第60話 水着と昔話

 イベント最終日の前日が訪れた。

 今日は遺跡攻略作戦が指導するわけで、朝食をとってるわけだが――結局、ここ数日俺が大量に作ってしまった。

 料理レベルが上がりすぎている。でも、何故だ。なんか腑に落ちない。俺この一週間他の人の手料理食べてない。


「どうしたの? アキちゃん」

「どうもしない……」


 片付けたり最後のアイテムチェックが現在行われている。ひとまず料理アイテムの掃除と片付けは完了した。俺はアイテムは槍とポーション類のみだから、特にチェックする必要はないな。


「ティア、スキルとったか?」

「もうとったわよ」

「そうか。ならまあ、後は行くだけだな。ミドリ、あれは配っておいてくれな」

「わかってますよー」


 偶然だが夜にできたあのドリンクに関してはミドリに任せて火山攻略組に分配してもらう。数本は記念ということとかで俺も持ってるんだけどな。これくらいなら許してもらえるだろ。俺の作ったものだし。


「あ、そうだ。ティアとアキちゃんちょっときてー」


 念のためのテント待機組のリーフが準備中の俺たちを呼ぶ。そして行ってみると、何かアイテムを渡される。


「……なにこれ?」

「水着」

「何故」

「いや、ティアになんか必死に作ってほしいと言われたし。もとから作ってみたいとは思ってたしね」

「なんで俺の分まで?」

「いや、どっちかというとアキちゃんの分をつくってと」


 ティアの方を向くと目をそらされた――最近よくわかんないな。


「ビキニとかじゃないよな」

「魔法使いとかならともかくアキちゃん動き回るだろうから、スパッツになってる競泳水着に近いやつにしておいたわ。ただし素材の関係で背中は丸出しだから、耐水パーカーきて我慢してください」

「お、おう……まあ、それなら許容範囲とはいいたくないけど、仕方ないな」


 とりあえず物陰に隠れてアバターを装備し直す。防具も外しておかないとだけど、どうせ泳ぐならそっちのほうがいいか。

 着替えてみると、足もかなり露出してるし、背中がスースーする。パーカーきてても、パーカーの生地が直接触れるのが違和感だ。いや、普段男子なんだから関係ないだろといわれるとあれなんだけど、中途半端に前とか肩紐は存在するからこそ意識してしまうんだよな。

 そして、リーフのもとに戻ると無言でスクショを取られて見せられる。


「なんか、プールサイドにいるバイトの監視員みたい」

「なんかわかるきがする……で、ティアは?」

「あっち」


 ティアも似たような感じのものに着替えていた。ただ、ハンマーがそこそこ大きいので異物感がすごい――でも、ファンタジーっぽくて少し好きかも。


「な、なによ」

「いや、別に……そんじゃ、いくか」

「そうね……早く終わらせて火山に私も再挑戦するんだから」

「そういえば、鉱石ほしいって言ってたな」

「そういうこと。どっちにしてもモンスター暴れてるなら1人でいくのは遠慮するからイベント優先ね」

「はいはい……んじゃ、いってくる」

「いってらっしゃーい!」


 こうしてリーフに見送られながら準備を済ませた俺たちは湖に向かって出発することになった。


 道中、無言が続く。

 正直、警戒とかもしなくてはいけない以上にお互いに水着という状況がおかしいだろ。ネット関係だけなら気にしないのに。


「な、なんか、思い出したわ」

「な、何をだよ」


 ティアがそう言ったので、恐る恐る聞き返してみる。俺にはなんにも察しがつかないからだ。


「ほら、昔海行ったじゃない。あの時も似たような感じだったなって……アキ、ラッシュガードきてパーカーも砂浜では着てたじゃない」

「……あぁ、小学5年の頃のことか?」

「そうそう」


 言われて思い出すことができた。海の家にお使いへ2人でいったんだった気がする。今もだけど、家族ぐるみで仲がいいからでかけることもあったしな。


「なんでこのイベントで変なことばっか思い出す羽目になってるのよ!」

「まあ、こんだけ一緒にいることなんてそうそうないからな」

「ていうか、さすがに一週間一緒とかはないわよ」

「……一回だけあったじゃん」

「え? そうだったっけ?」

「ほら……親戚ではなかったけど、お前の両親にとっての葬式とかで、もうお前も大きかったからってうちに泊まった時」

「……あぁ、あったわね! あれ、なんで一週間もアキの家にいたんだっけ?」

「九州の方までいって台風でたしか帰れなくなったんだったはず」

「そうそう、思い出したわ……私は全く知らない人だから、ついていくか聞かれて、若干早めの反抗期なのもあってか、行かなかったのよね」

「理由までは聞いてなかったからしらねえけど、それでうちに一週間いたんだよ。夏海ちゃんがなついたのもその時じゃなかったか?」

「……そういえばそうね。そっか、あの時なっちゃんと仲良くなって……んぅぅ!」


 そうやって話していると突然にティアが変な声を出した。思わず振り向くと顔を赤くしてる。


「ど、どうした?」

「い、いや、なんでもないなんでもない! そうね、あの時なっちゃんと仲良くなったんだったわね。あ、ほ、ほら、湖見えてきたわよ!」

「ま、まあそうだが……大丈夫か?」

「大丈夫。まかせなさい! 私のハンマーがあれば百人力よ」


 戦闘メインでプレイしてないのに、何かを誤魔化すようにやけになってティアはそう言った。よくわからないけど、湖に入る前に少し無理にでも休憩させることにしておこう。

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