第15話 秘宝の正体
すでに太陽は沈み、
麓に設置された採掘現場には、夜間用のライトがポールに吊るされ大地に淡い光を落としていた。
大地には二十五メートル四方に、深さ三メートルほどの採掘された窪みがある。
リンメイの奇怪な呪法によって眠らされていた、作業員たちと五条の姿がない。
中尾が窪地に降りてロープで括り、それを上から小笠原と武本が二人がかりで引く。とんでもない重労働であったが、百目のピストルの前では従わざるをえなかった。
スーツの上着を脱いだ武本と小笠原は水を被ったような汗に全身を濡らしていた。最後のひとりが窪地から引き上げられた時には、両腕がしびれて土の上に寝転がる始末であった。中尾は自力で窪地から上がる。
「先生、大丈夫ですか?」
中尾は謀反を起こそうとしているにも関わらず、口先だけの声をかける。
「な、なんでわしがこんな目に合わにゃならんのだっ」
お気に入りのゴルフウエアは土にまみれ、小笠原は悪態をついた。
涼しい顔で百目は労いの言葉をかける。
「ご苦労さまですな、ミスター小笠原」
「き、きさまぁ!」
小笠原は立ち上がろうとしたが、銃口を向けられて再び大地に尻餅をついた。
窪地は掘り返された土の、生臭い香りがあたりに漂っている。百目は目線だけで窪地を一瞥し、リンメイにうなずいた。
リンメイは土器を持ったまま、ふわりと窪地にジャンプする。
「さあ、舞台は整ったわけです。それでは今からあなたたちに特別に鑑賞していただきましょう」
百目の言葉を合図に、リンメイが動き始めた。
窪地の真ん中で緑色の土器を、リンメイは不思議なイントネーションの呪文を唱えながら筒先をかたむけ歩く。すると土器から一筋の緑色の液体が流れ出した。。
直径三メートルほどの円形に五芒星が液体によって書かれ、さらに五つの先端の中に文字が描かれる。
あの文字は?
中尾はリンメイが描く解読不能の文字を盗み見た。
(たしか、あの形はそう、ハングル文字ではないか?)
小笠原が身をのり出してリンメイの動きを凝視し、百目をふり仰ぐ。
「おい、いったい何が始まるんだ?」
小笠原は問いかけながら、横目で武本の動きを追った。
窪地に集中している百目の死角にゆっくりと移動する武本。
パンッ!
乾いた音が山裾に響いた。
「ウガッ!」
ドスンと重い荷物が地面に投げ出される音。武本は額を撃ち抜かれ、崩れ落ちた。
「た、武本っ!」
中尾が叫んだ。
「ああ、言っておくのを忘れておりました。私はこうみえて射撃の腕はいいのですよ。儀式が済むまでその場から動かないでくださいね」
百目はニヤリと笑みを浮かべて小笠原と中尾を振り返る。その表情は仮面を取り払った悪魔のように、残忍な色が浮かび上がっていた。
「用意、できた」
下からリンメイの声が聞こえる。
「OK、じゃあ始めようとしますか」
たった今、ひとりの人間の命を奪ったとは思えぬほど、百目の声音は明るかった。
「我らの
空にはいつのまにか黒い雲が何層にも重なっていた。
中尾は足元がぼんやり照らされるのを、不思議な感覚で見つめる。灯光器の光ではない。淡い黄緑の、そう蛍の灯火をいくつも集めたかのような光がゆっくりと地面に浮かんできているではないか。
その光は窪地の部分から、煙がたゆとうように這い上がってきていた。
「うふふ、さあみなさん。いよいよ千年の時を経て、待ち望んだ宝が復活しますよ」
「た、宝って、
小笠原は窪地から離れようと尻で後ずさる。
百目は残忍な目つきで小笠原を見た。
「宝とはそんな下賤なモノではない。よく見ているがいい。我らの先祖がこの国に隠していた秘宝。ようやく国家再建のために今こそ活用する時がきたのだ。
我が祖国、朝鮮半島に生まれし宝、『
百目は嬉しくてたまらないといった声で叫んだ。
つづく
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