黎明の霊廟。

入力機器を叩く音が響く。

彼にとっては使い慣れたキーボードだ。

他の誰にも扱えないだろう一点物の。


規則的なその音が止み、彼は一息つく。

といってもこの場所には大気がないので形式的なものなのだが。


「平和だな」

零れ落ちた思いは紛れもなく自分の求めたもの。

「ここには争いはない。悲しみも、怒りも、そして憎しみも」

ああ、そのとおりである。

残酷なまでに真実、この場所は平和であった。

「不変のものは神だけで、その他は絶えず形を変え続ける」

それほど不安定な空間であるから、力は発揮されやすい。

「計画された偶然、設定された運命、実行された奇跡」

その隔絶した視点は理を映し出す

「それらに何の価値を求めているのだろうね、私は」

神という存在が不変のものである、なんてそんなこと有り得はしないのだ。


鏡の枝が揺れる。


漆黒の草原がなびく。


深緑の幹は何も語らず。


純白の花は咲き誇る。


七色の雲は空を飾り。


透明な星は空を彩る。


黄昏の空はただ其処に、寂びた天秤の導きを待つ。

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