第18話 荒野の生活




この世の果てのようなマウンテンホームではご近所と話が唯一の息抜きだった。

特に仲良くなった人たちは隣りに住むアメリアそれから向かいのジョリーン。


金髪美人のジョリーンとは特に仲良しになったが、ロスアンジェルスの荒れた地区出身の彼女の英語はFワード満載だった。

ジョリーンの娘と私の息子は同じ幼稚園に通い出した。歩いて10分もかからない場所だけど、冬はマイナス15度にもなるのでジョリーンが車で送ってくれていたのだった。

後ろに2人子供を乗せているのに

「でね、ファッキンマックの新しいファッキンバーガー買おうとしたら、「もうない」なんてファッキン店員が言うのよ!ファッキンむかついたわよ」


「ジョリーン!後ろに子どもいるでしょう?」

アメリカでは子供の前では絶対に使ってはいけない言葉です。

「あ、そうかごめんごめん!ファッキンど忘れするのよ!あ、いけね!ファック!!ぎゃはは」

美人なのに台無しだ。

毎日そんな話をして本当に「生きた英語」に触れ合っていた。

隣のアメリアがゴシップクイーンだったのだが、なんと彼女自身あちこちの男性と浮気をしていた。

ジョリーンとアメリアは大の仲良しだったのだが、ジョリーの旦那ともできてしたらしい。このことはずっと後で知ったのだが、こんなアメリカ昼メロドラマのようなことが本当にあるんだなあと、完全に部外者の私は興味深く話を聞いていた。


そして皆がはまるのがタトゥー。時間ができるとあちこちにタトゥーを入れていた。本当にやることがないんだなあ。

娯楽といえばキャンプ、魚釣り、それから私は嫌ですがハンティング。男達は鹿撃ちに行く人が多かった。

夫は射撃得意だが、動物大好きでハンティングは絶対に行かなかった。


カリフォルニア出身の夫と東京出身の私。基地育ちの息子。どんどんアイダホと距離ができてきた。日曜日になるとボイジーという首都、タウンまで1時間半かけて砂漠の荒野を運転していく。

このタウンだけが唯一の楽しみだった。洋服のショッピング。レストランに行って帰る。楽しみはそれだけ。


 一番つらかったのは和食が全く食べられなくなったことだ。味噌さえ売っていないアメリカ。こういう場所とLAやニューヨークと比べてはいけない。

同じアメリカ生活でも随分違うと思う。


日本人数人で月に一回食事会をしていた。日本から送ってもらった食材を用いて和食を作り皆で食べるのが、本当に楽しみだった。


味噌を送ってもらった私は、豚汁を作った。ポークはあるけれど、アメリカには薄切り肉がないのだ。なので塊をスライス。大根もこんにゃくもないのでキャベツや人参を入れて。お豆腐は紙パックのものがあるので、それを薄く切って油であげて油揚げにして入れた。

すごく喜んでもらえた。ある人はパンでぬか床を作ってつくったぬか漬けを。ある人は魚をフードプロセッサーでつぶして油であげたさつま揚げを。日本人嫁たちはそんなふうに創意工夫して暮らしていたのだった。





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