5・妹は兄と話したい
鷹田とバンドができそうな事、ショウくんが今もピアノを一番にがんばってる事、色んな気持ちを抱えながら今日も家に帰る。
「ただいまー」
「おかえりーお兄ちゃん! ご飯食べようー!」
「え!? カナってば俺が帰るの待ってたの!?」
「一人で食べるの寂しいんだもん……」
「カナはママ似なのに、甘えん坊だなぁ」
「寂しいのは寂しいのー! だから今日は着替えたら演奏しないで降りてきて!」
今の時間は20時……お手伝いさんが家には来てくれてるけども、もう帰っている時間だ。俺とカナにはママのリカオンの血が混ざっていて、リカオンは独りで大丈夫という話なんだけども、そう都合よくはいかないらしい。
「絶対にすぐ着替えて戻ってくるから!」
「うん……」
そして自分の部屋へ向かおうとする、けども……
「カナ、待ってて大丈夫だって!」
「お兄ちゃんの大丈夫はダイジョバないから」
信用が無いのかあるのか……カナはくっついて離れようとせず、部屋までついてくる……。
「あの……これから着替えるんだけど……」
「どうぞ?」
「いや、見られてたら恥ずかしいって……」
「別にカナは恥ずかしくないよ?」
カナとは4歳差。俺が高校1年生だからカナは小学6年生。小さい頃は気にならなかったけども、今は見られるのは恥ずかしいって感じる。
「じゃあ少なくとも別の所見てて」
「はーい」
生返事するカナは既に俺の本棚にある楽譜を手に取り開いて眺めていた。
「ねえねえ、聞いてお兄ちゃん」
「ん、どうしたの?」
「今日、学校でね……」
カナが学校での話を始めようとする。普段はご飯を食べながら聞くのが日課になっている。けども、今日は話したくて仕方ないらしい。着替えながらうんうんと相槌を打つ。
「――でね、宙太くんが悪いのにさ、先生はね」
「はいはい、ご飯食べながら聞くよ」
話すのに夢中なカナの頭にポンと手を置く。
「あ、うん!食べよ!」
――
「だからね、私は本当に悪くないのに! 先生に色々言われてオカンムリなの!」
「そっかー……」
話を整理するに、クラスメイトの男の子がちょっかいをかけてきて、それに対してカナが仕返しした所、その子は大泣きしてカナが悪いことしたようになってしまったらしい。
「宙太くん嫌い! 本当にいつもいつもちょっかいかけてくるんだよ!」
「どうしてそんな事するかは聞いてみたの?」
「聞いたよ! でも教えないってニヤニヤしてくるの!」
「うーん、なんでそんな事してくるんだろうな……」
俺に仮面模様があるように、カナにもママ譲りのしっかりとした模様がある。それでも怖いとかは無く、ハツラツとしていて好奇心旺盛に色んな所に元気よく突っ込むタイプだ。イジメられたりするようなタイプではない。
「もしかしてカナの事が好きとか?」
「絶対にそれは無いね! 席替えの時に私と離れられて嬉しいって言ってた!」
「うーん……となるとみんなでちゃんと話すしかないのかなぁ……」
「ホントのホントのホントに我慢できなくなったら、その時はちゃんと言うね? もー、明日も宙太くんと会うのヤダなぁ」
「まぁまぁ、ゆっくり解決してこ。本当にどうしようもなかったら、その時はちゃんと動くから話してな?」
「うん! 聞いてくれてありがとうね!」
愚痴を吐けてスッキリした顔のカナはパクパクとご飯を口に運ぶ。
「お兄ちゃんの方はどうだった?」
「ん、俺?」
鷹田やショウくんの事を思い浮かべる。
「んー色々かなぁー」
「その色々を聞きたいんだよ?」
「いや、本当に色々なんだって!」
「順番に話してくれればいいじゃん!」
「じゃ、じゃあ……まずはバンド活動で進展があった」
「へぇー! よかったね!」
「次は最近会えてなかった友だちに会えて……」
「へぇー! どこで?」
「バス停で……」
「何を話したのー?」
「最近どう?って……」
「ふーん」
「そんなくらいかな」
「あんまり色々じゃないじゃん」
「えー!? いや、色々なの!」
「じゃあ思った事があるって事でしょー? なんで話してくれないの?」
「ん、んー……」
言葉にしようとすると難しい。
ショウくんとまた会えたのが嬉しい。けども、ショウくんは遠くに行ってしまったようで、でも、声をかけてくれたのはなんでだろうって考えてしまう。
俺は寂しいのかな、それとも何も思っていないのかな。わからない。
「お兄ちゃんって本当にそういうの伝えるの苦手だよね」
「多感な時期……って奴なの」
「前の時より元気になったのはよかったけども、カナは心配してるんだからねー!」
「悪い悪い、今は大丈夫だから」
「お兄ちゃんの大丈夫は信用無いよ」
「いやいや……」
「まぁいいや、ごちそうさま! お兄ちゃん練習する?」
「うん、明日は出かけるつもりだし、その分練習しとこうかなって」
「じゃあ聞いてようっと!」
「はいはい、指導よろしく」
――
「ねえ、お兄ちゃん、この曲すごい難しいって言ってたよね?」
「あ、うん、今の感じだと二割かな……?」
「ゆっくり弾いて練習してるのはわかるけど、なんだかんだ弾けてるよね?」
「いやいやいや……雰囲気とか強弱とかも考えるから全然だよ? まだ音並べてるだけで……」
「でもまだ三日も経ってないのに二割だよ!?分数で考えたら残り4/5だよ!?」
「待って、分数は苦手だから、残り……八割って言って!」
「後、十二日したら弾けるって事になるよって言ったの!!」
「えー!? 人に最低見せられるようになるにはまだまだかかるよ!?」
「じゃあなんで二割なの!?」
「そこはアレだよ、他の曲で培った技術って奴で……それに高校での軽音部とか、そういうのも含めると時間がな……」
「近くの高校に通えばよかったのにー」
「それはダメだって……ロックしてるってバレちゃう」
「あーそっか……」
「それに勉強出来なすぎて結局今の所もギリギリで……」
「カナはお兄ちゃんの将来が心配だよ……」
「小学生に心配されるっておかしくない!?」
「小学生に分数で負ける高校生の方がおかしいよ……」
「エーン……」
――
私のお兄ちゃんは音楽が大好き。
ピアノはもちろん、バイオリンもピカイチの腕前で、歌も歌うし他の楽器にも手を出してそれなりにお披露目できるくらい、それくらい音楽が好き。たぶん、お兄ちゃんの感じる世界は音が中心なんだろうなって思ってる。
私はお兄ちゃんの演奏するものが大好きで、追うようにしてピアノや歌を始めた。そしてちょっとずつ上手くなって、お兄ちゃんと一緒に演奏できた時はお兄ちゃんの見てる世界を分けてもらえたようで嬉しかった。
だけどね、二年前にね、お兄ちゃんが怖い顔して帰ってきたの。本当に怖い顔で。
その時からお兄ちゃんの演奏はなんだか変わっちゃって、前みたいな楽しく弾く事がなくなっちゃったの。何度も何度も、間違えたってやり直して、すごく苦しくて辛そうで、でも、大丈夫としか言ってくれない。
なのに、私がピアノを間違えても何も言わないの。
私はお兄ちゃんの楽しく弾く姿が大好きで始めたから、その気持ちを演奏しちゃう。だから正しさで言うと良くないから、お兄ちゃんの練習を見てると怖かった。
そんな時でも、お兄ちゃんは私に言う。
――カナのピアノ、好きだよ、って。
でもね去年の夏くらいから、お兄ちゃんはまた変わったんだ。
ロックをしたいって、私にだけ話してくれたんだ。結局、上井先生に話しちゃって三人の秘密になっちゃったけど……でも、先生も手伝ってくれて、それで普通の高校に行ったんだ。
お兄ちゃんがロックをできるように、私は応援しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます