はてなインターネット文学賞受賞者インタビュー:お望月さん【はてな社長賞】

KADOKAWAとカクヨムを共同開発する株式会社はてなの20周年を記念し、はてながカクヨム上で初めて開催した「はてなインターネット文学賞」。2,406作品におよぶ応募作品の中でもっともインターネット文学らしいと選ばれた個性あふれる受賞作の作家のみなさまに受賞作や創作活動、そしてインターネット文学についてお話を伺いました。

第3回は、はてな社長賞『私たちは『ゴルゴ13』の刊行ペースのことを何も知らない。』お望月さんです。

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人喰いアリクイ人喰いアリクイ人喰いアリクイ

--受賞作「私たちは『ゴルゴ13』の刊行ペースのことを何も知らない。」について、教えて下さい

本作を書くきっかけは、本文中と同様に「13番目の客」の結末を思い出せなかったことでした。数年前に読んだはずのエピソードの結末を思い出すことができず電子書籍を入手したいが、単行本未収録であることが判明した、というきっかけで執筆を始めました。最初は日記としての走り書きでした。

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受賞作は桜の季節に執筆された

日記ですので執筆に苦労することはなかったのですが、最初は走り書きとして登録したため、乱文乱筆であり、何度も修正を重ねてなんとか読めるようにしたのが、手間をかけたのが苦労した点といえば、該当すると思います。

感想は、近い知人からは意外性のある(シリアスな)内容であることをホメられました。また、初めて読んだ方からは、ゴルゴ13の刊行スタイルを知ることができた(いままで意識したことがなかった)と、トリビア的な伝わり方をしたようです。

--ゴルゴ13の「13番目の客」が収められた単行本が先日発売されましたが、読まれましたか? もし読まれていたら、感想をお聞かせください。

この点については、一点ご指摘をさせていただきたいのです。

実は、「13番目の客」は、昨年発売の『ゴルゴ13 196巻 腐食鉄鋼(SPコミックス)』に収録されています。ですので、本作品のカクヨム版の登録時はすでに「電子版」で手元にありました。(読者に調べてほしいな~とすっとぼけてました、すみません……)

SPコミックス(単行本)リンクはこちらです。

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なお、『ゴルゴ13 164巻 13番目の客(SPコミックスコンパクト)』は、電子版が存在しない、いわゆる「文庫版」に該当します。複雑怪奇な出版システムですが、その都度、新しい読者に新たな角度で接触して反応を起こすということが、今回の選評でも証明されたと言えると思います。

「13番目の客」は、表題作として採用されるだけあり、強力な誘因力があるエピソードです。あのゴルゴ13が日常的な世界へ侵入するのですから、異物感が生み出すコメディとしての面白さが保証されており、奥ゆかしいゴルゴ13や、その様子に怯えるマイケル老人の慌てぶり、そしてバッハを軸にした危機一髪の緊張と緩和。短いエピソードながら、ユーモアゴルゴのベスト作品のひとつに数えられると思います。

--インターネットで小説を書きはじめたのは、いつ、どこで、どのようなきっかけでしたか?

インターネット上で小説を書き始めたのは、10年ほど前、「ウルティマオンライン」という最古のオンラインゲームの中でのことでした。

その世界では、アイテムとしての「本」が存在し、本に執筆をすることで「小説」「参考書」「告発文」「おしながき」等に変化させることができます。プレイヤーが作成できる、オンラインゲーム内のユニークアイテムとして、これほど魅力的なアイテムはないでしょう。

そういった理由で私はオンラインゲーム上で「小説」「エッセー」「落語」を書き散らしながらオンラインゲームのアイテムの即売会等を行っていました。

ウルティマオンラインのプレイに一区切りがつき、プレイを終えてから数年間はインターネット小説から離れていました。

ところが、note上で『ニンジャスレイヤー』で知られるダイハードテイルズが、自ブランドでの小説大賞を始めました。それが「逆噴射小説大賞」と呼ばれるものです。(2019年開始、2021年で第4回です)

ダイハードテイルズ結成のきっかけが、通称「ほんやくチーム」がウルティマオンライン上で出会った、というエピソードにもシンパシーがあり、私も参加をするようになりました。

これがインターネット小説再開のきっかけで、以降、カクヨム上で細々と著作を重ねております。(それゆえに、レガシー・オンラインゲームを題材とした作品が多いです)

--お望月さんにとってインターネット文学とはなんでしょうか?

インターネット文学の定義は「インターネット上でなければ公開されることがなかったであろう」文章と考えます。日記としての走り書きであっても、公開できる「場」さえあれば、おのずと公開されることになります。

そうすると、一般的な「小説」に関しては、定義から離れていくことになるのではないかと思います。

「私たちは~」については、焦点がボケたジャンル不明の物語です。カクヨムは、他の小説サイトより幅広い内容の作品が公開されているという印象がありますので、読者にも受け入れていただけるであろうという感覚がありました。

はてなインターネット文学賞は、売れ筋(ファンタジー)以外のジャンル作品でも、公的に評価される機会を得ることができるという意味で、非常に良い企画であったと思います。

また一方で、1年も経てば理解ができなくなるほどの「時事性」や「対象読者の狭さ」が「インターネット性」だとも思います。あまりに新鮮な言葉を選択しているため、公開された時点ですでに古典化を始めている「ファンキー竹取物語」や、怪談を理解するための共通認識(私は消化酵素と呼んでいます)がなければ、ただの下ネタにしか見えない「尺八様」が、狭い範囲に強烈な印象を残す作品の代表的なものであると考えます。

--ありがとうございました。

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