12/19(木)20:00から開催された「カクヨムU-24杯結果発表ライブ」にて、公式自主企画「カクヨムU-24杯」の結果発表を行いました。
結果発表
大賞(3作品)
『残春の花片』作者:見咲影弥
講評
主人公・シュンの視点で語られていく青春の物語。歓楽街で男性相手に自分の春を売るシュンの行為にはなんの感情もなく、ただ金を稼ぐための手段でしかなかった。冒頭の淡々とした文章がシュンのどこか置いていかれたままの心を、後半の少し饒舌になったような地の文はユイと出会うことで変わったシュンの心の変化を表しているように感じた。
「彼はきっと、君に救われたんだと思うよ」というユイの言葉はシュンに伝えたかったのか、それともユイ自身のシュンへの思いだったのかはわからない。けれど、ユイと出会ってシュンが変われたようにユイの心に刻まれた傷もシュンと過ごすことで少しは癒やされていればいいのにと読みながら思わされた。
もう二人の道は交わることはないけれど、二人が過ごした時間があったからこそ、それぞれの道を歩み出せたのだと思う。ほろ苦くて切ない、けれどもどこかあたたかい物語でした。
(望月くらげ)
『ボーダーラインを越えて』作者:柊かすみ
講評
推しとファン、陽キャと陰キャ、VTuberと切り抜き師、恋と常識。
世界に存在する様々なボーダーライン。立ちはだかる境界を超えていくのは、いつだって大きな衝動だ。
VTuberや配信者モノは昨今多いが、周辺スタッフを主軸に据えた作品はまだまだ少ない。
しかもその解像度が高く、題材調査がよくできている。この目の付け所という点でも高評価したい。
テーマもあいまって、強く「青春」を感じさせてくれた一作。
(夜見ベルノ)
『妹を救うためにエロゲーを作ります。』作者:柊准(ひいらぎ じゅん)
講評
物語の主人公には信念が必要だと思う。己を貫き通す信念があるからこそどんな過酷な運命にも打ち勝つのだ。この作品の主人公の竹達駿には信念があった。高校3年の大事な受験の時期にエロゲーを作ろうとするのだ。
彼にとって学歴や世間体を投げ捨ててやる価値がエロゲーにある。並大抵の信念ではない。そしてエロゲー作りを通して描かれる恋愛、友情、挑戦、そして悲嘆。作品の中に一人の男の人生が集約されていた。まさにエロゲーのような青春に泣かずにはいられない。
(愛咲優詩)
優秀賞(6作品)
『赤い影に眠ってくれ』作者:阿部狐
講評
冒頭から殺人事件が起き、その犯人が主人公の芳樹である、というところから物語がはじまる。あらすじから惹き付けられる物語は、探偵であるモカとまるでワトソンくんのようなポジションにいる犯人・芳樹のふたりの会話劇が中心だった。中学生による殺人、イジメというには度の過ぎた犯罪まがいの脅迫、忙しい両親に変わって家事や妹の世話を一身に引き受ける子ども、など現代の社会問題に触れたような作品だった。
犯人であるならもっと冷静にならなければいけないところで、つい余計な反論をしてしまう芳樹が等身大の少年らしく、だからこそこの物語の結末を考えると苦しささえ覚えた。
お兄ちゃんだからこそ守りたい存在があって犯してしまった罪と、お兄ちゃんだから守りたいものがあって逃げることも放棄することもできない苦しみ。読後感がいいとは決して言えない。ただ読んでいる最中も読み終わったあとも、ひたすらに考えさせられました。どうすれば芳樹を救えたのかと。
(望月くらげ)
『群衆と、タランチュラ』作者:蘇芳ぽかり
講評
「僕の遺影を描いてください」そんなセンセーショナルな一文からあらすじがはじまった。人の本質を描くのだという全色盲の画家・榊に自分の遺影を依頼した主人公・真斗。遺影を描くために一ヶ月、できる限り榊の元に通うようにと言われ、八月の一ヶ月間の殆どを榊と過ごしていく。自分とは違う価値観に触れる中で、狭かった真斗の世界が、そして視界が広がっていく。全色盲という色を認識できない榊に見える色、そして色が見えるはずなのにどこか世界がくすんでいる真斗の対比がよかった。
どうしようもないと思っていたことは、少し見方を変えたり一歩踏み出すことで変わっていくのだと真斗の心の変化を通じて改めて感じることができる。遺影を描いて欲しいと思うほど未来に対して希望のなかった真斗が最後に残した遺書は、死にたいと思っていた自分を昇華させるための遺書だったように感じた。前を向いて顔を上げて歩いて行きたくなるような読後感はとても好みでした。
(望月くらげ)
『ラブコメするのは良いがヒロインが化け物しかいない』作者:音塚雪見
講評
ラブコメといえば、登場する様々なヒロインの可愛らしさは外せない。見た目に仕草、声も大事な要素の1つ。
本作は、主人公の視界のみからヒロインのビジュアルだけを取り上げた。
代わりに与えられたのは肉塊にゾンビなど、化物のオンパレード。もちろんデフォルメなど許さない。
サイコホラーなどになりがちな設定だが、仕草や台詞だけでも確かな可愛らしさを演出し、ちゃんとラブコメしているのが見事。
総合的に最も完成度の高い作品だと感じた一作。
(夜見ベルノ)
『ナユタの食べ物』作者:秋冬遥夏
講評
勇者の村を焼く前には丁寧な下拵えを。そんな、いっそドライとも思える究極の弱肉強食な世界観が興味深い。
そんな本編の魅力もありながら、キャッチコピー部門があったら個人的に優勝を贈りたい。
タイトル、あらすじと比べ、より直接的に本文を開かせようと読者にアピールできるポイントがキャッチコピーだと考える。
本作は「意味は分かるが状況が分からない」という実に絶妙なラインを突いており、
普段スコッパーとして探しているときにこれを見つけたら1ページ目を開かずにいられない魅力を感じた一作 。
(夜見ベルノ)
『天神教授の推理ゲーム』作者:阿僧祇
講評
「被害者が死んで、もっとも得をする人物が犯人である」という推理小説のセオリーを突き詰めた作品です。犯人を暴くのに証拠もトリックも必要ない。天神教授の推理には数学の公式のように完璧な美しさがある。まさしく論理的に正しい推理とはこういうこと。
これまでのミステリーの名探偵に求められてきた推理力や観察力といった概念を根底から覆した。まったく新しい名探偵像を生み出した点を評価したい。純粋に知能を駆使する面白さに私の脳が喜びを感じている!
(愛咲優詩)
『無限の可能性 進化と退化の軌跡 Let's Monster Battle』作者:夕幕
講評
チートを駆使して成り上がるというのはラノベの定番ですが、ゲームで遊んでて一番面白いのは弱キャラで勝つために試行錯誤しているときなんですよ。この作品はそこから逃げていない。
あえて最弱キャラのスライムを相棒にして困難な道を選び、地道な努力を楽しんでいる。彼が挑戦するのはすべてが格上の強者。それこそが真のゲーマーの姿ですよ。楽じゃないからこそ燃える。最弱だからこそ勝ったときの喜びは大きい。努力したからこそ愛着も深くなる。最弱こそ最高なんですよ。
(愛咲優詩)
選考委員によるアドバイス
望月くらげさん
中高生の方から「作家になるためには何の勉強をしたらいいですか」「どんな大学にいけば、仕事につけばいいですか」と聞かれることがあります。
でもそこは私はなんでもいいと思っていて、その時々でしかできないことを全力でやってほしいです。学生もそうだし、若い社会人の方々も、今しかできない経験というのが小説を書く上で一番の糧になるんじゃないかなって思ってます。
そしてたくさんの物語を書き続けていってください。一作でも多くのお話を、みなさんの手で綴っていってほしいと思います。
夜見ベルノさん
皆さんもご経験があるかもしれませんが、小説というものは、時に人生を変えてしまうほどの力を持ちます。
私自身もU-24杯に参加できるような年齢の時に、個人のHPで偶然目にした短編小説をきっかけにWeb小説の世界にハマった一人です。
皆さんが書く小説というのは、そのくらいの力を持っているんです。
皆さん一人一人が、いわば魔法使いの素質を持っているんです。
あとは、作品が読者に届くかどうかだけ。
そのためにもどうか、これからも素敵な作品を書き続けてください。
一人のスコッパーとして、これからも影ながら皆さんの応援を続けていきます。
愛咲優詩さん
24歳以下ということで、学生さんもいらっしゃるかと思うんですが、いまの学生世代っておじさんからすると未知の世代なんですよ。
小説も漫画も映画も音楽もサブスクで育って、BeRealだったり、TikTokだったり、新しいSNSをリアルタイムで使っている。
皆さんはあんまり自覚してないかもしれないんですが、それってすごく個性的な体験をしている。
いまの現役で活躍しているベテラン作家には真似できない強みでもある。
例えば昔20年くらい前に日常系というジャンルが生まれたんですけど、その当時は事件もバトルも起こらない。ただ高校生の日常を淡々を描く。
それのどこが面白いのかという意見も多かったんですど、ただの高校生の日常でも物語やドラマがある。
いま若い皆さんが過ごしている日常をそのままライブで描いても物語として新規性がある。
そこに勝機があります。おじさんたちに媚びなくていいです。おじさんの趣味に合わせなくてもいいです。
既存のパターンに従わなくていい。人生にパターンやセオリーなんてない。俺の物語だ、好きにやらせろでいいんですよ。
これがいま面白いんだぜ!おじさんたち知らないの!遅れてるー!くらいの自信や自己肯定感で作品を書いてください。