第22話 ミリタリー・オタク?

 珠三郎たまさぶろうはタブレットに指をすべらす。


「ほうほう、さすがに早いな。あの緑色の鬼がいる地点から半径一キロメートル内を囲って、結界けっかいを構築しまーす」


 ポンッと口で言いながら珠三郎は画面の一部を押した。直後ナーティは視覚ではとらえられない透明な膜が、周囲に張られていくのがわかった。


「おーっと!」


 いきなり三人の背後で声が上がり、人影がジャンプしながら大地に転がり立ち上がった。


「うむっ」


 ナーテイはすかさず手にした日傘から、細身の日本刀を抜いた。白銀の刃が星明かりを鋭く反射させる。


「あれまあ! イッちゃんじゃないかえ」


「ええっ?」


 ぬえの声にナーティは目をこらした。


「すごい、すごい。いやあ、大したもんだ」


 パチパチと拍手しながら近寄ってきたのは、藪鮫やぶさめであった。


「あははーっ、ぬえちゃん、こんばんはぁ」


 飄々とした声で藪鮫は手に着いた土を払う。


「へえっ、ただ者じゃないって思ってたけど。こんな結界を張れるなんてすごいや」


 ナーティは、ヘルメットをかむり辺りを見まわす藪鮫に視線を飛ばした。


「あなた、とってもイイ男だけど、いったい何者なのかしら」


 ぬえも首をかしげている。


「ほうじゃなあ、いつものイッちゃんとは、ちと違う香りじゃわいなあ」


 藪鮫は笑顔のまま、腰に手を当てる。


「へへっ、僕は僕だよぉ、ぬえちゃん」


 涼しげな目元をぬえに向ける。


「それにさあ、お互いに秘密があるほうが、燃えるでしょ?」


「んじゃなあ、おほほほ」


 珠三郎は遠慮のない好奇心を向ける。


「ほほう、どうやらミリタリーオタクとお見受けする。しかし、そんな制服はアキバでも見かけないけど。もしかして、手作りぃ?」


「それよりも、早く行かないと、源ちゃんがあの化け物の餌食になっちゃうわよ!」


 ナーティは叫んだ。


「ほうじゃったわい、げんちゃんを救わねば」


「ぬえちゃんはここで待っていて。僕が行くから」


 藪鮫がウインクする。


「そうはいかぬわえ。わしの大事な想い人のひとりじゃでな」


 ぬえは曲がっていた背中をピンと張り、つえを肩に担ぐといきなり駆けだした。老婆とは思えぬ猛スピードで。


「ちょっと待ったあっ、ババア!、じゃなかった。ついつい地が出てしまうわ。

 おばあさまぁ、ワタクシが参りますからっ!」


 ナーティは日本刀を肩に乗せ、こちらも巨体に似合わない脚力で大地を響かせて走る。


「まあ、主役は当然最後に登場するのが当たり前だからね、ぐへっ」


 珠三郎は腕にリュックの肩ひもを通し、ゆっくりと歩き出す。


「重そうだねえ、それ。じゃあ僕が手伝ってあげる」


 藪鮫は走り出そうとして珠三郎に気づき、大きく膨らんだリュックを片手で軽々と持ち上げた。


つづく

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