【結果発表】「短歌の秋」第3回の歌会を配信しました。取り上げられた歌をご紹介!

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12月6日に選者の郡司和斗さんをカクヨム公式Discordサーバーにお呼びして、第3回「短歌の秋」(テーマ「濃さ」)の応募作から選ばれた15首へのコメントを伺いました。本記事では配信の内容をまとめた総評と、作品評をご紹介いたします。
10月から3ヶ月に渡って開催された「短歌の秋」企画はこちらで一旦の区切りとなります。
ご参加いただいた皆さま、改めてありがとうございました!


◆総評
今回のテーマについては、秋という起点から色づいてきたり、実ったりという要素を汲み取って、「濃さ」というテーマを選びました。
また、作った人が「自分なりの濃さの解釈だ」と出してしまえば書きやすいかな、と想定していたんですが、逆に難しかったかもしれませんね。
「濃さ」というテーマを真正面から受け止めて、カルピスやコーヒーなどを題材とした作品が多かったのですが、たくさんあった分、他の作品の中で際立つためには切り口の強さが必要だったかもしれません。
個人的には、1000首以上から選をすることは初めてだったので、単純にたくさん読めて楽しかったですし、15首という区切りがなければもっと選んで紹介したいと思った素敵な歌もたくさんありました。あらためてありがとうございました。

◆作品評
この写真以降いいことはなかった ひとりずつ木漏れ日に消えて
作者:よなく

意味内容と音数の欠如の繋がりが非常によかったです。字面通り歌を解釈すると、写真を撮ったある時点があって、それ以降良いことがなかったと。木漏れ日に消えた人たちが具体的にどうなったのかは書かれていないんですが、下の句の音数を数えると、十三音で、一音足りないんですね。音の足りなさが、「良いことがない」「消えていった」といった暗いイメージを支えているのが印象に残りました。また「いいことはなかった」と断定で言い切っていることに力強さを感じました。木漏れ日や写真を後から振り返って眺める、という行為は、ノスタルジーや温かさと紐づけられることが多いので、そういった言葉を使って暗さを表している質感も真新しかったです。
(郡司和斗)


あちら側で信号無視 それを無視 僕は余裕で待ってやる夜
作者:狐木花ナイリ

横断歩道の向こう側で赤信号を渡っている人がいるのに対して、自分は乗っからずに、きちんと信号が青に変わるのを待っているという歌ですね。信号無視については、ルールを破っているヤツかっこいい、みたいな風潮があると思うんですが、一字空いているのも相まって、強調された「それを無視」、そして「余裕で待ってやる」という謎の上から目線、おおらかさが魅力的でした(笑)。この一首のみで、「自分の美学を通す」という作り手のキャラクターが伝わってくる歌でした。「あちら側」については、複数の人たちが集団で渡っているような印象を受けますが、「僕」の方は一人でいる印象がありますね。
(郡司和斗)


引き止めてごめん糸には鱗粉が濃くなっていく濃く消えていく
作者:海沢ひかり

語り手が、巣を作っている蜘蛛と取れるんですが、蝶が引っかかったことに対して、もがいた蝶の鱗粉が「濃くなっていく濃く消えていく」という二重のベクトルがあるフレーズが不思議でおもしろかったです。
テーマ「濃さ」に対して反対の「淡さ」も含めた、両面を捉えていて、特に「淡く消えていく」と書くのではなく、「濃く消えていく」と、「濃さ」のニュアンスを残したまま消えていくことを書いているのが表現として新しいと感じました。
「引き止めてごめん」の時点では甘い青春モチーフなのかなと予想されるんですが、そこから「糸には鱗粉が〜」で、一気にギアが上がっていく書き方も好きです。
(郡司和斗)


鹿肉のジャーキーを食い幸せの脇道みたいな味を感じた
作者:エバラ

「幸せの脇道」という味ではないもので味の表現をした点がまず挑戦的で素敵でした。「味がする」ではなくて、「味を感じた」というワンクッションの挟み方をしているのも、「脇道」というのも、すべて間接的な感じでまとまっている印象がします。
濃さの点では、ジャーキーの顎が異常に疲れるほど噛み締めなければならない感じが食の体験として濃いのかなと読みました。
(郡司和斗)


夏物をしまい忘れたハンガーの奥をかき分け着る深みどり
作者:ヤマシタ アキヒロ

まず「季節外れの洋服をしまい忘れる」という体験へのあるあるだな、という共感から入って、「深みどり」は服の色だと思うんですが、どんな服かは触れないことで、色そのものを身に纏う印象がありました。さらに、「かき分け」と重なると深い森などの連想を呼ぶので、部屋の収納空間が拡大していくような感覚もあります。また、「夏物をしまい忘れた」というところから、「衣替えはしなければならないもの」という語り手の律儀さが見通せるのもよかったです。
(郡司和斗)


ふちに とろり しずく ひとつ だれも みない おもさ ふるえ まさつ たえた 目
作者:交換日記

「ふち」は目の縁で、そこに「しずく」=涙、で涙が垂れているのを「だれも みない」、一人で泣いているような印象です。 「目」が最後にあることで、もう一度歌の頭に帰って、「ふち」が目の縁であることを知る……という循環があって、面白いなと思いました。三音ずつで音を繋いでいくことで、このまま三音で終わるのかな? 下の句から七音になるのかな? という予想が立つんですが、そこに「目」が飛び込んでくることに強いインパクトがあります。この歌は自分一人の解釈で終わらせてしまうのも勿体無くて、いろんなひとの解釈が聞きたいというのもあり、選びました。短歌の定型としてのリズムが根幹にある上で、三音ずつのビートが乗って重奏が生まれるようなところも特異的でした。
(※「五七五七七、という定形以外もアリなんだー!?と衝撃」というコメントに対して)
プロレスのリングのことを例にすると、競技としてのルールがあるわけなんですが、その上に「それもアリなの?」という場外乱闘がどんどん拡大されていくんですね。ルールがあることで、ルール外の行動におもしろさが生まれると思っていて、短歌における「定型」もそういうものかと思っております。
(郡司和斗)


月の輪郭ふやけて膨らむコースターほなのって本当に言うんだ
作者:深川泳

「月の輪郭ふやけて膨らむコースター」は、コップの結露を吸ったコースターが膨らんでいくような描写なのですが、そこに取り合わせる形で「ほなのって本当に言うんだ」が加えられている。方言を取り込むことについては、この歌では絶妙に実際に行われている会話のようなリアリティーがあることで、親密な友達から初めてこぼれ出た方言に、心の中で「本当に言うんだ」と思っているような温かい印象がありました。
(郡司和斗)


ふなふなと泣いてしまえり吾よりも小さき躰を月と揺らして
作者:月出里ひな

歌としては、自分は子どもより低い視線に屈んでいて、子ども仰ぎ見ている。その背後に月がある、という読み方をしたんですが、「ふなふなと」にハ行の弱い音の感じが泣いている時の表現として納得感があるのと、「月と揺らして」の「と」が「月と一緒に揺れる」にも見えるし、「月と」という固有な修飾語のようにも見えて、歌の解釈を広げている点がよかったです。子どもに泣かれた時の、泣いている側も泣かれた大人側もどうしていいかわからない空気感が、「月と揺らして」という表現でうまく捉えられている感じもしました。
(郡司和斗)


もういっかい遊べるドンと呟いた君が見ている夜の銃口
作者:ケムニマキコ

いろんな読みもありえるという前提の上で、一首単体として読ませていただくんですが、わたしは完全にゲーセンの歌だと思いました。「もういっかい遊べるドン」は、太鼓の達人というアーケードゲームで、次の曲に進む時に出てくるフレーズなんですね。それが頭に残っていた「君」がシューティングゲームで銃口を覗き込んでいるシーンだと読みました。 太鼓の達人の明るいイメージから始まって、最後に「夜の銃口」というシリアスな言葉選びが飛び出てくるのが驚きでした。
(郡司和斗)


経理課の新人が使うスタンプが北斗の拳で占められている
作者:巳波 叶居

これは書いてあることがシンプルにおもしろすぎました(笑)。経理課のイメージとして、役割上「うるさがられることを言わざるを得ない」という印象があって、その中でも新人は風当たりが強そうなのを、北斗の拳の力強いキャラクターでぶち飛ばしている明るさがよかったですね。しかも一般的には職場内で一番丁寧にお返事をしなければならない立場の新人が職場のLINEで北斗の拳のスタンプを使っているという状況もおもしろかったです。
(郡司和斗)


ハイハイ、未来の花婿さんこちら、クローバーのスープはいかが?
作者:倉井さとり

こちらの作品は、内容としてはスープをすすめている、というシンプルな内容なんですが、「ハイハイ」「こちら」という気さくな印象を与える歌の佇まいが非常によかったです。また、「未来の花婿さん」は「複数の選択肢がありえて、今後の選択によって決まってくる」というニュアンスと、「運命でたった一人の相手がすでに決まっている」という二つの解釈があると思うんですが、前者だと、複数存在する「花婿さん候補」に時間を跨いで声をかけていく不思議な感じもありますし、後者だと運命の相手にズバッと声をかけている風に読めます。そのほかにも「おままごとの話として読む」など、読み方に広がりがある歌でした。
(郡司和斗)


背中から風の吹きこむベランダのあかるいにおい 満月がある
作者:古井さらさ

視点の誘導が面白い歌だなと思いました。
「背中から」でまず視点が背後に回っていて、「風の吹きこむベランダ」で外の空気があることがわかって、「ベランダのあかるいにおい」で光の感覚を捉えて、振り返って満月があることに気づいた……という感じで、細かく見ていくと視点の位置が歪んでいるんですが、はっきりと景色が立ち上がってくる感じがするのが面白かったです。「満月」ってわりと気づきやすい存在だと思うんですが、それが最後まで出てこないところも叙述トリックのようなうまさがありました。
(郡司和斗)


特別な夜の乱用者はやがて脳の余白が濃くなっていく
作者:~1000

「乱用者」からの「脳の余白が濃くなっていく」に薬物などを使用しているような、秩序からはみ出している印象が入っているんですが、この歌では「薬物」の部分に「特別な夜」が代入されている。「余白が濃くなっていく」には、脳内のいろんな考え事とかが散らばっているところに、余白の白さがグッと広がっていくダイナミックな動きがあります。また、「余白」という薄い色、白のものが濃くなるという、淡さと濃さの両面から「濃さ」を捉えている点もよかったです。
「特別な夜」が何かについて僕自身はあえて想定せずに、言葉の醸し出すものをそのまま読んだんですが、読み手がそれぞれの「特別な夜」を想定することで、歌の解釈も広がることができるのもおもしろいですね。
(郡司和斗)


カルピスに水の部分とカルピスの部分ができて 飽きたパーティー
作者:たべたべいぬっこ

「カルピスに水の部分とカルピスの部分ができて」は、氷が溶けて薄くなった部分とそこに沈んだ濃いカルピスの部分ができた、ということだと思うんですが、「濃さ」のテーマの取り入れ方として、カルピスの濃さをそのまま描くのではなくて、カルピスの原液と水が合わさってカルピスになる、という一般的な解釈に反して、「カルピスの中に水とカルピスがある」さらに「カルピスの中に水とカルピス(=水とカルピス)」というマトリョーシカ構造を産んでいるのが特異的でした。そもそも、そういったところにまで考えが及んでいること自体が、パーティーに飽きている証拠、みたいなことも含めて、自分だけはカルピスだけを見つめていて、パーティーで起きていることから焦点が外れているのもよかったです。
(郡司和斗)


声圧は筆圧に似て雨の日のあなたがつぶやくから雨だった
作者:石村まい

詩的な言葉選びが魅力的な歌でした。「声圧は筆圧に似て」の、筆の運び方の強さ弱さが、声の強さ弱さに代わる、という循環や、自然現象としての雨は、雲が冷やされて水になって雨になるという原理があると思うんですが、それを排して「あなた」がおそらく「雨だ」とつぶやいたことのみに依拠して、わたしは雨を認識する、というのを断言している点を含めて、言葉選びから立ち上がってくる質感が印象的でした。また、「あなたがつぶやくから雨だった」の韻律の運びもよくて、「あなたがつぶやくから」で8音使うことで力が入る印象があるんですが、そのあと「から」と軽い音がつながって「雨だった」と音が軽く飛んでいくのも素敵でした。
(郡司和斗)



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