第21話 タマサブ、結界を張る

 珠三郎たまさぶろうは眼鏡のブリッジを押し上げた。


「うむむ。あの奇ッ怪な鬼は果たしてナニモノ? ボクの蓄積した資料でさっそく検索」


 言いながら背中に設置したPCをアームごと胸元に回し、操作する。


 三人は軽トラを廃工場の横に停め、暗がりの中で腰をかがめていた。


「そんなことより、アンタ、早く助けに行かなきゃ!」


 ナーティはずいっと立ち上がった。手には日本刀を仕込んだ日傘を携えている。

 ぬえはピンク色の杖を両手でつかんで「よっこらせ」と腰を立てた。


「検索している間に、ちょっと使ってみますかな」


 珠三郎はかたわらに置いた巨大なリュックからアルミ缶の四角い菓子箱を取り出した。


「これはねえ、みやびちゃんが撮影に行ったリゾート地で、わざわざボクにって買ってきてくれたクッキーの箱だよーん。もちろんクッキーはボクがすべて


「しゃぶるって、クッキーだったんでしょ」


「ぽりぽり食べてたらすぐになくなっちゃうからさあ、一枚一枚時間をかけて舐めて溶かしたにきまってんじゃーん」


「気色悪ーっ」


 ナーティが怖気にとらわれていることも意に介さず、珠三郎は蓋を開けた。


「ゲゲッ」


 のぞき込んだナーティは思わずのけぞる。中には無数の百足むかでがザワザワと蠢いていたのだ。


「ほいっと」


 珠三郎は缶を逆さにした。


「うひゃあ」


 ナーティはその巨体から信じられない瞬発力で跳びあがった。


「蠅の次は百足って、いったいアンタは何者よ!」


 百足は四散せずに地面の上で一塊になっている。


「これもボクの式神しきがみなんだよーん。今度はね、ちょいとこの辺りをこの子たちで」


 アームに取り付けたタブレットを胸元側に回し、画面をスワイプする。百足は電気を浴びたかのようにビクンと縮こまり、一斉に四方へ走り出した。しかもとんでもないスピードで。


「ほほう。まるで猟犬のような速さじゃのう」

 

ぬえはのんびりとした声で言った。


「あの子たちが作る包囲陣で、この周辺は結界けっかいが張られるんだな。したがってあの緑の化け物がこの山から下りることはできないと。どう? すごいでしょ」


「と言うことは、アタクシたちも」


「もちろん出られませんなあ、グヘヘヘ」


つづく

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