第49話 フィッシング

 ティアとミドリが起きてきて、朝食を食べ終えてから昨日と同じく行動方針を決めていく。


「それじゃあ、今日の行動をどうするかだな」

「いいかげんたまった鉱石がアイテム欄圧迫してきてるからインゴットとか色々まとめて一つにしちゃうわ」

「海岸でちょっと貝殻探してきたりしたいかな」

「なら、海岸にわたしが一緒にいきます。砂浜にしかない海藻とかが手に入れられたらバンザイですし」


 今日は案外スムーズに決まった。


「じゃあ、リーフとミドリはそれでいいと思うぞ」

「じゃあ行ってくるね!」

「わかりました……って、あぁ! リーフさん待ってください!」


 ミドリが珍しく振り回されている。


「アキはどうすんの?」

「この湖に魚いないか試しながら周辺探索してみる」

「了解したわ~」


 俺たちも行動を開始する。後ろで金属を叩いたり炉から火が吹き出す音をBGMに、昨日手に入れた釣り竿に、釣り餌になるかわからないが飯の残骸を混ぜたものを針つけて湖にむかって投げた。

 あとは釣り竿を持ちつつ湖の近くに座って待機だ。リール式の現代的なものじゃないから、引き方がよくわからないんだよな。

 数十分後、全く反応がない。一旦、上げてみると餌はつきっぱなしだ。


「魚がいないのか餌が悪いのか」


 餌を上げてそう思った矢先、さきほど餌があった場所で何かが跳ねるのが見えた。


「……タイミングわるいなぁ」


 水面に波紋が広がっているのを見ると、何かはいそうだ。

 俺はもう一度、湖に糸を垂らして暫く待つことにする。相変わらず後ろでは金属を叩きつける音が鳴り響いている。

 またしばらく待つことになるが、その途中で一旦作業を終えたらしいティアがちかくにきた。


「どう、釣れる?」

「釣れない」

「なんかそもそもいるの?」

「さっき跳ねたのはみたからなんかはいるはずなんだけど」

「まあこっちは、一回炉を休めないといけないからしばらく休憩よ」

「やっぱり休憩は必要なんだな」

「現実でどうかはしらないけどね。刀女子とかそういうんじゃないから」

「まあ、そうだろうな……」


 隣りに座ってきたティアのほうをふと見ると、なんか光に反射して汗が光っていた。ていうか、上半身がタンクトップで、汗で谷間がみえていた、目の保養なんだけど心臓にとても悪い。


「うん? どうかした?」

「い、いや、なんでもない……こんなこときくのもあれなんだけどさ」

「なによ」

「お前、現実だったら俺の前で着替えられる?」

「い、いい、いきなり何言ってるのよ!?」

「いや、なんというかその――な?」


 思わずお互いに立ち上がって向き合ってしまうが、俺はすぐに目をそらさざるを得なかった。そんな俺を見てからやっと自分の姿と、この状況に気がついたのか上着をいそいそをだして羽織るティアだった。


「な、なんか、わるかったわね」

「いや、別に気にはするけど、気にしないから」


 頭からすぐに忘れろと言われれば無理だな。


「ていうか、私のそういうところでも、そういう反応するんだ……」

「そりゃ男だからな」

「付き合い長すぎて意識されてないと思ってたのよ」

「……それってどういう」

「あっ、えっと――あ釣り竿ひいてる!」


 思わず自分でも言わなくていいことを言ってしまったという反応のあとに、そんなことをいいだした。ごまかしかなと思って釣り竿の方を見てみると――がっつりと引いていた。

 地面に突き刺しておいた釣り竿を手で持って、糸が切れないようにどうにか動かしていく。


「くそっ、スキルレベル1じゃどうにもならない大物か!?」


 釣りのゲージとかが出てきてくれれば嬉しいが、何も新たな要素は出てこない。つまり感覚だけでどうにかするしかない状態に陥った俺は、防戦一方になってしまった。


「大丈夫?」

「割と駄目っぽい……糸切れてくれればいいのに!」


 そう、それなのに糸が切れないせいで釣りをやめられないのだ。釣り竿を手放せばいいかもしれないけど、竿を失うのは惜しい。

 そしてそのときは訪れた、糸が切れる――よりも先に竿ごと湖に引きずり込まれる。


「やばいっ」


 水の中に入った瞬間に酸素ゲージがでるが、最初の呼吸がうまくいってなくて半分しかない。水中の中でも喋ったり視界が良好なのが唯一の救いだけど、釣り竿の先にいたのは――魚どころかモンスターだった。


【ドッグフィッシュ Lv18】


 レベルはこっちがかなり上だ。ただ、状況がひたすらに悪い。

 俺は腰につけてた包丁で釣り竿を強制的に切る。両手両足で耐えなければいけない陸上はともかく、水中で今の状態ならかんたんだった。そしてアイテムインベントリに竿をしまって槍を――外においてきた。

 俺はスキルないながらにどうにか水面から顔を出す。


「アキ、大丈夫!?」

「智愛! 槍、投げて!」

「なんで名前っ、槍!? わかった!」

「急いでく――ごぼっ」


 言い終える前に足が噛まれて再び水中へと引きずり込まれた。

 もう片方のあしで頭を蹴って引き剥がすけれど、もう一度水面に上がるのは難しそうだ。さて、どうするかな。

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