第4話 ファーストクエストと槍の極意(我流)
オープンマップのこのゲームにおいて、他の大陸が存在するほどの容量があるのかはともかく、海風がふく港へは簡単にたどり着いた。ここも人がかなり多いがそれ以上に広い空間で窮屈さは感じない作りになっている。
「すごいな……それで、えっと酒場はたしか」
マップで自分の位置を確認して、酒場の方を見ると見るからに目立つ銀髪が見えた。
「おーい」
とりあえず声を出しながら手を降って近づいてみる。
「ん? ん~? えっと、どちらさ……ま……あ!」
「うん?」
「もしかしてお兄ちゃん!?」
「見ての通りだけど、なつであってるよな?」
「うん。なつはナツであってるけど……おね、お兄ちゃん自分の体見てみて」
「うん……?」
妹と合流した矢先にそんなことを言われてしまう。まあ念のために改めて確認してみるが、尻の丸みがあったりする気がするけど、その他は別に――胸を触ったら見て分からない程度にあった。そしてこれ胸筋じゃない。
「なんでだ……」
「キャラはスキャンとか写真判定だから、そうそう誤認されないはずなのにね」
「たしか、運営の忙しさも加味してかキャラの作り直しは今はできなかったよな……」
「うん……多分できたとしても課金アイテムとかになる可能性も0じゃないし、なにより髪とかの色なんてそれこそ課金アイテムじゃなくても変えられる可能性たかいもん」
「ていうか、よく気づいたな」
「そりゃ、文化祭とか色んな所で女装させられてるの見慣れてるからもう、本当に男か妹として不安に何度なったか」
「なんか、ごめんな……」
自然と謝ってしまった。声はもともと電話とかだと女に間違えられること多い声だから、ほとんど変わってないし――多少高いけどリアルでも張ったらこんな声だよ。
「まあ、ネカマ難しいゲームでそれができるのは面白いってことでやろ!」
「まあ、そうだな。折角今日からプレイできてるのに、何もできないのはあれか」
「ということで、初期スキルの武器とか色々受け取った?」
「おう、一応な」
「それじゃあ、早速レベルあげにいこー!!」
「元気だな、お前」
「とりあえず、最初の町が大陸の端の港町なのは強制で戦闘チュートリアルだけはやらなきゃいけないかららしいから、早く本当の大陸に行きたい」
「あ、ここからすぐ移動させられるのな」
「うん、もう早い人はいっちゃったとおもうからいくよー!」
夏海――いや、ナツはそういって走ってフィールドへと向かっていった。俺も急いで追いかけることになるが、若干体の違和感を調整しきれてなくて遅れてしまったりした。
港町の西には海が広がっている。そして東には草原が広がっており、初心者でも倒せるモンスターがわんさかでてくる――つまりポップするらしい。
草食獣リポという小さなサイのようなモンスターだが、そこかしこで慣れてないと思われるプレイヤーがタックルで吹き飛ばされてるのが見える。
「攻撃しない限り、突進してこないからまずは装備を装備しないとね」
「どっかのRPGでききそうな言い方だな。ここで装備していくかい? 的な感じで」
「お兄ちゃんもすっかりゲームに染まっちゃって」
「お前が無理やりプレイさせたりしたせいだろ」
愚痴を言いつつもアイテムインベントリを開いて装備する。
スキルに対応して配布された【スピア】と【ショートスピア】の2本がある。そのうちの【スピア】を装備する。ショートという名前のものがある通り、こちらは長い両手持ちの槍のようだ。
その他に軽鎧に部類される防具も装備するが、服の中に装備するタイプのようで、みためはほとんどかわらなかった。
「槍ってまた渋い所ついたね」
「渋いって言えばいいと思ってないか?」
「ちょっと思ってるけど、結構使い回しがなれるまで難しいから初心者向けじゃないらしいよ」
「少なくともクソスキルとか呼ばれてないならなんとかなるだろ」
「まあね。それじゃあ、なつがまず手本を見せるからね!」
普通に戦い始めてしまおうかと思ったが、せっかくのレクチャーを無下にするのもあれだ。俺はひとまず槍を杖のようにして立って、ナツを見守ることにする。
オーソドックスなファンタジーゲームにでてきそうな剣をもったナツは勢い良く、リポに飛び込んでいく。そしてそのまま斬りかかった。
最初の武器ながらにリポのHPは3分の1ほど削れたようにみえる。
「さすが初心者フィールド」
「お兄ちゃん。こいつは、まあ見ての通り攻撃は直線的な突進だから――こうすれば楽に倒せるよ!」
ナツはこちらに話しかけながら余裕でリポの突進を避けて、そのまま追撃を入れてHPを削りきった。モンスターはそのまま消えたりはせずにその場に倒れる。
「なんで消えないんだ?」
「ボスとかレイドみたいなのは別だけど基本的には倒した人が、こうやってドロップ品を受け取る操作をすると消えるよ。ただ毛皮とかを最高品質で手に入れたりしたい人だと、そういうスキルをここで選択すれば挑戦できるの」
「基本的にはドロップ品を回収すれば消えるってことな」
「そういうこと。戦闘チュートリアル兼初心者クエストはリポを5匹倒すのと草食獣の皮と2つNPCに渡すことだからぱぱっとやっちゃおう!」
「おう」
1人で倒す必要があるため、ここで一旦分かれて俺たちは草食獣討伐を開始した。
周りに人がいなそうな場所に移動して少し待つと、すぐにリポがポップした。草原の草を美味しそうに食っている姿は可愛いとすら思う。
「だけど、容赦はできないしな」
ひとまず見よう見まねで槍を構えてリポに対して攻撃を試してみる。するとシステムアシストであろうが、体が思ったように動いてくれて一撃を入れることに成功する。
「結構違和感なく、アシストしてくれるんだな」
何故かそんなことに感動を覚えているうちに、リポは突進体勢を整えて前足を力強く踏み出した。
「あっ、やばい」
しかし、さっき見たとおり事前動作から突進の方向はわかって回避は簡単だった。どちらかといえば槍を持ち直す動作などに手間取る。
「うぅん、勢い良くつくとどうにも。軽く突いてみたほうがいいかな」
試しに足を踏み込むが前に出すぎずに連続て突いてみる。一撃のダメージはさっきより少ないが、すぐに次の動きに移りやすい。
「臨機応変か。たしかにこれは難しくて、初心者向けじゃないわ」
ひとまず倒すことのできたリポのドロップ品を確認しつつ、そんなことをつぶやいてしまった。
このあとは、槍の練習をじっくりしながらリポを倒していたが、途中でナツに「おそーい!」と言われてしまったりして、マイペースな自分の性格と思ったよりも楽しめていることに気づきながら最初のクエストを終了させることになる。
「おつかれー! それじゃあ、今度こそ冒険の始まりだー!」
「いや、小さくてもサイと戦う時点で冒険だと思うんだけどな」
「そういうのはいいの! さっきもらった、オーブを使うんだからね! ゴーゴー!!」
そう言ってナツは目の前から光って消えた。ワープって外からみるとこんなふうになるんだな。覚えておこう。
俺もアイテム欄からワープクリスタルという名前のアイテムを選択してワープを成功させるのだった。
***
ワープした先にあったの大きな紫色の水晶だった。例に漏れず人がたくさんいて、街中にワープしたのが見て取れるわけだが――ここが最初の町ってことだろうか。
「あ、お兄ちゃん! こっちこっち」
すぐにナツが俺を見つけてくれたようで、はぐれずにすみ少し落ち着いた場所へと移動する。
「ここが拠点になる大きな街だよ」
「名前とかないのかよ」
「βの時は街とか国とかしかなかったから、みんな世界の中心的な場所ってことで【センターシティ】って呼んでたけど、まああとでフレーバーは調べてみるとしようよ。それよりも!」
ツインテールの髪を揺らしながら手を広げて一周するようにすると、ナツは俺を指差す。
「このできた妹のなつがお兄ちゃんにセンターシティを案内してあげる! ただでさえ広くて、今は人多くて迷いやすいからね! 重要箇所をすぐに確認しておくべき!」
「ま、まあそういうことなら教えてもらおうかな」
案外、ナツは世話焼きとかで後輩に人気高かったりするんだよな。たまにうちに連れてくる友達とかの様子を見てるとそれがわかる。
その後、ナツに1時間ほど街の中を案内というよりもはや連れ回された。
NPCショップの並ぶ商店街と、プレイヤーが露店を開くことが多い、通称ショッピングロードと呼ばれる大通り、ギルドの設立や土地の購入などの手続きができるギルド協会など実に様々で広い街だということを嫌というほど理解した。
そして、ふと時間を確認してみると12時半になっていた。
「そろそろ一旦昼食べるからログアウトするぞー」
「えぇ~、ここからが本番なのに」
「本番を一気に楽しむために、飯中断の手間を省くと考えれば先に飯のがいいだろ」
「あっ、それもそっか」
どうして説明のときは博識っぽさ全開なのに、こういうところで抜けているんだろうか。
俺はメニューを開いてログアウトしてゲームを終了した。
部屋で起き上がり体を伸ばしながら窓の外を見ると、気持ちが良すぎるほどの快晴であり風が吹いていない――窓を開けていたものの少し汗をかいていた。
一応、アリアンに脱水症状とかを伝えるセンサーは備わっているらしいが、少し気にしながらプレイしたほうが良さそうだと思ったそんな昼の一時だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます