VR世界に少女が現れた、仲間になれますか?
Yuyu*/柚ゆっき
第1章 ゲームスタートと幼馴染
第1話 ゲームがやってきた
他の誰でもない特別なオンリーワン――とある名曲にそんな意味の歌詞がある。
人は誰とも一緒じゃなくて、絶対にその人らしさなどがあるという意味だと、俺は解釈している。
だから、夏休みに入って半分ほどが過ぎて家の扇風機の近くのソファに寝転がっているこれも個性なんだ――言い訳じゃないぞ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!」
「なんだばっ!?」
名前を呼ばれて顔の上においておいた漫画雑誌をどかそうとした瞬間に腹に衝撃と重さが襲い掛かってきて、思わず跳ねそうになる。腹の上の重りによって、実際に跳ねることはなく顔の上の漫画雑誌が床に落ちるだけで済んだが――目の前にはツインテ妹の夏海ちゃんの姿があった。
「どうしたの
「どうしたのじゃないよ! 今日届くって言っておいたじゃない!」
「何がだっけ」
最近暑さにやられて、数日前のことを思い出すのにも若干時間がかかったりする。
「お兄ちゃんのぶんのVRゲーム機『アリアン』が届くって!! 今受け取ってきたよ!」
「そういえばそんなこと言ってたな……とりあえず降りてくれるか」
「そんなことって、そんなことじゃないでしょ!」
「ぐぉぉ……跳ねるな。胃に響く」
「あ、ごめんごめん」
そう言って夏海ちゃんは俺の腹から降りてくれた。そして俺が体を起こすと、大きめの紙袋を押し付けてくる。
「……え?」
「ゲームソフトも入ってるから! OAOのインストールディスクも一緒にセットになってるから!」
「おう……」
OAO――『Original・Adventure・Online』という世界初のフルダイブ型VRMMORPGの作品だ。今年の初夏に発売して、驚異的な売上を見せたこの作品は、スキルを自分で選んでいくいわゆるセルフプロデュース的なことができる。そしてオリジナルな自分で、オンリーワンな冒険をしようというコンセプトのファンタジーゲームだ。
VRという仮想現実世界に入るだけでも売れそうなものなのに、そんなシステムまで組み込まれては子どもたちだけじゃなく大人にも大人気になることは簡単に予想がついたといえる。
妹はそんなゲームをβテストから参加する廃人なのだが、俺は基本的に妹にさそわれるがままに今までゲームをプレイしてきているため、今回もβテストはおろか、初版を狙うつもりもまったくなかった。
が、予約ですら受付いっぱいの店が多いにも関わらず、妹が何らかのルートでこうしてゲーム機ごと手に入れてきたのである。
「なつの初期スキルオススメは使いやすい剣かメイスの武器と物理強化に、素材収集とかで使える探索系スキルをいくつかつけることだから! でも、セルフプロデュースが大事だから好きにするといいと思うし、正式で追加される新要素もあると思うからじっくり考えるべき! ちなみに、メルアドからID検索してくれればなつはすぐ見つかるから、始めたらフレンド申請送る、よろしく!」
「いや、よろしくって言われても」
俺の話や意見は聞く気はさらさらないというか、早くプレイしようよというような、アニメ的に言えばシイタケ目になってる夏海ちゃんの期待は裏切れそうにない。
ちなみに正式稼働は明日からだ――テンションが上がりすぎて、それすらも妹は理解していない模様で不安が募る。
「というわけで、早速ほらほら」
「わかったから、おすなって、おすなおすな」
「レッツゴー!」
「全く聞いてねえ……」
夏海ちゃんに背中を押されてそのまま俺は自室へと押し込まれた。
最近このゲームを気にしすぎたりして夏海ちゃんは宿題終わってるか若干心配ではあるが、仕方がない。俺は自室のパソコンの電源をつけて、紙袋の中身を取り出すのだった。
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