第15話 お礼と縁

 数日が過ぎて、夏休みも残り1週間と少しになった。

 宿題なんてものはとうの昔にすべて終わらせた俺はOAOの世界でのゲームプレイを満喫している。夏海ちゃんは、こうして薬草を俺がとっている間、宿題と戦っているだろう。


 ここ数日のプレイで俺のレベルも結構あがってきた。


 SP3【槍Lv12】【鷹の目Lv9】【HP強化Lv9】【アイテム重量軽減Lv15】【生産の知恵Ⅰ】【軽鎧Lv10】【跳躍】


 SPの使いみちは悩みまくってしまっている。ちなみに不動の【生産の知恵Ⅰ】と【跳躍】だが、前者は単純に生産関連のことを行っていないのが原因である。そして後者はその場でジャンプしたところで、経験値が入らないため、ますます何のためのスキルかがよくわからなくなってしまっていた。

 そんな俺に通話がかかってきてすぐにでる。


「はい、もしもし」

『あ、アキ? 今大丈夫?』

「ティアか。大丈夫だけど、どうした? 課題終わったのか?」

『どうにかね。作文と美術系を最後に残すんじゃなかったわよ……ってそうじゃなくて、もし時間があるなら、この前のお礼の話がしたいんだけど』

「あぁ~……わかった。露店いけばいいか?」

『うん。いつもの場所にいるからよろしく』

「すぐいくけど、今林前だから少しかかる」

『わかったわ』


 そういって通話がきれた。そして俺は、最後に目の前にあった薬草を入手してから立ち上がり、ショッピンロードへと走った。


 いつもどおりの賑わいを見せるショッピングロード。その中の店のひとつへとたどり着く。


「よう、おつかれ」

「どうも、今日はいつまでプレイ予定?」


 今は午後の2時で昼飯はすでに食べた。


「まあ6時ぐらいかな。今日は母さん早めに帰ってきて飯作るって言ってたから」

「そう、じゃあ大丈夫そうね」

「何がだ?」

「ちょっと、お礼したいのよ。ついでに商売というか、必要な分だけお願いしたいってのが正しいわね」

「どういうことだ?」


 ティアはアイテムインベントリを開いて、1枚の紙を取り出して店の木箱の上に広げた。そこには防具のデザイン図のようなものが描かれている。


「なんだこれ?」

「服っていうかアバターの下に着れるタイプの軽鎧よ。今、あんたが装備してるみたいな。たしか、まだ初期装備で耐久回復させてもたせてたわよね?」

「あぁ~、うん。そうだな」


 俺は防具と武器に関しては結構な日数が経つが初期のままである。というのも【槍】の派生や【軽鎧】の派生で生まれるスキルがあることを考えると、それが着てからのほうがいいと思って、金を使うのと躊躇してしまっていたからだ。

 攻略サイトを見ても良かったんだが、なんとなくそれは違うなと今回は思って、見ていなかったりする。人から聞く分にはいいけど、自分から攻略を全部見るのは少し嫌だという形だ。


「【軽鎧】はLvがあがっても派生がない……というより合併スキルになるタイプのスキルなのよ」

「【重鎧】と合体して【鎧】とかになって種類が関係なくなるとかってことか?」

「そういうこと。まあその他にも厳密には【衣装】とかみたいなスキルもあるから、さらに合体は可能らしいけど、そこまではしらないわ。私は金属専門で今はやってるから。それで、この図の装備は【軽鎧】の中でも急所や重要箇所を守りつつ動きを阻害しない序盤ではかなり性能のいいものなのよ!」

「ほう……ん? なんで俺にそんな話を?」

「これでさっしないって……お礼としてこれを作ってあげる。実質タダで。ただ素材集めと、炉のぶんのお金だけ少しだしてくれると嬉しいから、今回は呼んだのよ」

「そういうことか。まあ作ってもらうのは俺だし、そんなに性能いいなら作ってもらうにこしたことはないからな。手伝うぜ」

「ありがとう。それじゃあ、早速行くわよ」

「……どこにだ?」

「あんたが良く草とってる平原の先の林よ」

「あそこスパイダーでるから嫌なんだけど」


 俺がそう言うと、呆れ顔をされてしまった。


「まだ虫ダメなの?」

「近く行けばでかすぎて感じないけど、いることは変わらないしな」

「まあ大丈夫よ。今回行くのはスパイダーがいる方向とは別の、林の中の湖に用があるの」

「湖なんてあるのか」

「あるわよ。ただ林だとハンマーって動きにくいから一緒にきてほしいのよ。ついでに数取れたら嬉しいから【アイテム重量軽減】持ってるアキは本当に、相性がいい感じってこと」

「そういうことか。荷物持ちと護衛とストレートに言っていいぞ」

「さあ、いくわよー!!」


 なんかごまかされた気もするが、ティアは一旦店を閉めて準備を整える。そして林へと向かうのだった。

 そして林までの道中のこと。


「よく考えたら、2人だけで行動するの初めてだな」

「最初にあったときは、2人だったのにね」

「そうだな」

「でも、外見はただの女友達2人が歩いてるようにしか見えないと思うわよ」

「いうな……」


 なんとなくだった。この時、本当になんとなく隣のティアを見た。

 大きめのハンマーを腰につけて、ポーチのようなものをもっている。たしか、登録したアイテムをすぐに取り出せるようになるポーチだったか。


「ん? 私の姿なんかへん?」

「いや、へんじゃないけど……やっぱり昔から結構校則とかは守ってたお前が、結構派手な髪色にしたりアグレッシブな生産職になっているのを見ると、不思議な感覚なんだよな」

「それいうなら、アキが女になってるのが……あれ、不思議じゃないわね」

「おいごら」

「そんな声出しても、アキの声じゃ威圧感なんてないわよー」

「くっそ……」

「でも、まあ、男だって私はわかってるから大丈夫よ。昔からずぅっと隣にいたんだから」

「……そうだな」


 幼稚園の頃からずっと一緒にいた気がする。軽口が叩き会えた上で、本当に理解をしてくれていると思える相手は、今はティアを含めて数人くらいしかいないのかもしれないなんて、ふと思う。


「ただ、こうしてまた遊べるようになったのは純粋に嬉しいよ。中学の頃ぐらいから部活とかアキは没頭してたから話すだけくらいになっちゃってたから」

「……それもそうかもなー。そんじゃ、目一杯楽しんで思い出作らないとな」

「そうねー。じゃあ男のアキが今日は私を守ってくれるんだよねー?」

「あたりまえだ」


 何気ないやり取りだ。だけどとても心地良いやりとりである。そんな余韻に浸っているうちに、林にあっという間にたどりつくのだった。

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