのキャラクターが表示されてフレンド申請を送るとすぐに承認され、ボイスチャットの申請が送られてきた。

 パネルをすべてどかして、そのボイスチャットにでる。必要ない動作ではあるが自然と右手の人差し指と中指を耳にあてていた。


『あ、お兄ちゃん! 準備完了?』

「多分な。今どこにいるんだ?」

『最初の町の端っこに港があるんだけどね。そこの酒場近くにいるよ!』

「わかった。今から向かうから特徴を教えてくれ」

『銀髪ツインテでキャラ名はナツ! 初期の服装の色は白が多めのオレンジ模様だよ』

「わかった」


 俺はボイスチャットをきる。そしてこの町のマップを開いて、酒場を目指して小走りしはじめた。

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