第15話  救命士



日本にいた当時夫は緊急救命士をしていた。しかも救急車ではなく飛行機で患者さんを運んでいた。

 主に基地から基地へ設備の整っている場所へ緊急患者さんを運ぶ。夜間の急な呼び出しもある。素晴らしい仕事だと思うが、赤ちゃんを抱えて一人でとても大変だった。

ある日緊急の呼び出し、そして

「数日帰れないかもしれない」とフライトスーツに着替えながら言うので

「え!なにかあったの?どこに行くの?」

「それは、国家機密で言えないんだ……」

「え?国家機密? ふ~ん」


夫は真面目で、すごく仕事熱心。非常に厳しい軍人だ。職場では家でのおもろい顔と全く違う顔なのだ。


「ごめん、行ってくる」飛び出してく夫

「うん…気をつけてね」

わかってはいるけれど寂しいなあ。危ないところなんだろうか。


 翌日、まだ赤ちゃんの息子を膝に乗せて

「おとうたん、どこかな~、いつ帰るかな~」と話しかけていた時

ふとテレビを見るとニュースで

「Y基地のクルー、ロシアに到着しました」と夫の飛行機が映っています。


え~~~~~~~国家機密??テレビでやってるけど?


毒蛇に噛まれたロシアの要人を運び…なんていう内容だったと思う。

「おとうたん、ロシアにいるよ~~」

日本のテレビ局よくこういうのをやるらしい。機密もれもれだ。

テレビに教えてもらった!帰ってきて早速

「ロシア寒かった?」と聞いた時の驚いた顔は忘れられない。


国家機密(Classifird infomation) 仕事柄使うことが多いこの単語。 

Y基地の地下でUFOを作っているという都市伝説を聞いたので車の中で聞いてみた

「し!!それは大変な国家機密だ!」とふざけて使ったりもしてた。え?ふざけているんだよね? 怖いよ!


この頃、夫は基地の中の大学で日本語入門のようなクラスを取っていた。私の方はESLという英語が母国語ではない人のためのクラスを取っていた。

同じ日に時間差でクラスがあった日は、赤ちゃん息子を連れて行って、夫が連れて帰ったりもした。

懐かしい思い出だ。

Y基地で息子を出産して4歳まで駐屯していた。夫は出張が多くほぼシングルマザーのように暮らしていた。ある日ついに本土移動の命令が来た。

次の勤務地、なんとアイダホ。 チーン。

ものすごいど田舎だと言われた。

「次はどこに行くの?」と聞かれて

「アイダホのマウンテンホーム」と言うと、皆横を向いて

「アイム・ソーリー(お気の毒に)」と言うのだ。顔色が青くなっている。


当時私は夫の故郷である北カリフォルニアしか行ったことがなかった。

サンフランシスコ、オークランド、そしてすごく綺麗なモナクリーク。すごく素敵なところだった。

だから「お気の毒ってってなんでよ?」と不思議だった。まだまだ【あなたの知らないアメリカ】があることをこの頃は知らなかった。




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