天命刹歌 第8話 存在の名

ごきゅ、と音を鳴らして捕食を終えた褐色は、言った。

「……とりあえず満足。ふう、幸せ」

ご満足いただけたようで何よりだ。

全身から迸るその幸福のオーラに、思う。

———これ、今食べてたエネルギーを凌駕していないか? と。

「……改めて言う、私の存在は宇摩志阿斯訶備比古遅神ウマシアシカビヒコヂ

天之御中主神アメノミナカヌシノカミ、或いはこの世界そのもの、そして橘 悠斗。

それが私の名前らしい」

「……最初のそれは名前じゃない、存在名」

「その違いは何なんだ」

「……名前とは、付けられた識別記号……存在名とは、付けられる役割記号」

「私たちは、以前の世界の誰かの人格をレコードからダウンロードしています」

天使が歌うように紡ぐ。

「だから生まれた始めからでもその他と会話ができる」

いつの間にか復活した黄金が紡ぐ。

「故に生まれた時にはもう、自分の役割を理解している」

同じく復活した白銀が紡ぐ。

「……そのとおり、存在名とは自分の為すべきことを表した名」

褐色は、もう語るべきことはないといわんばかりに口を閉じた。


「そうか、ありがとう、とも」

もはや我らがそう呼んだり、呼ばれることのない表現をする。

「じゃあ、私の名前は、橘悠斗だけなのか」

正直為すべきことなどとんとわからないが、わかることはある。


「しかし、そうすると、キミ達には名前がないのか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る