第2章 プリンセスと恥ずかしがりや
第19話 アバターと四天王
学校が始まって数日がたったある日の夜のことだ。
夏休みから少しスローペースだが、夜に帰ったらOAOにログインして薬草を集める日々を送っていた。
なぜそんなことをしているのかと聞かれた場合に言えることは、まず1つ目に現在ゲーム内金欠であるということだ。ぶっ壊れた槍を改めて買い直したり、攻略につれてかれたりして消耗品の補給に使ったりといろいろである。
そして2つ目に時間の問題だ。夏休み明けてすぐに小テストラッシュが行われた。結果的に俺はそこそこ良い点数を取ったものの、テストあるところに課題ありと言わんばかりに復習プリントの追加である。夏休みの宿題が復習じゃなかったのかというツッコミを入れたかったが、全体的に平均点は低かったので誰も言い出せずに終わりをつげた。
そして最後のひとつに俺の交友関係の問題だ。まずは夏海ちゃんはクラスメイトやら同級生ほかネット友達、略してネッ友も多いこともさることながら、夏休みの宿題を案の定ヘマしたうえに小テストで赤点ギリギリと赤点ふたつ取ってしまった結果の課題と補講でプレイが不可能である。そして悪友ファルコは俺の宿題を移したが、移しただけなのでやっぱり補講ルートを辿った。
翠花に関してはそこそこ良い点数をとるが、そもそも戦闘的だったりの楽しみ方ではなく薬草を売る時に合うような関係で過ごしている。最後になるがティアは宿題をしっかりとこなしてきたが、小テストで回答欄ずらしという荒業をやってのけて今週は参加不可能状態になったわけだ。
「ネッ友を作るなら今の時期なんだろうけど、みんなパーティー組んじゃってて野良パーティーなのかどうかすらよくわからない」
薬草をある程度採取し終えてスキルを確認しながら吐き出すようにつぶやいた。
SP6 【槍Lv23】【軽鎧Lv20】【生産の知恵Ⅰ】【跳躍Lv10】【HP強化Lv18】【アイテム重量軽減Lv28】【鷹の目Lv15】
結構、育つの早いと思いたいが、周りの4人が全員βプレイヤーなせいで、すでに30をこえたりするスキルを持っていて、いまいちよくわからない。
夏休みの最後の1週間は本気でレベル上げとかしてたから、妥当な早さなんだろうと思っておこう。
そろそろログアウトしようかと思いながら俺はセンターシティへと戻ってきて、受けていたデイリークエストという報酬は少ないが毎日受けられるクエストの報告をする。
「助かった。ありがとうね」
「いえいえ」
NPCもこうやって少しコミュニケーションをとれたりするので楽しい。
そして最近の俺の中のいつもの行動――ログアウト前に露店を覗くをしようとしたときのことだ。
「……うん?」
ショッピングロードの出入り口付近で、あまり見覚えのない露店を見かける。いや、お金を払ってこの辺の空き店の借り代払えば誰でも露店を開けるからおかしなことではないのだけど、それにしてもすごい混みようだ。
「なんだろうこれ」
「プリンセスブランドの1人がNPCで露店開いたみたいですよ」
「うおっ!? ミドリいたのか」
「いえ、今日の在庫は完売したのでログアウトするまえに露店巡りしてたもので」
「俺と同じなんだな……それで、プリンセスブランドってなんだ?」
俺が何気なく聞く。目の前ではさらに人だかりが増えていた。
「女子プレイヤーに人気の衣装というか服作りの四天王みたいな人たちがいるんですよ。いつのまにかその人達をちまたではプリンセスブランドと名付けていました」
「へー……つまりは服を買いに来たってことか」
「まあ、衣装作りというか【裁縫】スキルを育てるにはどうしても根気がいるみたいですからね。そのうえで、デザインばかりはリアルの人間のセンスがでてきますし」
「だろうな。かといってNPCショップもデザインがいいか言われたら微妙だけど」
「タンクトップに作業着みたいなボトムスのアキさんがいうのはいかがなものかと思いますけど、そんな人が露店を開くなんて稀なのでこうなっちゃってるわけです」
「そんだけ言われるなら、もう店とか開いてそうだしな」
「その通りです。噂では、なんか今回は新たな作品を作るために、色々してた結果作りすぎて倉庫などが圧迫されたので吐き出したということらしいです」
「それが、この人気とは恐るべしだな」
「あと、服やら衣装で迷うくらいなら布防具かアバターで通じると思いますよ。アキさんにあわせてはなしてみましたが、言いにくかったので」
「あ、マジか。次からはそうする……ついでにティアにも教えておく」
「ティアはゲーム内だと男勝りな性格になっちゃってますからね。お願いします」
もしかすると【衣装】ってスキルも最初見たことなかったけど合体だったりするのかもな。【布防具】と【装飾品】とかそんな感じのやつ。
「まあ、でもあれに混ざる気力もないのでわたしはこれで、アキさんまた明日。おやすみなさい」
「また明日な~。おやすみー」
ミドリはそう言ってログアウトしていく。
俺もログアウトしようかとメニューをいじろうとする。その時さらに後ろから気配を感じて手を止めてしまった。
「いかないの?」
声をかけられて後ろを振り向くと、俺と同じぐらいの身長の女子がいた。ただ、その見た目はかなり印象的で――素直に可愛いという感想が頭のなかに現れるほどのものである。
「いや、露店見てまわってただけだから」
「そうなんだ……見た感じ、アバターには興味ない感じみたいかなー」
観察するように俺を見ている彼女の視線に少し恥ずかしくなる。どんどん距離を詰められてるし。
「興味ないというか、なんというか」
男だから女子系のアバターはいまいちわからないというのが本音である。着こなしとかそういうのもとにかく知らない。今のこの服装はひどいのは流石に理解できるけど。
「あ、足止めちゃってごめんなさい。あたし普段は【裁縫】とかその他いろんなスキルでアバター作ってるから、もしまた会うことがあった時に興味出てたら言ってね。色々レクチャーしてあげる」
「は、はぁ……」
「あと、多分同い年ぐらいだろうから、そう固くなんないで、ね。それじゃあ、またねー」
そういって彼女は夜になったゲーム内の暗闇に消えていった。
一体何だったんだろうか。答えはいまいちよくわからないままだが、俺はそのままログアウトして就寝した。
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