第2話 初デートは助六の思い出
まだ友人としてグループで会っていたころ、電話番号を聞き出すことに成功した。すごく怖かったけど思い切って電話をしてみた。
あわあわしないように、前もって言いたいことを紙に書いておいて練習してからかけた。しかし生電話やはり慌ててしまった。
「Hello!How are you?」という挨拶の後に、突然
「I like you!!」好きだ!
と言ってしまった。 今書くとすっごく恥ずかしい、中学1年生の英語だ。
そして、続けて言ったのは
「Take me out!」
自分としては
「どこかに連れてってくれる?」みたいな甘い感じと思っていたけど、今考えると
「どっか、連れてけ!」に近いかもしれない。というか、そのままだ。
彼はびっくりしたかもしれない。おとなしく優しいとアメリカ人男性が憧れる日本女性がいきなり
「好きだ!どっか連れて行け!」
脅迫だ。
まあ中学英語でもこうやってデートが始まったのだから、基本は大事だなと思う。
そんなふうに私の英語はまだまだ片言で、夫の日本語は単語20個位。
長めのセリフは
「トイレはどこですか? 」くらいだった。あと
「ビールをください」
「うん、この2つは大事だよ」と今でも言っている。
初デートはお互いがハンディー辞書を持っていった。今の時代ならスマホでちょいちょいっと英単語が出てくるのに、辞書をめくるダサい私達。 でも、それもいい思い出だ。
初デートは新宿にした。
待ち合わせ場所に現れた彼は、なんと胸一面に大きなカブキの絵が書いてあるTシャツを着てた。しかもでっかく(助六)と書いてあった。
すけろく!!だせえ! いや助六は悪くないけど、Tシャツ一面にどでかい顔のアップ!今だったら大笑いするデザインだけど、その時はなんだかとても嬉しくなってしまった。
日本が大好きで一生懸命日本語を習おうとするでっかいスケロク、いや外国人。
その日はメモ片手に新宿観光をした。前日英会話の本を見ながら(ここは新宿都庁です)とか(この辺は高層ビルが建っています)を英語で書き込んだメモ。
たどたどしい説明にオーバーにOH!!と喜んでくれた。
なにか食べるたびに
「OH!おいし~です!」と大喜び。
道端で売ってる小さなおもちゃを見つけて
「OH!かわい!」 露天のおにいさんも
「お!ガイジンさん!歌舞伎だね!助六かい!嬉しいね、似合ってるよ!」と嬉しそうに言ってくる。やっぱりうれしいよね。
「えっと、これ、くーださい」と竹でできた鳥を差す。
「ありがとうね!ひとつ?ワン?」
「も、ひとつ!ツゥーください!これ」
そこで売っていた薄い木でできた首が動く鳥とトンボのマグネットを買って、一つを「はい、プレゼント!」と渡してくれた。
この日、朝から夜まで一緒にいて、帰りには手をつないでいた。
朝待ち合わせした時はただの友達だったけど、一日一緒にいて夕食を食べる頃にはすっかり意気投合していた。
夕食はしゃぶしゃぶを食べに行った。
「こうやってね、お肉を洗うようにするの。しゃーぶしゃーぶってね」
「しゃーぶしゃーぶ」
「そうそう、上手!しゃーぶしゃーぶ」
バカップルだ。
この日の楽しさは今でも忘れられない。
その後なんと数ヶ月で結婚することになり、あれよあれよで28年も経った。
いまでは変な日本語を話すおっさんと変な英語を話すおばはんの中年夫婦になった。
そんな私達の日常を綴っていきたいと思う。
ちなみに新宿の露店で買ってくれた木でできたトンボは羽は折れたけど今でも宝箱に入っている
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