第32話 特別機動部隊 “漆黒の鷹”

 親にはまったく歯が立たなかったが、分裂し増殖した子疫鬼こえききには効果があった。


 ナーティとぬえ、五条を襲っていた金色こんじき鱗粉りんぷんにまみれてそのまま倒れていく。


 一方ベクは、がかぶさるようにして襲いかかってきていたため、降ってきた蛇はすべての身体に食らいついていた。そのまま蛇が消滅するとともに、は金色に輝いたまま倒れた。ベクは口から泡を吹き、失神した。


 穴の中で座り込んでいる親疫鬼は唸り声をあげた。ゆっくりと細長い脚を開き、立ち上がろうとしている。


「まずいなあ、このまま動き出して町に出られたら」


 藪鮫やぶさめ九尾剣きゅうびけんを構えなおす。ヘルメットのインカムが鳴った。


「こちら第三方面特機隊“漆黒しっこくたか”です。藪鮫保安官殿、ご無事でしょうか」


「あぁ、ご苦労さん! 待ってたよぅ。今どこかなあ」


「現在、金生山きんしょうざん上空です。地上がライティングされておりますので、肉眼でもそちらが確認できます」


 藪鮫はちらりと天を仰ぐ。結界けっかいの影響でホバーリングしているヘリコプターのローター音は聞こえないが、星の明かりよりも強い光源が見える。


「ただ強烈な結界がその辺りを包んでおりますので、我々では対処できません。いったいどなたがそんな結界を張られているのでしょうか」


 そうか、この結界がある限り、妖物が外へ出ることはできないかわりに、外部から手も出せないんだっけ。藪鮫は苦笑する。


「うん、ここにはで活動している、心強い助っ人さんたちがいてくれてるんだよ。

 出現した疫鬼はこの結界から出ることができないから、なんとかやってみるねえ」


 検非違使庁けびいしちょうの特別機動部隊が到着してくれたとは心強い。藪鮫はもう一度上空に視線を送る。


 特別機動部隊とは、完全武装した異形いぎょう退治のエキスパートたちである。通常の自衛隊や警察で使用する武器はもちろん、藪鮫が今使用している対妖物用兵器も扱う。


「彼らがバックアップしてくれるなら安心だな。さあって、それじゃあやっちゃうとしましょうか」


 立ち上がった疫鬼に、藪鮫は涼しげな瞳を向けた。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る