【カクヨムネクストの舞台裏】編集部座談会


 2025年3月に1周年を迎えた、月額制の小説サービス「カクヨムネクスト」は、KADOKAWAのライトノベル編集部と一緒に運営しています。
 カクヨムネクストの運営側からインタビューや裏話などをお届けする「カクヨムネクストの舞台裏」では、以前もサービス開始直後に開発チームとの座談会をお届けしましたが、今回はサービス開始から1年経ったタイミングで、編集部チームとの座談会をお届けします。

【参加者】
編集A
メディアファクトリーに入社、MF文庫J編集部(編集長)、スニーカー文庫編集部(編集長)、ファミ通文庫編集部などを歴任。現在はカクヨムネクストをはじめ、ライトノベルジャンルを横断的にまたぐ部署の部長。

編集B
他社で書籍営業から主にニコニコ動画まわりのコンテンツを扱うエンタメ書籍編集者へ。KADOKAWAに転職後、スニーカー文庫編集部へ。一時期はカクヨム編集部も兼務し、カクヨム立ち上げに関わった。現在はスニーカー文庫編集長とデジタル企画推進部署の課長を兼務し、カクヨムネクストに関わる。

編集C
MF文庫J編集部から、すぐにカドカワBOOKS編集部へ。「小説家になろう」「カクヨム」などのWEB小説とひたすら向き合ってきた編集者。

編集D
メディアワークスに入社し、経理として書籍、映像、配信など歴任したのち、電撃文庫編集部へ。「電撃ノベコミ」「電撃ノベコミ+」などの開発運営に関わった流れで、カクヨムネクストにも協力中。

始めは「難しいと思う」という意見も

――はじめに、カクヨムネクストの立ち上げからここまでの振り返り、思い出話など伺えればと思っています。開発チームの座談会では、カクヨム編集長の河野さんが「2020年頃にはネクストの構想はあった」と仰っていましたが、皆さんが構想を聞いたのはいつ頃でしたか?

編集A
もともとはライトノベル編集部側でも「ジャンプ+みたいなものを、文字・テキスト領域でもやれないか?」みたいな構想は持っていて、そこからカクヨムの皆さんと合流して、いろいろ打ち合いをしながら今の形に落ち着いていった、という経緯があります。
そこから僕が具体的な形でプロジェクトに入ったのは、2023年頃、ちょうど2年前くらいですね。

——具体的な動きは、2022年から動いていた開発チームの、少し後くらいだったんですね。

編集A
そうそう、もう開発が始まるのはいつとか決まってるぐらいで、仕様を一気に固めないと、みたいなタイミングだった記憶です。

——実際にローンチに向けて動き始めてみて、いかがでしたか?

編集A
KADOKAWAのライトノベル編集部とひとくちに言っても、色んなレーベルがあって、ジャンルや抱えている商品群によって、やっぱりそれぞれちょっとずつ事情が違うんですよね。それを一つの方向性に持っていくのが、かなり難易度の高い状態でした。
それでもライトノベル編集部全体でカクヨムネクストを頑張っていこう、作品を作って、伸ばしていこうと方向性を定めて、現場の編集者も頑張ってくれて、今ここに至るっていうような経緯だったかと思います。Bさん視点だとどうですか?

編集B
私が最初に話を聞いたのが23年の3月で、多分その時は「難しいと思う」というようなことを言った気がします。
カクヨムの成功は奇跡的なことだと思っていて、WEB小説投稿サイトの運営にいろんな企業がチャレンジして運営に苦心しているというケースを何度も見てきました。そこに加えて課金、しかもサブスク。今、もっと安い値段で、もっとリッチな映像のサブスクサービスが数ある中で、ですよ。WEB小説の課金は本当にいろんな企業が失敗してきたし、とても難しいミッションなんじゃないかということを言ったと思います。
でも、1週間後ぐらいに「やることになったから、やってみて」と上司に言われて、それで参加させていただくことになったという感じでしたね(笑)

編集C
自分はBさんのさらに後から入ったと思います。僕は逆に、そこまで厳しいとは思ってなくて、「広告収入以外にも、小説にWEBでお金を払っていただく余地はあるんじゃないですか」くらいの感想でした。
ただ、たしかに、まとめづらい話だとは思いましたね。


カクヨムネクストのティザーサイトに掲載された参加レーベル一覧

編集D
私が入ったのは、皆さんよりもう少し前でしたね。2022年の10月頃、実際にカクヨムネクストを開発するにあたって、どういうものにしましょうか、というところでした。
実は、その数年前に、電撃編集部側からカクヨムへ「プロ領域のところができませんか?」という相談をしたんですが、当時は「まだ核はUGCの方で、そこにもっと力を入れていかないといけない」という話で、うまくタイミングが合わなかったんですよね。ところが、カクヨム側でも機が熟して、プロ領域のところもやらないといけない、という話になったところでの参加でした。

私自身も、当時電撃ノベコミというアプリを運営していたり、電撃ノベコミ+っていう後継媒体を開発したりしていたんですが、それも含めて、どういうことをやりましょうか?という話から始めました。ノベコミの反省として「課金はされるけど、それ以上に広告費が出ていく」「どうやって人を集めていくか」が大きな課題だったんですが、カクヨムの場合は既にユーザーがついているので、それがアドバンテージになると思いました。

ただ、最後の最後に決まったと思うんですが、課金方式がサブスクになったのは、驚きというか、本当にそれでやるの?という気持ちはありましたね。
当時、電撃文庫編集部は他社の小説サービスに協力したり、ノベコミをやったり、課金も色々と試してみて、結構厳しい現実を知っていたので。本当にそれを月額で払う人はいるんだろうか?というのは若干思っていました。

想定の倍以上、ずっと右肩上がりの会員数に「いける」と感じた

——課金方法は、色々と議論を重ねましたね。これでいける、と判断した要因やタイミングはなんでしたか?

編集A
これでいけると思ったタイミングでいうと、サービスの告知を出してからですね。
最初、課金方法については、確か今採用しているサービス全体でのサブスクの形と、作品ごとのサブスクの形と、単話課金の形の3パターンぐらい考えていて、どれにするかをギリギリのところまで皆さんとブレストさせていただいて。
どうして全体でのサブスクという今の形にしたのか、あまり覚えてないんですけど。

編集D
議論のなかでカクヨム側から、カクヨム本体側のサポーターズパスポートの課金ユーザーがどれくらいいるか、という説明がありました。「サポーターズパスポート自体は、絶対に見返りがあるものではないのに、これだけのユーザーさんが応援課金してくれている」というものでした。それなら、ある種「場に対しての信頼感」があるのかなと思いまして、作品が提供されて「こういう作品が読める場所なんだな」とユーザーが思ってくれれば、月額制でもいけるのかな、と思いました。


サポーターズパスポートは、カクヨムで小説を書く作家に読者がギフトを贈り、創作活動をサポートすることができる仕組み

編集A
どの課金方法をとったにしても同じだったと思いますが、「本当に課金していただけるんだろうか」っていうところはずっと不安が残っていました。もちろん、我々が作っているものに対して「読んでいただければ、皆さんに面白さが伝えられる」という自信は持っていたんですけれども、やっぱり、かつていろんなサービスが失敗をしてきた領域に対して、踏み込んでいくっていうところなので。いくらカクヨム自体が大きくなっているとはいえ、日本に「有料でWEB小説を読む」という文化が根付いてないでしょう。かなり難しいと思いました。正直、1000人いけばいいかな、と思っていました。

それが蓋を開けてみたら、スタートで想定の倍以上の方に課金をしていただけて、「こんな課金してくれるの?」「もしかして、想像していたよりチャンスがあるのかも?」って。それがすごい記憶に残っています。 僕たちがいつもやっている、本を作る商売……皆さんに読んでいただく、買っていただくっていう流れとは、また違うマネタイズの形が起こった瞬間っていうのを、目の前で見ることができたっていうのは、すごく印象深いし、今後のビジネスチャンスを広げる可能性を感じました。

編集B
一つの出来事ではなく日々のグラデーションで、会員数の伸びや、読者のコメントの熱量、カクヨム運営の人たちが物凄く真剣に向き合っているという体制の面を見て、これはきっともっと成長するんだなって思いました。

私は最初、サービスとは機能面が重要なのかなと思っていたんです。例えば映像と比較すると、あちらの方が開発コストや関わる人数も多くて、同じエンタテインメントでもテキストでは映像と比較して機能面では勝てないんじゃないか?と思っていました。ですが、カクヨムはサポーターズパスポートで「読者が作者を応援する」という仕組みを作って継続してきて、作家さんに対して応援しやすい環境を作れていたことが大きかったんだと思います。
私も数年前、とあるアーティストのCDを買ったことがあるんですけど、家にCDデッキを持っていないにも関わらず購入したんですよ。これって機能で買ってないんですよね。その人をただ応援したいから買ったんです。だから、そういうことってあるなと改めて気づかされました。

編集C
作家さんと一緒に、連載も現場の編集者としてやってた立場からすると、今に至るまでずっと「カクヨムネクストこけてますね」って言われます。ローンチの時も「こけましたね、やばいっすね」と言われましたし、今も作家さんに話をすると「なかなか盛り上がってるようには見えないですね」って言われています。でも、そんな時に「作家さんにはこれぐらい還元ができてます」と言うと「すごいじゃないですか!」っていう感じの反応が返ってきて、その「すごいじゃないですか」の瞬間に、やっとうまくいってるのを感じます
一方で、外の作家さんにはその盛り上がりが見えていないし、読者さんにも見えていない、という認識なので、もっと盛り上げていきたいなっていう気持ちはあります。

編集D
私はノベコミも含めて、課金は一瞬はされるんですが、継続しないっていう経験が多くて。どんどん話題や広告を投下しないといけなくて、課金人数を保持し続けるっていうことが意外と難しい。
その経験からすると、カクヨムネクストでこれはすごい、いけるかも、と思ったところは、離脱が思ったより少なくて、会員数がずっと右肩上がりを継続できているところです。ローンチが3月だったんですが、5月のゴールデンウィーク付近で落ちるかなと思っていたんですけど、それが落ちなかった。それで、これはひょっとしたら、ある程度のところを目指すことができるんじゃないかっていう手応えを感じました。
今まで他社サービスでも、基本的に試しに一度はみんな課金してくれるんですけど、大体一瞬でいなくなるっていうことをずっと繰り返してきたのが、留まってくれた。その点が、今回大きな違いとして感じられました。

——たしかに、離脱率はずっと変わらず低い状態ですね。

編集D
離脱する方よりも、加入してくれる方が多い、という状態がずっと続いているのがすごいですね。カクヨムネクストへの期待や、一定のユーザーの支持がある、ということを感じます。
ただ、Cさんの仰る通り、ユーザーからそれが見えにくいところがあるので、特に参加していない作家さんからすると「あれって本当に大丈夫なの?」と思われることが課題だと思っています。実は、本当はこんなにいいことがあるよ、ということを、どうやって伝えていけばいいんだろうと。
作家さんも読者も、今時はコスパよくタイパよく、という人が多いはずなので、ここに行けば良い事あるよ、というところを見せることが必要なのかなと思っています。

——成功してます、という感じをもっと出していきたいですね。

編集C
作家さんへの還元に成功しているのは、還元の設定の問題もありますよね。還元割合が、広告収入に比べてかなり高いので。そういう意味では、作家フレンドリーだと思います。自社フレンドリーかは分からないですけど(笑)。「 めちゃくちゃ作家さんに優しいサービスですよ」ということは言えるかなと思います。

物語とキャラクターが生きられる新たな場所になる

——ここまで、カクヨムネクストのローンチから1年経つまでを振り返ってきましたが、少し話を変えて、今後のことやネクストへの期待についてお話を伺えればと思います。作品を生み出す編集部として、カクヨムネクストでこういうことをしてみたい、といったことはありますか?

編集B
カクヨムネクストにしかない作品がアニメ化されて、そしてその映像が話題になったらどれくらいの人がカクヨムネクストに興味を持ってくれるのか?というのは気になります。書籍も出ていない、コミックも出ていなくて、集約先がすべてカクヨムネクストとなった場合の話です。

編集A
書籍化をはさまない形のメディアミックスって、ネクストだから出来ることでもあるな、というのはすごく思っています。

編集B
物語とキャラクターが生きられる新たな場所としての構築に期待しています。
編集部からすると、本が売れないと、そのキャラクターも生きられないし、物語も閉幕しないといけないし、作家さんの経済活動は止まってしまう。今の仕組みの中ではどんなに良い作品であっても、ある一定水準以上の売上に達しないと編集部としては打ち切りにせざるを得ません。しかし、カクヨムネクストであれば、熱烈な1,000人の応援があれば物語やキャラクターが生きられる場所になるので、それはすごく価値があることだと思います。

編集A
映像も音楽も、パッケージじゃない収益モデルを作り上げて息を吹き返した、と考えると、書籍のビジネスだけが時計の針がずっと止まりっぱなしでいる。電子書籍だって、紙の本の形を維持して媒体を変えて出しているに過ぎない。Bさんがおっしゃる通り、違う形、出口を探してみたい。
ネクストだけっていう話ではもちろんないとは思ってるんですけれども、その一つの可能性として突き詰めていった結果、ここだけで生活ができるクリエイターさんが生み出されて、ここだけで運営ができる編集部っていうのが成立する、そんな未来には本当に期待をしたいな、と思います。

編集C
人数がすごく多くなくてもコアなファンのいる作家さんの居場所になったらいいと思っています。ある先生がネクストのためにゼロからカクヨムのアカウントを作って、作家フォロワーが1,000人になったっていうのが希望だと思っています。その先生は「本を出したらある程度ファンが買って売れる」という方ですけど、そこまででなくても、個性的な作品を書いてたり、SNSが面白かったりで、デジタルだと今、200人や300人集められる人はいっぱいいると思うんです。その集めた人がお金を出してくれたら、もっと自由に創作ができるかもしれない。特にその先生は、WEB小説カルチャーとは別の出自の方なので、その人がネクストがあることでWEBでも人を集められたというのは、希望かなと思います。ネクストがあらゆる作家さんの支えになっていくといいですね。

カクヨムネクストは、もっとヤバい場所になってほしい

——細かい点で、例えばこういう作品を作りたい、というようなことはありますか?

編集C
自分は最初、ネクストの話を聞いたときから、雑誌のイメージがありまして。つまり、読み切りとか、そういうコンセプチュアルな作品が載って、商業性が試されて本として投入される、みたいな流れです。
「載ったら多少はお金になるから、本になるかわかんねえけど、やばいもの書いてみたらいいじゃん」っていう場所になるといいなっていうのが、基本的に思っていることです。今の規模感だとまだ難しいですが。
もっと何でも書ける場所にしたら、そこからこそ、本当にすごいIPが出てくるであろうイメージを持ってますね。

編集A
いいよね。普通に書籍作ってるだけだと、『ラーメン赤猫』とか、昔だと『ピューと吹く! ジャガー』みたいな作品はやりにくいけど、ネクストを使ったらできるんじゃね、みたいな期待感はあるよね。

編集C
自分は、ある種のWEB小説の良いところである「編集者を通さないヤバい面白さ」みたいなものを、もっと世の中で見たいよっていう気持ちがあります。「SNSや本屋さんで5秒ぐらいで内容を分かってもらって買ってもらう」というのを目指すことが作品づくりの全てというのは辛いので、カクヨムネクストはとりあえず読めるというメリットを活かして、もっとヤバい場所になったらいいと思います。

編集A
「このヤバいタイトルの中身、どうなってんの?」みたいな作品、なかなか出会わないもんね。

編集C
そうですね。だからネクストを、多様な作品が連載されて、しかもそれで稼げるという形にしていきたいですし、ネクストの読者さんには、「自分はそういう作品を支える、エッジな読者なんだ」という気持ちになれるような場所になっていけるとかっこいいと思います。

編集A
入り乱れてほしいですね。
意味が分からないようなやばい作品にも、しっかり還元ができるようになったら。

―—Dさんは、他のアプリも経験されていますが、ネクスト独自に期待すること、やりたいことはありますか?

編集D
一定のファンがいる作家さんの活動の場ですとか、紙の書籍では難しい変なことをやれる場として期待したいですね。ネクストでやることによって、最終的に収益になって、作家さんにプラスになる、ということができるのであれば、いろんな企画にチャレンジしていきたいと思います。
紙では収支が立たないことも、ネクストと電子書籍でやるならチャレンジできるので、今まで紙や印刷物に縛られていてできなかったことも試したいです。

編集C
絶版本が読める、とかもちょっと試したいですね。

編集A
商業流通には載ったけど、今は手に入らなくなった原稿が読める、というのは夢があるね。

テキスト体験、 読書体験っていうものの、チェンジを行う挑戦

―—今後への期待や、ネクストがこうなっていくといいな、という部分をお聞かせいただけますか。

編集A
もうすでに原稿が書きあがっていて、書籍っていうパッケージに固まったものと違って、すごいフレキシブルに、どんなタイミングでも、どんな告知でも打てるっていうのがある種、WEB小説の強みじゃないですか。開始タイミング、序盤10話のところ、めっちゃ盛り上がるタイミング、それぞれでユーザーへアプローチすることができるから、サイト内の見せ方や宣伝などでも決まったパターンにとらわれない柔軟な運営を目指せると、場も温まっていくような気がします。
今は安定的に運用することが重要で、どうしてもそっち優先になっていってしまうんですけど。特性を生かした形に、もう少しマイナーチェンジを重ねて、 いろいろ試していけるといいなと思います。

編集B
なにか目的の作品があってネクストに来て、次に何を読もう?と思ったときのわかりやすいガイドがあると嬉しいなと思います。

編集A
月間アワードとか作っても面白いかもね。作品を推しやすくもなるし。

―—最後にユーザーに向けて一言お願いします。

編集A
繰り返しになりますが、テキスト体験、 読書体験っていうものの、チェンジを行う。そこに今、トライをしていますし、このカクヨムネクストという場所を使って、皆さんと一緒にそれを考えていきたいと思っています。カクヨムネクストって、そういうチャレンジだと思うんですよね。そこにやっぱり関心を持ってほしいです。

これまでの書籍っていう市場、ある種固定観念的に捉えていたものを、マインドから変えていく。それはもう、編集者も含めてなんですけど。そういう目線というか、意識を、頭の片隅に持ってもらえると嬉しいなって。そうしてくださいっていうより、嬉しいなってことが伝えられると、いいなと思います。
次の世界をみんなで作っていきましょう。

―—ありがとうございました!




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