「カクヨム甲子園2021」大賞受賞者に聞く!受賞に一歩近づく創作のポイント!/占冠 愁(ロングストーリー部門)|「カクヨム甲子園2022」応募者応援特別企画



夏恒例、高校生限定の小説コンテスト「カクヨム甲子園2022」の詳細を発表しました。作品の応募受付は7月15日から開始します。

開幕に先立ち、今から作品の内容を考えている方、これから応募を検討したい方など、参加を予定している皆様へ向けた「歴代受賞者のインタビュー」をお届けします。

今回は、昨年のカクヨム甲子園2021《ロングストーリー部門》で大賞を受賞した占冠 愁さんにお話を伺いました。

▼受賞作『世界は日高色に染まる。』占冠 愁
kakuyomu.jp

──この度は大賞受賞おめでとうございました。小説執筆はいつごろから、どのようなきっかけではじめましたか?

中学2年の頃です。その頃の私は中二病を併発した愛国者で、真実の歴史を執筆するためにカクヨムをはじめました。それはやがて長編架空戦記となり、今に至ります。かつて啓蒙に燃えた中学生も、今や受験に追われる散文家です。カクヨムには僕の十代の歴史が詰まっています。

──中学生のころからカクヨムで執筆していたのですね。
占冠さんの好きな作品を教えてください。

座右の書は『JTB時刻表1988年3月号』です。青函トンネルと瀬戸大橋が開通し、北海道から九州まで線路でつながる国鉄悲願の「一本列島」が完成した年です。 皮肉なことにその国鉄はこの直前に崩壊し、実現を見ることは叶わなかったのですが。一方、北海道では天北線、名寄本線といった長大路線の廃止が続く年でもあり、記し残された当時の列車や路線図の節々が鉄道時代の終焉を物語ります。鉄道の栄華と衰退、すべてを一冊に綴じた名書です。あとは曹雪芹の『紅楼夢』で清代文学の真骨頂に触れています。

──まさかの時刻表とは……!受賞品の図書カード(5万円分)を使って書籍は購入しましたか?

『音がいっぱい!あそべる でんしゃずかん』を購入しました。これで電車の音を聞き分け、電車鑑定士を目指します。

大賞記念品の表彰盾(キンコーズ・ジャパン株式会社様ご制作)


──受賞作は2021年4月に廃線となった日高本線を舞台とした物語でした。日高本線を舞台に選んだ理由を教えてください。

日高本線。かつて苫小牧から様似を繋ぎ、全長147kmに渡って海岸を縫い走る全国随一の長大ローカル線でした。世界唯一、砂浜の上を走る列車。牧場を縫って競走馬と駆けた汽車。窓際まで波しぶく護岸線路。昨年の春、4月1日。この全てが、朝露に融けて消えました。白砂、群青色の太平洋、ルピナスの桃紫、息吹く春緑――日高色というイメージカラーを与えられた「本線」でありながら、廃止となった日高本線。ここを選んだのは、少なくとも僕が旅してきた鉄道の中で、 この日高本線が日本一美しかったからです。廃止。色褪せて、忘れられて、失われる色。そう思うと、自然と筆を執っていたんです。この憧憬を書き留めずにはいられませんでした。

──日高本線への大きな愛を感じますね。受賞作からもその愛はびしびしと伝わってきました。執筆にあたってはどのような取材や下調べを行いましたか?

インターネットで旅行記やグーグルマップ、廃止に至るまでの経緯、そして現状をくまなく調べ上げました。それでもやはり現地に行かなければ言葉というのは出てこないもので、執筆後も含めると、日高には合計3回足を運んでいます。格安航空と断食が主題の金欠旅行でしたが、特に2回めの訪問は、廃止を翌日に控えた日高本線で、砂浜の線路の上を4時間かけて歩きました。その景色は本当に綺麗で、切なく、感性あふれるままに文字へ起こせました。

──なんと!緻密な取材に下支えされた丁寧な描写が受賞の決め手となったかもしれませんね。
受賞作はどのようなところにこだわって執筆しましたか?

「執筆後記」を使って小説構造を二段構えにしました。本文のシメにおける感動を、執筆後記(あとがき)でダメ押しすると言うべきでしょうか。本来蛇足的な「あとがき」を、本文と組み合わせることで作品の一部分にする。またここで、地方を蝕む過疎化、そこにおける公共交通の在り方――広く知られているとは言い難い、社会問題を投げかけました。そこも受賞のポイントになっていたら嬉しいなと思う次第です。執筆後記はこの拙作の中で一番満足している部分なのですが、これは廃止前日、3月31日の浦河駅で、拙作の舞台にしたプラットホームに腰掛けながら書いたものです。そこに生えていたルピナスに着想を得て、一気に完成させました。拙作の完結はこの夜、2021年4月1日、0時。日高本線の廃止その瞬間に、鵡川の駅からカクヨムに投稿いたしました。最もこだわったのはこの、投稿日を廃止当日にすることでした。

──投稿日にまでこだわるとは脱帽です。
受賞作はどのような方法で、また、どのくらいの時間をかけて執筆しましたか?

そもそもプロットを書くことをしないので感性のままにパソコンへ綴り始めました。イメージソングを聞きつつ、日高本線の動画をあさって、せめてこの光景を残し、伝えたい一心で7日ほど3万文字近くを書き上げました。本作をカクヨム甲子園に出そうと決めたのは9月に入ってからで、このときに改稿して1万9千文字へ圧縮しています。

──小説投稿は今後も続けていく予定ですか?

留萌線、根室線、そして函館本線。今年だけでも、北海道では新たに3つの鉄路の廃止が確定しました。コロナ禍を挟んで鉄道を取り巻く状況は急速に悪化し、いよいよ一つの時代が去ろうとしています。ここに確かにあった情景を、書き留め、残し、伝えていく。小説にはそんな役割もあると思っています。だから、きっと小説投稿は続けます。昔日を残し、手に取れば感傷と追憶に浸れるような、そんな作品を書いていきたいです。

──ずばり「カクヨム甲子園2022」に参加される予定はありますか?

受験がかなり厳しい状態なので、参加は断言できません。ただ、北海道のとある小さな炭鉱の街を舞台に、一つ短編を書いております。カクヨム甲子園2022に間に合えば、参加したいと思います。

──最後に、カクヨム甲子園2022に挑戦する高校生に創作する際に心掛けるべきポイントなどのアドバイスと応援メッセージをお願いいたします。

前回も前々回も大賞受賞作のヒロインは人間ではありません。椿に、電車です。ヒロインは人間でないほうがいいのかもしれません。冗談はさておき。他とは『違う』作品で目立つというのは案外アドバンテージになります。また、イメージソングを決めるのはかなり大事です。小説の雰囲気を醸成するのにとても役に立ちます。あとは実地を旅して、すべて感性に任せましょう。

占冠 愁さん、ありがとうございました!



「カクヨム甲子園2022」の応募受付は、
7月15日17:00から開始します。

▼「カクヨム甲子園2022」特設サイト
kakuyomu.jp