天空刹歌 Shine all around rain

天宮詩音(虚ろな星屑)

永遠の始まり、刹那の終わり。

天空刹歌 過去話 天橘刹歌

橘悠斗タチバナユウトという人間は異常である。

しかし、何か特別な才能があるわけでも、特に苦手な事があるわけでもなかった。

そう、ただ、生きるべき時代に存在できなかった。ただ、それだけのこと。

それが表に出ていなかったのは、幸運だったのだろう。

それに本人を含めて誰1人気付くことができなかったのは、不幸だったのだろう。


日々変化し続ける現代において、その性格は致命的だった。

優れたものが使い潰される社会の中で、その肉体は残酷だった。

古きものを愛せない人間達にとって、その存在は邪魔だった。


優しさや、善意という言葉が本当の意味で使われることのない世界は、

おおよそ、人間には生き辛い。

特に、善くも悪くも純粋な人間たちにとって。


All for one.One for all.

みんなはひとりのために、ひとりはみんなのために。

誰もが美徳と讃える言葉。

しかし、彼の場合は、 all の部分がotherだった。

ただ、それだけのこと。


自己犠牲。

サクリファイスを許容できない英雄ニンゲンだった。

その思想自体を間違いと断ずることなどできない。

それを歪ませるファクターは、あの世界には多すぎた。

いつしか、間違い続ける人生になった。


何を救い、何を守り、何を捨てるのか。

戦いの才能も、対話の才能も、努力の才能も持っていない。

誰かの正義を貫き続けることに迷った。

誰かの正義を拒否されることは悲しかった。

誰かの正義を名乗ることが恐ろしかった。


いつしか、多くのを無視することを覚えた。


なぜ自分なのか。

なぜ善いことをする多くの命を救うと恨まれるのか。


なぜ何かを救うと何かを奪うことになるのか。


なぜ自らに得など何一つないそんなものを守らなければならないのか。

なぜ、家族おやを殺されてさえ、その在り方を変えないのか。


それは思考停止だった。


誰かの正義を纏った悪人に過ぎないと気付いたのは、全て手遅れになってから。

純粋な悪人でありながら純粋な善意で動いていると勘違いをしていた。


自分にとっての悪とは誰かの正義であるということに気付くまでに、

どれほどの正義を踏みにじったのだろう。

考えるたびに屍の丘が見えた。

考えながらまた踏みにじった屍を積み上げる

考える間もなく同じことを繰り返さざるを得なかった。


考えてみれば当たり前のこと。

人間は、悪という側面と善という側面が切り替わりながら存在している。

何やかんやで毎回生き延びる自分に嫌悪を抱いた。

それを繰り返すことは、最終的に何も救えないのこらない


世界を延命し続けた人間エイユウは、最後に一人だけ残ってしまった。

救うべきものの人間の居ない世界に、何の価値があるのだろうか。

だから世界を終わらせたのだ。

記憶を燃やし尽く犠牲にしたその果てで。


———

——

ああ、何と甘美、まさしく至高の玉露に等しい絶望だ。

さて、これでようやく自分の仕事を終えたと思ったら、なんとも皮肉なことか。


———刀という武器は、影打と真打が存在する。


———数ある影打の中の一つ、その名を桜花といい。


———真打の名は、橘花といった。


盛大な集団自殺生命の終焉を決行したカミサマを、殺した。

世界を本当の意味で終わらせたたたっ切った、神殺しの刃の名。

その刀の担い手は、全てを忘れて世界となった。


真打は、そのカミさえも飲み込んで、担い手へと向かう。

最後の生命イノチを殺し、生まれ直させたのが桜花なら。

最後の知性カミサマを殺し、取り込んだのが橘花である。

その存在理由レゾンテートルはただ一つ。

担い手と、共にいることいっしょにいること

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