第23話 抽選券と協会

 あの日から数日がたったある日のことだった。


「お願いします!」

「突然なんだ……ていうか、誤解を受けるからやめようか」


 学校の自販機コーナーで何を買うか悩んでいる所で、突然夏海ちゃんが膝をついて俺の好きな飲み物であるレモンスプラッシュを差し出しながら何か言い出してきた。

 とりあえず普通に立たせて話を聞く。


「補講の時間的にどうしても間に合わないから抽選の代理をして欲しい?」

「そう! 公開してメルアドで代理が大丈夫か聞いてみたら、連絡してくれて来れない理由が分かってる人は大丈夫って返信をくれたの」

「すごい律儀な人だな。人気出るのもなんとなく想像できるよ……まあ、別にいいけどさ。何伝えれば代理だってわかるんだ?」

「なつのキャラ名とゲーム内IDとこの番号」


 そう言って、なつはスマホの画面を見せてくる。そこに6桁の番号が書いてある。


「あとで俺のアカウントかチャットに送れ。リアルでメモっても意味ないから」

「すぐ送る。じゃあ、おねがい! あとで埋め合わせはするから!」

「別にそんな気にしないてもういいぞー」


 午後は移動教室か体育でもあるのか夏海ちゃんは急いで教室の方へと戻っていってしまった。

 そういえば、どこで抽選のあれをやっているか聞いてないぞ。

 俺はどうしようかと少し考えながら教室へと戻る。そこで思い出した。


「智愛、ちょいちょい」

「ん? なにかしら?」


 昼飯を食べ終えて何やらノートにかいている所だったみたいで、少しタイミングを間違えた気もする。


「あのさ。名前わからないんだけど、有名な鍛冶職人の抽選券配布が今日あるとか言ってたじゃん」

「あぁ、あるわよ。どうしたの? お金たまったから欲が出た?」

「いや、夏海ちゃんに代理を頼まれてな。ただ、どこでやってるのか聞くの忘れた」

「なんだ、そういうこと。それなら一緒に行く? 補講も全部終わって私は自分で行く予定だったし。ついでにその後晩御飯とかでログアウトするとは思うけど、夜に一緒にプレイしない? 少し久しぶりな気もするけど」

「それは全然かまわないぞ」

「じゃあ、家帰ったら早めにログインしてね。集合場所はギルド協会前にある英雄の像前にするわ」

「あいよ」


 持つべきものは友達だなと少しばかり思った俺だった。


 家に帰って洗濯物だけは先に取り込んでからゲームにログインした。

 ギルド協会は殆ど来たことがなかったりするが、英雄の像というオブジェクトは有名なのですぐにたどり着くことができる。ついでに、そこにいたティアもすぐに見つけられた。


「随分可愛くなってるわね」

「な、なんだよ」

「いえ……抱きついていい?」

「断る!」

「やっぱり駄目よね。じゃあスクショだけで我慢しよ、じゃあ行くわよ」

「おいこら」


 そう言ってティアはあるき出した。ついていくとギルド協会の中へと入っていくことになる。

 ギルド協会に入ってすぐにカウンターが左右にできていて、ギルド設立やその他の手続き用NPC等が立っているのが見える。そのまま俺たちは地下室へと移動していく。


「初めて入った」

「そうなの?」

「今のところ土地が必要になったこともギルドに誘われたこともないからな」

「まあ、今はギルドでのメリットとかわかりやすいのは実装されてないしね。それに、アキはまだ第2の拠点にも行ってないわよね」

「まだだな」

「あそこから先になってくると、やっぱり結構変わるのよ。だから、まあ覚えておいて損はないわよ。ってことでついたわ」


 話しているうちにギルド協会地下の1室にたどり着いた。それなりの広さの部屋で、中には人が列を作っている。


「うわぁ、すっごい数だな」

「それだけ人気ってことよ。ほら並ぶわよ」

「はいはい」


 最後尾を見つけて並ぶこと25分程度で、受付までたどり着くことができる。NPCも作業を手伝っていて、見た目ほどの時間はかからなかったようだ。


「今回はありがとうございます。受付の方はこちらに名前をお書きください」

「あ、すいません。代理のものなんですが」

「それでしたら、一番右にいるNPCにお話しかけください」


 そう言われて、俺は移動する。右端でポツンと立っているギルド協会の制服のNPCだ。


「どうかいたしましたか?」

「代理できたんですが、受付の方をお願いしたいんですが」

「了解いたしました。それではここに、代理人の名前と受注者本人の名前・ID・確認番号のほうをお書きください」


 NPCがそういい終わるとキーボードパネルがでてきて、入力できるようになる。俺はナツの名前やIDにチャットで送られてきていた数字を入れる。数秒後にNPCはふたたび口を開いた。


「確認を完了いたしました。こちらが抽選券になります。ご本人様にお渡しください」

「ありがとうございます」


 受付はこうして終了した。ティアのほうも無事に抽選券を手に入れられたようで何よりだ。


「それじゃあ夕飯だし1回ログアウトするわ」

「私も1回ログアウトするわ。8時に私の露店でいい? お風呂とかも入りたいから」

「俺も風呂とか入ってくるかなそれなら。8時な、了解」

「それじゃまたね」


 そう挨拶して、ギルド教会を出たところでログアウトする。


 ちょうどその頃に、補講で頭がパンクして疲れ切った夏海ちゃんが帰ってきたので、抽選券をもらえたことを伝えると、すぐにテンションがフルスロットルになったりした。

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