
2025年3月で「カクヨムネクスト」は一周年!。
まったく新しい月額制の小説サービスが読書体験の日常となりつつあるいま、最前線で活躍中のネクスト連載作家さんへインタビューを行う企画、「カクヨムネクストの舞台裏」
今回は、昨年6月から『断剣のエウリアス ~木こり伯爵の小倅の騎士道~』の連載をスタートさせ、絶好調のリウト銃士さんにお話を伺いました!!
「なんで私に?」
――リウト銃士さんには、「小説家になろう」で主に作品投稿をされていた昨年4月に、カクヨムネクストで連載いただけないかと、お声がけさせていただきました。
当時はまだ、カクヨムにアカウントがない状態でしたが、ご連絡を受けてどう思われましたか?
リウト銃士:最初は、なんで私に? というのがありました。
「カクヨム」での投稿も、アカウントすらもない。SNSもやってない私に、わざわざ連絡を取っていただいて。まるっきりおつきあいもなかった中で、なぜオファーをいただけたのか。
そこまでしていただくと、私も古い人間なので、ありがたいやら申し訳ないやら、と思いまして。これはしっかりお話を伺わないと、と。ですから、最初から好印象を持っていましたね。
――オファーの打ち合わせの際にも、具体的なご質問をいただいたりと、カクヨムネクストというサービスにかなり興味を持っていただけている印象でした。「断剣のエウリアス」の構想もこのときに伺った記憶があります。
リウト銃士:カクヨムネクストは3月からはじまっていて。最初は、6月からの連載開始だと、すでに先行している連載がたくさん走っていて、後発で不利かなと考えました。資料を読んでいて、そんな有利不利の話じゃないな、っていうことに気づきましたが。読者の取り合いをさせるために、声をかけていただいたわけではないじゃないですか。
私が連載を始めるときのカクヨムネクストの読者の方々って、先に連載を始められている先生方の作品を読みたくて集まっています。私に求められているのは、そのパイをどうやって広げていくかということで。
それが私の作品にできるのか? 読者を引きつける作品が書けるのか? っていうので、すごく悩みました。悩んで、悩んで。でも、そんなのを頭で考えていてもしょうがない。そんなのは、実際に書いてみて、その結果でしかない。で、手を動かし始めて。打ち合わせまでに10話ほど書いて、「これでどうですか? ネクストに読者を引き寄せる力がありますか?」って確認していただきました。
あまり前向きな話ではないのですが、できたものを見て判断してもらうしかないだろうと思い、とにかく書き始めましたね。
――そういう意味では、「断剣のエウリアス」のためにカクヨムネクストに登録してくださった読者もたくさんいらっしゃいます。実際に作品の力で、当初の目的を成し遂げてくださいました。更新の回数もすごいですね。最初の2か月は、毎日2話更新されていました。
リウト銃士:私の立ち位置だと、この作品ラインアップの中では、埋もれてしまうかなと。ですから、毎日更新することを魅力の一つにしていこうかなと考えたんです。
ある程度の話数がないと読まないよ、って読者の方もいると思うんですよ。なので、とにかく最初は数を多く出さないとって思いました。100話、200話ってなった時に、先行して300話ある作品と200話の作品で、どこまで差があるか? っていったら、そんなに大きな差はないと思うんですよ。1か月で読める話数って、ある程度決まってますし。そこまで読み続けてくれるかの方が大きい。
なので、話数が多くなってくれば、そもそも話数での差なんて関係なくなると考えました。
――自作に引きつけるために、とにかくたくさん書いて、更新されたのですね。「断剣のエウリアス」については、そのお考えのとおりになっていると思います。ただ、誰もができることでもないかなと……。
リウト銃士:普通は難しいですよね。私は投稿予約がいま1週間分あって。今夜公開される1話と、予約投稿に入れる1話。まずこの2つを毎朝読むんです。読んで直して……っていうのをやって。書くとき、予約するとき、公開される日の、最低でも3回は読んで直したりしています。
あと、前の日に書いた話っていうのも、やっぱり読み直して、それから今日の話を書く。
ストックは30話くらいありますから、1か月前に書いた話を、今夜公開されるからって読み直したりして。
とにかく矛盾がないように気をつけているのですけど。たまにやらかします……。
――カクヨムネクストの連載に特化したような執筆サイクルですね。書籍化のことを考えて書かれたりはしないのでしょうか?
リウト銃士:それはもう全然ですね。書籍化に向けてどう書けばいいのかわかっていないので。それはやりたくても、今のところできないんですよね。
だいたい10万文字くらいで起承転結を作るとか。そんなのは当たり前の話なんですけど、なかなか文字数を気にすると書けなくて。一応、自分の中で章を分けたりはしているんです。表には出してないですけど。ですが、文字数の管理をきっちりやろうとすると、おそらく書くのが相当遅くなります。
作家としてはそうあるべきだと、個人的には思っているのですが……。文字数を考えた上でしっかり構成を練って、それを当たり前のようにできている作家さんはすごいですね。私には、毎日更新でそれは難しいです。
「ちょっと驚くくらいの金額が毎月入ってきています」
――書籍書き下ろし中心に活躍されている作家さんにも、カクヨムネクストではWebに最適化された書きかたをして欲しいというのが、運営の希望ではあるのですが。カクヨムネクストと書籍の両輪で収入を得ていただきたいです。
リウト銃士:たぶん、書籍っていう形にこだわると、私なんかは苦労するというか、なかなか目が出ないと思います。こういうWeb投稿っていうスタイルができて、さらにそれを有料の事業としてやってみようとしたときに、初めて利益を得ることができる。
……ちょっと驚くくらいの金額がずっと入ってきていて。え、こんなに? と、驚いているんです。私みたいなスタイルの書き手はちょっと特殊かもしれませんが、もしかしたらネクストのような事業ができて、それでようやく飯が食える、みたいな。そういう話になるのかなって思います。
いま話をしていて初めて気づいたんですけど。確かに、これだけで印税分以上になりますね……。
――おかげさまで、サービス開始から現在まで、ネクストの会員は毎月増え続けているので、毎月の作家さんがたへの分配金が、急に減ることはないはずです。
1か月分の分配収益で買えそうなもの、実際に買ったものなどあれば教えていただけますか?
リウト銃士:じつをいうとですね、1円も使ってないんです。
――ええー!?
リウト銃士:去年から、初めて個人事業主として事業(文筆業)を始めましたので。給料天引きじゃないから、税金と社会保険料が怖くて震えてました。確定申告をして、ようやくこれで手をつけられます。
すみません、「こんなの買いましたー!」って言えればよかったんですけど。
収入を、年俸とか年収っていう単位で捉えているので。単発でポンと、印税だとか、会社員のころは賞与とかですけど、そういう形でもらっても「やったこれで何か買うぞ」ってならないんですよね。
でも、ひと月の分配金の額で、いいゲーミングPCくらいは買えそうですね。
――運営側でも、1年経ってやっと、右肩上がりの順調な成長を実感できており、実際に、連載陣の方からも「ネクストで予想以上に稼げたことで、執筆に集中できている」というありがたいお声をたくさんいただいております。ただ、具体的な課金分配の金額のことは、個人差もあって申し上げられないので、連載は割にあわないのでは、とお断りされてしまうこともあります。
リウト銃士:カクヨムネクストに参加されてない作家さんには、やっぱりわからないですよね。どのくらい会員さんがいて……収益分配の総額はいくらで……っていう部分が見えないと、不安じゃないですか。契約も交わすので、手間ばかりかかって利益が少ないからやっぱり連載やめた、というわけにもいかないので。
分配金がどのくらいのボリュームのものなのかわかってくれば、オファーを喜んでくれる作家さんも増えるのではないでしょうか。
作家さんが増えていただけると、こちらもありがたいですね。魅力的な作品が増えれば、それによって読者さんも喜んでくれますし、増えてくれます。
更新頻度が少なくても、このネクストっていう事業が長く続いていけば、ある程度の話数がたまるじゃないですか。そうすれば、更新頻度は問題にならなくなりますし。
――お話を伺っていると、リウト銃士さんは、運営側……事業者側の視点もお持ちですね。
リウト銃士:私は、お金をいただくことに関して特別な思いがあって。打診をいただいたときから、「読者に楽しんでもらわなきゃいけない」っていうのは、すごい意識していました。
以前に仕事で、家庭用ゲーム機のゲームソフトを作っていたことがあるんです。あれって、ソフト一本が高いじゃないですか。それだけのお金を払って買ってくれるから、その金額以上に楽しめるように作るんですけど。それでも、ネットで叩かれたりはします。
なので、提供したものに対して、対価をいただくっていうことに関しては、自分の中でかなりシビアに考えているんです。お金が発生することに関しては、真剣に取り組みたい。
ネクストという場である程度成功するには、それなりの結果は出さないとなので。そのために、この事業はどういう側面があって、メリット・デメリットがこうで……っていうのは考えましたね。それが自分にできるのか、という部分でだいぶ悩みましたけど。
「私のような書き手にも、新しいチャンスがある」
――ゲーム関連の仕事をされていたこともあって、小説の投稿もはじめられたのでしょうか?
リウト銃士:いえ、ゲームの仕事はもう昔の話で。もともと小説は好きでエンタメ全般読んでいたし、書いてみたいとは思っていたんです。実際に行動に移すということは、これまで一回もなかったですけど。三日坊主気質なので、仕事が忙しいと、どうせ途中でやめてしまうと思っていたんですよね。ほとんど休みなく働いてたので。
20年間くらい、小説も漫画もほとんど読まない、趣味からは離れた生活をしていたんです。ときどき映画を観たり、ネットしたりくらいの。3年くらい前にそんな状況から解放されて、時間ができて。読みたい本も読んでしまって、Web小説をはじめて読んで。こういうサイトへの投稿なら、自分でもやれるんじゃないかなと。趣味というか、道楽という感じで書きはじめました。
――それが「小説家になろう」への投稿だったのですね。
リウト銃士:私は非常に面倒くさがりで、三日坊主気質なもので。面倒が増えると、本当にもう嫌になって、途中で絶対にやめてしまうと思ったんですよ。複数のサイトに投稿して、ちょっとした修正や、誤字脱字を直して……っていうのは、それだけでもう絶対無理だと。なので、なるべく手間は減らして「小説家になろう」一本に絞っていました。
――カクヨムネクストでの連載を決めてから、カクヨムへの併載も始めていただいたかと思います。
リウト銃士:やはり、カクヨムの中では、ぽっと出てきた感じはあるので。誰こいつ、とならないように、そのあたりはちょっと意識しましたね。少しでも読者のかたの目に触れていただいて、そこからネクストの連載が始まって……という形にしようかなって。アース・スターノベル大賞の入選作を、カクヨムに投稿しました。
もちろん、本質は連載する作品の面白さであって、そんなことでどれだけ変わるのか、っていうのもわかってはいたんですけれど。やるからには、悪あがきしておこうかな、と。
――非常に効果的だったと思います。投稿を通じての経験は、ネクストの連載でも活かされていますか?
リウト銃士:そうですね。プロットを組んでから書いて投稿する、という形も以前に試したんですけど、しっくりこなかった。今は、1日1話書くことを目安に、本当に365日、毎日書いてます。
――読者からすると、ありがたさしかないですね……。最後に「断剣のエウリアス」の読者に、ひと言お願いできますでしょうか。ネタバレにならない範囲で。
リウト銃士:いつも作品を読んでくださって、ありがとうございます。
私の作品は、前半に何気なく出てきた設定やキャラクターなどが、ロングパスで後半に活きることがあるので。間に半年空くくらいのパスはザラにあります。ちょっとしたエピソードなんかも、ポイントとして覚えておくと、後々楽しめるかもしれません。
あと、悪役として登場したけどまだ生きてます、みたいな人たちは、また後で出てくるかも……?
――なんと。それはファンには楽しみな情報ですね!
Webの連載だと、遡って読み返すのも簡単ですからね。
物語の進捗としては、現在どのくらいでしょう?
リウト銃士:当初想定していた構成で考えると、いまはちょうど半分くらいですかね。文字数管理が下手なので、アテにはなりませんけど。……ただ、その先もね、ちょっと考え始めています。
私ね、ネクストをすごくいいサービスだと思っていて、週刊の漫画雑誌のように捉えているんです。私が買っていた時、真っ先に読みたい漫画は3つとか4つくらいでした。それでも毎週買ってました。その3つ、4つの中に「断剣のエウリアス」が入ってくれればいいかなと。それをできるのが、ネクストの仕組みのいいところだと思います。なにより、週刊誌と違って一週間も待たなくていい。読者さんも、好きな作品の新しい話が毎日読める。
私は、こういうサービスはもっと広がってもらいたいなって思っています。
――運営側が考えている以上のことを、作家さんの立場で考えてくださっていて、非常にありがたいです。
リウト銃士:KADOKAWAさんみたいな大きな出版社に、こういった新しい事業に力を注いでいただけるのは、作家側からするとありがたい話です。私のような書き手にとっても、新しいチャンスがあるわけじゃないですか。収入という面もありますし。
もちろん、どう転ぶかわからないという不安もあります。ただ、そんなのはやってみないと、誰にもわからないことですから。
私は協力することしかできませんけど、いくらでも協力しますので、どんどんネクストを大きくしていきましょう。
――最後まで、うれしいお言葉をありがとうございます! 運営側も、その期待に応えられるように尽力します!
カクヨムネクストも「断剣のエウリアス」も、引き続きよろしくお願いします!