第72話 注文

「2名様ご案内でーす!」


 強引とは言わないけど流れに流された結果そのまま5組の店に入ってしまった。

 ここまできては仕方ないと席についてメニューを見てみる。


「まあ普通みたいだな」

「そうね……結構しっかりしててびっくりだわ。去年の私達ここまでやってたかしら」

「やってる組はやってたきがする。俺はミスコンに引きずり込まれていたけど」

「そうだったわね。とりあえず、何か頼みましょう」


 スイーツ系とはいうものの軽く食べられそうなものも多い。


「コーヒーゼリーにアイスつけてる感じかね。これは」

「多分そうなるわね。私はケーキにするわ」

「そんじゃ、頼むか」


 店員の後輩を呼んで注文を済ませる。


「しっかし、特に禁止されていないとはいえカップルっぽい雰囲気の席が多いな」


 混む前にということでこの時間にきたのかもしれない。


「そ、そうね……」

「どうした。顔赤いぞ」

「き、きのせいよ! 別に、私らもそんな風に見えてるのかなとか思ってないから」

「あぁ~……下手したら女の子同士とか思われてんじゃねえの」

「それはないわよ……ないのよぉ」


 なんでないんだよという雰囲気を感じるような声だ。

 本当にないのだろうか――いや、まて、そもそもカップルに間違われて教室に押し込まれたんだから、性別は見分けられてたってことか。

 なんか、俺まで恥ずかしくなってきた。

 いや、このクラスの空気にやられてるだけだ。そうに決まっている。

 ふたりして変な空気になってしまったところで注文していたものが届く。


「コーヒーゼリーとショートケーキ。そしてサービスのミックスジュースです! それではごゆっくり」


 店員としてのマナーとかそういうのは、文化祭だからそこまで細かく気にしない。そもそもバイトとかしたことがないからしらない。

 ただ、このサービスはこのタイミングではいらないよ。

 目の前には普通に注文したものと、存在感を放つストローふたつの飲み物だ。


「秋。私の率直な感想を言っていい?」

「なんだ……」

「ボス戦の気分」

「奇遇だな……そう言われると、たしかにそうだと思っちまうよ」


 目の前の問題をごまかしてコーヒーゼリーを一口入れる。

 美味い。普通に文化祭と考えれば問題ないはずのものだ。なのに、味以上に気になるものがありすぎて純粋に楽しめない。

 俺と智愛のパーティープレイによるボス戦が始まった――とか言いたくなるな。

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