天命刹歌 第24話 約束
一行の眼前にあるのは、ひときわ大きなその結晶であった。
クリスタル・アーティサンダーはその檸檬色の結晶と同化するように。
同じ色のワンピースを重ね合わせるように、そこに佇む。
「これを」
何か操作し、一行に差し出すのは結晶の板。
プレパラートが一回り大きくなったような透明な板の中に、白い線が走っていた。
光の三原色を混ぜ込んだように輝く純白の線が、その修正プログラムらしい。
もう、一行はここに用はない。
「今、ここにある結晶コンソールと同種のものが、かの地にもあるはずです」
「それをどうにか見つけ出して、この結晶を繋いでください」
クリスの案内で、また奥へと進んでいく。
「ここの結晶と違って壊れやすいので、取り扱いにはお気をつけて。こちらへ」
結晶の迷路を歩いていく。
「自動的に、立入禁止コードが書き換えられる仕組みです」
距離は長い、しかし、流石は管理用AIというべきか、すらすらと進んでいく。
「通行権限が確保され次第、そちらへ向かえるのですが」
紫電を走らせ、適当な壁にマップを映す。
「このZEUSU内部の全マップデータを閲覧できるのは造物主だけです」
故に、このマップが道しるべとなる場所はそんなに広くない。
「着きましたよ。向こう側の管理区域に入ってしまえば、ナビゲートもできません」
一行は広間に出た。
こじんまりとしていながら、どこか雰囲気の変化を感じさせる場所だ。
「私がこのようなことを言うのはなんですが。ご武運を」
中央で立ち止まる。振り返ったクリスを、
「……一つだけ、聞いてもいい?」
緋葉は見据える。
「どうぞ」
檸檬は答える。
「あなたがこんなことをするのはなんのため?」
緋葉はずっと、不思議に思っていたことを問い掛ける。
「……わたしにもわかりません。
システムの維持と管理、それが、それだけが私の役割であったはずなのに」
「なら、次に会う時までに考えておかなくちゃね」
黄金は言う。
「機械としてのあなたじゃなくて、知能としてのあなたの答えを」
白金は言う。
「……なら、約束」
緋葉は言う。
「ええ、そうですね。約束の答え、必ず考えておきます」
困ったような笑みが、粒子となって消えていった。
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