天零刹歌 第4話 黄金色の林檎

あれから、どれほど時が経ったのだろうか。

空はすっかり青くなっていた。

白く、そしてどこまでも青いその空は、何かを与えてくれるわけではない。

けれど、確かに、心のどこかを癒してくれる。


クレータの中心で、青い空を眺めていた。

右手には、輝きを失いながらもその美しさはけして失わない桜花が握られていた。

空は、その元気を自分達に注いでいる。


余すことなくその体で受け止めていたい。

でも、このまま何もしないでいたくない。

その葛藤は迷いであった。


風が、吹いた。

土の香りが、黄金の香りに混ざっていた。

その中に、か細く、微かに甘い、甘い香りが鼻に入り込む。

勢いよく起き上がる。

「あの、丘からだ」

走り出す、駆け抜けていく。

土埃を踏みしめて、上がる息をものともせずに。

一歩一歩歩んできた夜とは正反対に、

1秒すら惜しみ、そこに辿り着こうと足搔く。


足がもつれて転ぶ。


見上げた顔にあの丘が見えた。


雲間が晴れて光に照らされた丘に一つ、輝きが見えた。


太陽の、黄金の輝きは、この体を操る。


立ち上がる、走り出す。駆け上がる、駆け抜ける。


直感する、あれがこの香りの源泉だと。


無様に、欠けた何かを取り戻すように、走る。


「林、檎」

この荒野で、その輝きは神聖さを纏っていた。


涙が、零れ落ちる。


自らの矮小さをそれに恥じるように、己の醜さを積み増すように。

それを手に取った。


自らの希望を誇り高く掲げるように、己の喜びを涙で表すように。

それを、胸に抱いた。


「よかった、まだ、死んでない、まだ、紡げる」

の林檎は、その輝きは、世界に存在を主張していた。

歴史は、このとき始まった。

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