第50話 vsドッグフィッシュ
水の中で戦闘が始まって早くも数分がたち、一度の呼吸をしたものの酸素ゲージの状態はよくない。
長期戦になったら死ぬのは俺だ。上から槍が降ってくるのを待ちながら、目の前のこの牙の鋭い魚をどうにかしなければいけない。
「スキルなしだと動きに限界があるんだけどな」
距離を取ると魚は再び、自分の動きを見せつけるかのように周りを素早く泳ぎ回る。目では追える速度だけど、体が追いつくかと言われれば無理だ。結局はわざと攻撃を食らった瞬間にカウンターをするか、狙い撃ちをするしかないけど――まず手元に武器がない。
カウンターにしても狙い撃ちにしても一撃で大きなダメージを与えなければいけない以上、現在すぐにとりだせる包丁の攻撃だとこっちが先にやられかねない。レベル差でゴリ押せる可能性はあるけど、やってみてダメだったではすまないイベントだ。
「って、きた!」
そんなこと考えているうちに、攻撃してこないと悟ったのか大きく口を開いて噛みつき攻撃をしかけてくる。だけど、それは俺的には嬉しい攻撃だ。噛み付くということは、神つける部位を狙ってくる――魚自身の口の大きさが小さいのもあり腕と足を狙ってくる。
体全体を泳いで動かすよりも手足を進路上からどかすのはかんたんで、その場で宙返りをするように動いて回避する。
「ギリギリィ……だな!」
何度か回避している途中で、水面から何かが落ちてくる音が小さく聞こえた。上を見るとゆっくりと槍が沈んできている。
俺はもう一度魚の攻撃を交わしてから急いで槍のもとへと泳ぐ。動きを激しくすると酸素ゲージの減りも早くなる――槍をてに持てたところでゲージの色が赤に変わる。
「急いで決めないとやばいな」
だが、俺の考えとは裏腹に槍を警戒してか魚の攻撃が少しゆるまってしまう。こっちにきてもらわないと攻撃ができないのに。
右手で槍を短くもってその時を待つ。そして、魚が再び体を動かしてこちらへと攻撃してくる――左手に噛ませて攻撃するのが一番いいか。
「よし、こいっ……ん?」
だが、ここで魚をよく見ると進行方向に違和感を感じる。俺の腕や足というよりは――その答えにたどり着いたときには少し遅く、腹に体当たりを食らった。
「くっそ、ここにきて体当たりかよ!」
ダメージはそこまででかくないけど、酸素ゲージがマジでヤバイ。なくなったらダメージが入り始めてしまう。
もう一度魚は体当たりをしてくる。
俺は腹にくるという単純な動きではあると考えて構えた――そして考え通りに腹にきた体当たり。そのままあいている手で魚のエラに手を突っ込んで、槍を体につき入れた。
魚は口から泡を吹き出すとダメージが継続的に入り始める。エラのほうに異常がおきるとそうなるシステムなのか。
ドロップ品を取る以前に、酸素ゲージが0になってHPにダメージが入り始めた。魚をそのまま掴んで引っ張って水上へと泳ぐ。
「ぶはっ! ……はぁ……セーフ」
「アキ!」
顔をだすと心配そうな顔でティアが俺の方を見てくるので、手に持った魚を突き上げて無事を伝えておく。
無事に陸に上がったときには、当たり前だが服も髪もびしょぬれだ……ホットパンツはともかく、ジャケットの前を開けっ放しだと、インナーは透けてしまっている。
ひとまず濡れたジャケットの前はしめておく。
「何があったの、心配したのよ」
「いや、こいつに引きずり込まれてな……釣りスキルがないとモンスターがかかったら力負けしちゃうみたいだな」
「はぁ……もう、よかった。とりあえず、風邪ひくとかはしなくてもかわかさないと」
「そうだな」
ひとまず一騒動が終わって、今日の活動はここまでになったというか、ティアにこれ以上むちゃすんなと言われてしまった。
なのでティアの作業を眺めながら焚き火を囲んでおくことにする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます