サブスク読書サービス「カクヨムネクスト」。
「カクヨムネクストの舞台裏」では、このサービスにまつわる裏話や関係者のインタビューなどを不定期でお届けしています。
今回の第三弾では、『不死を求める者、これを道士と呼ぶ』がこのたび書籍化される月汰元さんへインタビューを行いました。
作家の目線からみたカクヨムネクストや、作品の魅力について話をうかがいました。
これまでにないファンタジーを目指して
――カクヨムネクストでランキング1位を独走中の『不死を求める者、これを道士と呼ぶ』が、このたび書籍化されます。UGCのトレンドではなかなか見ない、武侠・仙侠ものの小説ですね。まずは、この作品をネクストで書こうと決めた経緯を教えてください。
月汰元(以下、月汰):日本のファンタジーはいろいろと出尽くしている感じなので、新しい世界観を構築しようと考えた時に、ふと、武侠・仙侠小説のアイデアが浮かびました。
実は、私の趣味のひとつに、CGで作られた中国アニメの鑑賞があるんですが、それらのほとんどが仙境・武侠ものなんです。日本ではあまり馴染みのないものですが、冒険者が活躍するファンタジー世界の中国版のような感じで、迫力ある戦闘シーンや、主人公が強くなっていく過程が非常に面白くて、一気にハマってしまって。
日本でファンタジーというと中世ヨーロッパのような世界が舞台になっている事が多いですが、そういうアニメを見ているうちに、古い時代の中国風の舞台で繰り広げられる物語を自分でも書きたくなった、というのが一番の理由ですね。本家の中国ファンタジーとは少し異なっていますが、そこは日本風にアレンジしています。
――武侠・仙侠小説の魅力はどのあたりにあるとお思いですか?
月汰:何と言ってもその独特な世界観ですね。江湖と呼ばれる武術家たちのアウトロー的な世界がまずあって、その中で日本人なら想像もしないような残酷で卑劣な悪人たちと、武術に長け、義理を重んじる主人公が繰り広げる活劇、それが武侠です。中国で大変人気のある金庸という作家がもともと好きで、作家としても、武侠小説独特の世界観に大きな影響を受けました。一番好きなのは、『射鵰英雄伝』というシリーズです。主人公があまり賢くない青年として描かれているので、思わずハラハラするシーンも多いのですが、誠実に生きようとする主人公の物語はやっぱり面白いですよね。
――『不死を求める者、これを道士と呼ぶ』の主人公のコウも、転生先で、もともとは誰に顧みられることもない奉公人の下男の立場から、知恵と機転で虚礼洞に入門し、倦むことなくコツコツと地道な努力を重ね、誰からも一目置かれる存在に成りあがっていきます。
月汰:エンタメのなかでは、特にマーベル・コミックを原作とする映画『ドクター・ストレンジ』なんかが特に好きなんですが、あれも、プライドが高い主人公が、挫折を味わい人生に絶望した後に懸命に努力をしながら成長していくという物語なので、そういうタイプの作品がもともと好きなのかもしれません。努力家である主人公が苦悩しながらも成長していく様子は、ワクワクしますし、あの映画の独特な戦闘シーンは、目が離せなくなるほど面白いですよね。
――また、本作は武侠小説でもありつつ、同時に仙侠小説にもなっています。
月汰:はい。西遊記や封神演義などに出てくるような仙人が登場するものが仙侠となります。仙侠小説は主人公が仙人になる物語が多いので、何十年、何百年も続くようなストーリーになり、雄大なスケールとなるのも魅力の一つです。
――不死の道士を目指して、コウの修行はまだまだこの先も続きますから、本作も、かなりスケールの大きな物語になりそうですね。
月汰:主人公はまだ初期の修行レベルである煉気期ですが、これから霊成期、結丹期、元嬰期と神仙への階段を登り、不死である神仙へと進化します。神仙になって仙境へ行くところまでは書きたいと思っています。
不死を目指して、物語は続いていく
私自身の作家修行
――さきほど金庸のお名前が挙がりましたが、ほかに、月汰さんが影響を受けてきた作家はいらっしゃいますか?
月汰:一番影響を受けた作家、ということでいうとジェイムズ・P・ホーガンですね。彼の『星を継ぐもの』という作品は、こんなアイデアをよく思い付いたな、と感心するほどの奇想天外で規模の大きななストーリーがテンポよく展開されていき、惹き付けられました。作家として、こういう読者の記憶に残る作品をいつか書きたい、と強烈に思わせてくれる作品です。もしまだ読んでいない方が居るのなら、是非読んでほしいですね。その価値がある作品です。
――『星を継ぐもの』は、現代ハードSFの旗手の手によるデビュー作です。月汰さんも、最近『ファンタジー銀河』を上梓され、今回は中華武侠もの、と自由自在にジャンルを横断しています。
月汰:アン・マキャフリイが書いた「パーンの竜騎士」シリーズとかも大好きです。彼女はアメリカのSF小説家でありファンタジー小説家で、このシリーズも初期はファンタジー小説という感じの作品ですが、後半になるとSF作品と思わせる内容になっています。
実は、ネクストの打診をいただいた際、『不死を求める者、これを道士と呼ぶ』と『ファンタジー銀河』の二つのアイデアがあり、どちらにしようか迷いました。ただ、『ファンタジー銀河』は、遥かに進んだ宇宙文明の話なので、何かと調べ物をする時間が必要で、書くのに時間が掛かりそうでした。一方、カクヨムネクストは、週に三回投稿するなど、定期更新のノルマを決めていますので、コンスタントに書き進められそうなこちらを選んだのですが、今考えるとそれは正解でしたね。
――なるほど。初めて、ネクストからお声がけさせていただいた時に、すこし躊躇いもあったと思うのですが、UGCのカクヨムで書くときと、ネクストで連載するときに、なにか意識の違いなどはありますか?
月汰:連載という形式が初めてでしたので、スランプになったらどうしようという不安がまずは一番大きかったですね。病気や怪我なら仕方ないですが、スランプというのは、ちょっとカッコ悪いというか・・・(笑)。WEB小説を有料化していくというのも挑戦的でしたので、そういう試みがうまくいくといいなと思いつつ、実際どうなのかというのは、やってみるまでわからなくて。ただ、やはりお金を払って読んでもらうのですから、それなりの出来栄えにしたいと思って頑張っています。投稿する前に念入りに推敲している事が、違う点でしょうか。
細部まで綿密に作りこまれた世界観
――実際に作品を書いていて、一番楽しいところはどこですか?
月汰:物語の世界観を作り込むところです。ストーリーが展開しやすい世界になるように、いろいろと伏線を仕込み、世界を構築する。ファンタジー小説やSF小説を書く醍醐味だと思います。
――たしかに、本作の世界観はすごく綿密に作りこまれています。さまざまな階級があり、生活の知恵があり、上を目指すためにも習得すべき武術、履修すべき指南書、魔境の生態系等々、細かい設定も枚挙にいとまがありません。どのように作品に練りこんでいったのでしょうか?
月汰:文明レベルは中国の唐王朝時代をモデルにしたのですが、かなりアレンジしています。細部の設定は好きな中国アニメを参考に作り込みました。但し、中国や台湾では常識的な事も、日本では説明が必要なので、そこは少し苦労しましたね。
――WEB連載から書籍化にあたっては、加筆修正もされていると伺いました。
月汰:WEB版では登場しているものの、出番が少ないキャラもいます。そこで、そういうキャラの出番を増やしてみました。特にシュンリンは物語の初期の頃から登場するのですが、あまり活躍の場がなかったので、書籍版では見せ場となるエピソードを増やしています。
シュンリンは書籍の裏表紙にも
――作中には、善人・悪人含め、魅力的なキャラクターがたくさん登場しますが、月汰さんのお気に入りは誰ですか?
月汰:自己中心的な傾向はありますが、物怖じしないセイランはわりと好きですね。
――逆に、当初意図していなかったキャラになった人物などもいますか?
月汰:モン長老は自由奔放な女性長老にしようと初め考えていたのですが、なぜか善良な長老になってしまいました。
――最後に、読者の方に向けて、メッセージをお願いします。
月汰:この先も、主人公のコウの修行が進めば、様々な武術を習得し、仙術も覚えます。それらを駆使して中国風の世界や魔境などで活躍を繰り広げます。その様子をワクワクしながら読んでいただけたら嬉しいです。また様々な魔境や仙境へも旅するので、そういう世界がどうなっているかもぜひ期待して楽しみにしてください。
書籍版の一巻では内弟子になるところで終わっていますが、カクヨムネクストに投稿しているものは、活躍して高弟となり、弟子も増えています。楽しい内容となっておりますので、もしご興味があればWEB版も引き続きよろしくお願いします。
――どうもありがとうございました!
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