第47話 鍋と方針
「あ、おかえりなさい」
「ただいま。なんかあったか?」
「こちらでは特に何も。でもポーションが結構な数できましたね。そちらは?」
「カニと釣り竿とイベントクエストの開放と花だ」
「花とれたんですね……まぁ、ティアが戻ってきたら報告ということにしましょうよ」
「だなー。リーフ、荷物の整理頼んだ。夕飯つくる」
「はーい」
俺は本日はカニと昨日の残りの果物と肉少しで何が作れるかを考える。
カニ料理なんて正直食べたことがないから、塩ゆでぐらいしか思いつかないんだよな。ただ問題は、現在ここには鍋が存在しないということだ。
幸いにもゲームということでアイテムインベントリに入れておけば鮮度がリアルと同じように即座に落ちるみたいなことはないんだけど、でもやはりゆっくりとは落ちてしまう。
カニに関して食べるなら今日をおいてほかにはないと考える。
あ、身を崩して炒飯とかもありだな。どこかのテレビで見たことあるし……いや、それでも結局鍋が必要だ。ティア、鍋とか作れないかな。
ひとまず、カニは後回しにするためにアイテムインベントリの中にしまい込んで、肉を焼いていく。
果汁を使うと柔らかくなったり甘味がつくかも知れないとか、今日は試してみよう。
しばらくそうして各々が役目を果たしていると、空がオレンジで染まりきった頃にうなだれた姿のティアが戻ってきた。
「どうした?」
「収穫が微妙だった……ほかのパーティーと協力で遺跡潜ったけど耐熱装備なんて影も形もないのよ。まあ、アキへのお土産はとれたけどね」
「おみやげってなんだよ」
「はい、鍋」
「…………お前、マジか」
「あれ? もう持ってた?」
「いや、持ってなくて必要と思ってたところだった。ナイスタイミングすぎる!」
「それならまあ、収穫はあったってことになってよかったわ。じゃあ夕飯期待してるわね……武器の耐久直さないとやばいのよ」
「お疲れ」
俺は作り終えた肉料理をさらに盛りつつ、カニのハサミが隠れるほど水を入れた鍋を火にかけて塩をいれる。
「本体丸々入れてた気がするけど、アイテムとして手しかでてこないし仕方ないよな。成功してくれ!」
このゲームでは料理が失敗すると、よくわからない黒の物体になり変わる。レシピ自体があっていれば、【出来の悪いなんたら】とかそういうことになる場合もあるけどな。
様子を見ていると段々と綺麗な赤色に染まっていく。そして見覚えのある色になったところで、鍋から取り出すと【茹でガニ】という名前の料理が完成して、レシピが登録された。
「よしきたー!!」
思わず大声をだしてしまって、少し恥ずかしくなる。
「夕飯できましたか?」
「お、おう。できた」
「じゃあティア呼んできますね」
「頼んだ」
あえて気にしないでくれるミドリの優しさに感謝しながら、俺はリーフを呼んでこようと思ったが、後ろを向いたらニヤニヤしてる顔が見えた。
「……なんだよ」
「なんでもないよ?」
「悪いかよ! 喜びたいんだよ!」
「気持ちはわかるから。でも、現実を知ってるからこそ、可愛いなって」
現実を知っているからこそ、ゲーム内だとそこまで押しが強いことにたまに疑問が浮かぶよ。
飯を食べながら今日の結果をそれぞれ報告する。
「遺跡の攻略を複数人で行ってきたけど、すくなくとも私たちに得が強そうなものは発見できなかったわ。この鍋もモンスターのドロップ品だったから」
攻略とか武器とか防具を狙う分にはいいけど、耐熱装備や生産に使う何かを求めるにはもっと効率のいい場所がありそうってことだな。
「まあ、予定通り入手した薬草類でポーションをそこそこ手に入れられたので、明日から本格的な探索にでても大丈夫だと思います。ですが、氷結草と炎熱草の使い道は残念ながらわかりませんでした」
冒険に出れるようになるだけいいと思う。
「あたしたちは予定通り洞窟内に侵入するところまではよくて、花も簡単に手に入れられたよね」
「まあ、そのあとにドラゴンのモンスターが巣に戻ってきて遭遇した。そしたら三つクエストがでてきたってところだ」
そう言って俺はクエストをパネルに表示して、2人に見せる。
「撃退に討伐に卵運搬ね。まあ前者2つに関しては高レベルプレイヤー向けよね、どう考えても」
「40レベルだったからな。俺たちができるとしたら卵ぐらいだ」
「食用のドラゴンの卵というのは少し味が気になりはしますが、今回のイベントで死ぬリスクをおかしてまでやりたいかと聞かれれば微妙なところですね」
俺もミドリと同意見なんだよな。もう少しうまみが目に見えてあるなら別なんだけど、イベントポイント高そうといえど、どれくらいなのかがわからない。
「まあ、ひとまず明日に急いで達成するってのはなしってことでいいか?」
「私はそれでいいわよ……ていうか、耐熱の対策どうにかしたいのよね。掲示板でも見つからないから、お手上げよ」
「わたしはまた薬草集めとか、氷結草と炎熱草の使い道の模索をしていきたいので、ドラゴンは明日はなしのほうがいいですね」
「あたしも今日みたあれで、結構お腹いっぱいだから、明日はいいかなぁ」
「そんじゃ、そういうことで。明日はまた、各々朝に行動決めて動こう。今日は夜はどうする?」
「私とミドリが先で、アキとリーフがあとに見張りでいくわよ」
「おう」
「りょうかーい」
食事を食べ終えて片付けを済ませたころには日が落ちて空は星が色づいていた。
見張りの順番もあるので、早めに俺は眠りについた……そして、交代で起きた時に昨日とまったく同じことをしてることに気がついて、自分の馬鹿さ加減に恥ずかしくなった。
ていうか、いちおう男だって知ってるんだからもう少し意識してくれていいのに。
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