第18話 パトカーを停める乗用車
だが軽トラの二倍以上の排気量を持つトヨタクラウンをベースにしたパトカーは、軽トラとの距離を縮められない。
なぜなら運転手の技術、ではなく単に珠三郎が、スピードの対する恐怖が本能から欠落しているからであった。
パトカーのハンドルを握る
しかし珠三郎はブレーキを踏むつもりは全くないため、アクセルペダルをベタ踏みしていた。「その気になれば、ノンストップで本州を北から南まで走っちゃうんだもーん」である。
もちろん運転技術はレーシングドライバー並み、いやそれ以上の能力を持っているからであるが、それを一般道路で見せつけられても迷惑なだけである。
「停まれったら停まれーっ、軽トラー!」
マイクに唾を飛ばしながら助手席で仁王のように怒り心頭のハマさんに
「ハ、ハマさん! あんなスピードで走っていたら大事故につながりますよっ。至急本部に応援要請してください!」
田中は必死の形相でハンドルを握り、叫ぶ。
「よっしゃーっ!」
ハマさんは無線機で本部を呼び出そうとした。
「アー、アー、マイクのテスト中」
いきなり無線機のスピーカーから妙に気の抜けるような、のんびりとした若い男の声が、警官二人の耳に聞こえた。
田中は前方を睨みながら、チラリとハマさんに視線を送る。ハマさんもギョッと目を見開いてスピーカーを凝視した。
「聞こえてますかあ、お巡りさーん」
人を小馬鹿にしたような口調に、ハマさんは怒鳴った。
「だ、誰だっ! 警察無線に割り込みやがって!」
「あははっ、聞こえてるんだね。それならいいよ。あのね、今から言うことをよーく聴いてね」
「どこのどいつか知らんが、緊急走行中に妨害すると公務執行妨害で」
ハマさんが大声で叱咤しようとする声を、謎の相手は途中でさえぎる。
「こっちも公務執行中でさあ。いいかいお巡さん、すぐに追跡をやめてほしいんだ」
「はあっ? 貴様、警察をなめてるのかっ」
「いやあ、なめてるつもりはないんだけどなあ」
涼風のような緊張感のない声が言う。
「もう一回言いますよぅ。ただちに追跡を中止しなさい」
ハマさんは血管が切れそうな真っ赤な顔で怒鳴った。
「てめえっ、いい加減にせいよ!」
「仕方ないなあ」
プツンとスピーカーから音声が途絶えた、その時。
「ウワーッ!」
ハンドルを握る田中が悲鳴を上げた。キキキッ、ガクンッ! と急ブレーキによって警官二人は叫びながら前につんのめる。
追い越し車線を走っていたパトカーの前に、いきなり走行車線から一台の乗用車が割り込んできたのだ。
つづく
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