第3部 アメリカ生活

アイダホ編

第16話 アイダホ生活はじめました。



 今のようにインターネットもほとんど使えず、アイダホ情報もほとんど入らないまま、出発の日を迎えた。


日本からバスが出るとき、たくさんお友達が集まってくれた。親友夫婦も小さい娘さん2人連れて駆けつけてくれた。笑顔でバイバイと言いましたがバスが出た途端べそべそ泣き始めた。そして親友ちゃんも崩れるように号泣したそうだ。ごめんね。


その日は隅田川花火大会でなんと成田を飛び立った飛行機から下を見ると花火がいくつもいくつも上がっていた。

普段絶対に使わない言葉なのに「祖国!!」とまた号泣。日本を離れた日。


「でもアメリカできっと楽しいことあるよね」楽天家の私は結構楽しみにもしていていたのだった。

「アメリカの田舎どんな感じかな? 映画で見る郊外型のきれいな感じかな?」


そして、アイダホの空港へついたら


本当に、なにも、なにも、なかった。


小さな空港からタクシーに乗り基地の場所をつげたら1時間半くらいかかるとのこと。運転中の景色が砂漠、ずっと砂漠。 


「この辺りはそうなんだ、へー映画みたいだね」なんて言いながら一眠りして1時間くらい立ったら、景色が同じだった。

地平線まで続く一直線の道。両側は砂漠だった。いつまでも果てしなく。

右も左も後ろも地平線。360℃地平線。


正面を見るとほんの少し丸みをおびていた。

お母さん、地球は丸かったよ。

悲しいほど何もない大地。


そしてまた基地の中で暮らし始めたのだが、荷物は3ヶ月つかないと言われ、何もない家の中で3人で身を寄せあって暮らした。


とりあえずキャンプ用の空気入れて使うビニール製ベッドを買って、その上に3人で寝てた。

1人が寝返りをうつと2人跳ね上がる、そんなベッド。


家の中にも何もない、家の外にもないもない。そんな、ないないづくしのアメリカ生活。

せめて、小鳥でも愛でようと、かわいい餌台を購入して外の木にぶら下げた。すぐに雀を小さくしたような小鳥がたくさん来た。

「うふふ、かわいいなあ」

そこへバサーっと降りてきたのはでっかい鷹。 なんと小鳥を掴んで飛び去って行った。ショックで固まる私。 なんという野生の王国。


小鳥の餌台を作ろうとして、鷹の餌台をつくっちまっただよ。


2度めにバサーそして、また捕まる小鳥。

ガラーッとガラス戸を開け

「こら~!!!」と叫ぶとびっくりして小鳥を離して飛んでいった鷹。

「勝ったわ、鷹に」とアイダホ人になった瞬間だった。


マウンテンホームの生活は最初は珍しかったものの、あまりの野生というか、

ど田舎で、日本が恋しく泣く日も多かった。


自分で選んだ人生とはいえ、アメリカ暮らしがまさかこんなだったとは。うわーんと泣くと遠くでコヨーテがウオーン。 

うわーん

ウオーン

うわーん

ウオーン

見事にハモっていた。


コヨーテが多くて、猫は外に出してはいけないと決まりがあった。そう、理由は食べられるから。犬だって危ない。

家の塀の向こうに馬が歩いていたので「のら馬か?」と思ったら基地の中なのに馬に乗っている人がいた。

風の強い日はタンブルウイーズと呼ばれる大きな枯れ木の塊がゴロンゴロンと転がっててくる。西部劇の世界。

そして西部劇の世界そのもののカウボーイという職業が多かった。

職業が、カウボーイ。


基地の小さいお店に行く道もカチカチの砂漠で、ボッコボコに穴が空いていて危ないのだった。ホイッスルピッグといってプレーリードッグのような動物がたくさんいた。

「うわあ~かわいい~~~」でも繁殖期を過ぎ一斉に穴から顔を出しピーピー鳴き出す。この様子はつくしのようで可愛くない。

「うるせー!」

その声にそしてコヨーテがウオーン。


ここに数人日本人が居て仲良しになった。1人は基地ではなくさらに田舎に住んでいるといっていたので「え?もっと田舎?」と思わず言ってしまった。「うん、もう本当に何もないの!鹿とかムースが多いんだけど、でっかい蛇も出るんだあ」

きゃ~~

「昨日見た蛇はお腹が膨らんでたからお食事中だった」

きゃ~~


そして近所に住んでいるアメリカ人ともとっても仲良くなった。外でコーンの皮を剥きながら世間話をした。都会ではなかなか経験できないで。


近所の人達は娯楽がないマウンテンホームで浮気ばかりしていた。


とうもろこしの皮を剥きながら

「2軒めの旦那と裏の奥さんができてるんだって」

ふーん。

「5軒めの妊娠中の奥さん、本当の父親は違うらしいよ」

ふーん。


なかなか興味深い会話だ。この頃には会話には困らない程度だったので、積極的に井戸端会議に参加してた。


それからこの地区はアジア人というか白人以外居ない地区だった。基地の中は別だけど、一歩外に出ると…

見られる、見られる。

遠慮しないでがん見だった。

そして白人の夫も見られていたのは髪の毛が黒っぽいからだった。


ドイツ系の子孫がほとんどのこの地区はほぼ全員金髪なので「え?髪の色が!!黒い?」と驚かれます。

私はあまりにも見られるので気分を害していたけれど、ある日いつものようにジーっと見つめられ、強面のおじさんがそのままスタスタとこちらに向かってくる。

ひゃー怖い!アジア人出て行けとか言われたらどうしょう。とビビっていたら


「どこから来た?日本?」とニコリともしないで聞く。

「Yes Japan」と逃げようとしながら言うと、すっごい笑顔になって


「わーーー日本人はじめて見た!!すごい!!握手してください」と言われコケそうになった。

その時にジロジロ見るのは人種差別だけではなく「珍しいから」というのもあると学んだ。











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