第12話 基地での出産


息子が生まれたのは基地の中の病院だ。 当時は妊娠用語も出産用語も本当にわからなくて、(海外で子供を産む本)を隅々まで読んだ。


世界中どこでも赤ちゃんの生まれかたはだいたい同じだと思うが(自然分娩か帝王切開)用語がわからない。 


ただでさえ不安なお産。 全員がアメリカ人でしかも軍人なので、きっとランボーな人もいるとおびえる日々。


日本人妊婦そして基地で生んだ女性が集まった時にいろいろな話を聞いてみた。

一番驚いたのは日本では痛みを我慢すると(我慢強い)と褒められるのに、アメリカでは怒られるのだと言い。


「言わなくちゃわからないじゃない、あなたの口はなんのためについているの!」って言われたのよ。 


全員ひえ~~とおののく。


「産んだらすぐに退院よ、1日よ」


全員ひえ~~。


これは全て本当だった。次の日に退院だ。疲労マックスでふらふらで家に帰った記憶がある。当時の日本は2週間入院で母乳マッサージを習い祝い膳まで出ると聞いて、すごく羨ましかった。


妊娠中も数々のひえ~~があった。

超音波は通常1回しかとってくれなかった。 

日本では毎回写真をくれると聞いた。映像にしてビデオでくれるというではないか!?これも羨ましい!

1回って!夫が医療関係者ということで友達サービスでもう1回。たったの2回だけ。

なぜ毎回写真を撮って、それをくれないのか聞いてみた。 


「なぜなの?」と聞くと肩をすくめて


「さあ?高いから?」


え~~~~~? 


「健康なら必要ないじゃないか?すぐに生まれてくるのに。それに高いから」


やっぱりそれなんだ。

こまけえことはいいんだよ、なアメリカ。 

妊婦の体重制限はほとんどなかったので、これをいいことに食べに食べ太りに太った。

家のそばにあったこともあり毎日ピザとアイスを食べ続けた結果なんと25キロ増で生まれる寸前はもっと増えていた。これは日本では怒られるだろう。


それはきっちり自分に返ってきた。 赤ちゃんが大きくなり生むときに大変だった。


「ぎゃ~~なにかが、引っかかってるうううう」と叫ぶと


「なにか、じゃない。Babyだよ、はいプッシュプッシュ」こちらでは「いきむ」ことを「プッシュ」と言う。

プッシュを繰り返し生まれた赤ちゃんは約4000グラムと大きかった。


この出産の時も医者が少なく、先生は行ったり来たり。「あ、あっちが先かな」と隣に行ってしまったり


「ああ~行かないで!!」

「イッツオッケー」なんて行っちゃった。オッケーじゃねえ、カムバーック!!


隣から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきて「負けたあ」と思った。

しかし生まれそうで生まれない。だって引っかかってるから。

夫はそばにいて手を握ってくれていたが、正直「触んじゃねえ」という気持ち。というかそれどころじゃない。痛い痛い生まれない。


そして医者は

「うん、スプーン使おう」

スプーンって!!スプーンて何??

これは鉗子のことだった。鉗子分娩になった。スプーンはサラダを取り分けるサラダスプーンに似ているからだと聞いたことあるが、真偽のほどはわからない。


「なんでも良いから早く~!!」大騒ぎしても怒られなかった。

先生罵声は浴び慣れてると見た。

「オッケ~プッシュプッシュ」と言いながらスプーン、いいえ鉗子を手に近づいて来る。

そうやって生まれた息子。顔に赤い鉗子のマークがついていた。


夫はすぐに話しかけ赤ちゃんのビデオを撮り、私の顔も撮り(酸素マスクをつけて感動というよりも疲れきって呆然とした顔)後処理している所も撮り(やめてください)

ものすごく大喜びだった。


お父さんとお母さんになった瞬間だった。


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