13・やりたい事はなんだろな?
「ごめ! 吹奏楽部は無理だわー女子に囲まれるの面倒だし!」
「わ、わかったー……」
吹奏楽部の助っ人を探しているもの全く手応えなし……うちの高校の男女比は7:3くらいだろうか? 女子の花園である吹奏楽部に関わるのは抵抗がある人が多い。何とか声をかけられた女子はまだ数名だけど……
「よーう? マイナスくんー」
「あ、森夜先輩に黒間先輩、こんちゃッス!」
声をかけてきたのは軽音部の先輩で、鷹田が組んでいるバンドの2年生たちだ。
「ねえねえ、楽部の助っ人に鷹田と行ってんだって〜?」
「あっ、はい……吹奏楽部の友だちにベースを融通してもらってて……」
「いやさぁ、そういうのはまぁさ、ある程度は仕方ないかもしんないけどさぁ……」
「……?」
「いやさぁ、軽音部って事、忘れてないー??」
「えっと……??」
いつの間にか壁際に追い込まれていた。
「女に尻尾振るような真似すんなってコト」
「えっ……?」
どういう意味なのか、考えてみる……けども、本気でわからない……
「ハァ? なんか文句でもあんのか?」
「い、いえ、な、無いッス」
「いやさぁ、助っ人は百歩譲るけどもさぁ、それ以上は媚売りすぎじゃないー? いや、軽音部のプライドってあるでしょー?」
「す、すみません……ありがとうございます……」
いったいどういう事なのか全然わからない……けども、鷹田が上手くやってるのを思い出して、なんとか合わせる……
「うんうん、じゃあ補欠のマイナスくん、これからも軽音部でがんばろうね〜」
「は、はい、よろしくお願いします……」
――
「森夜先輩と黒間先輩に注意されたって? へー」
「いや、へーじゃないよ! なんで??」
昼に鷹田の所まで行って相談してみる。
「説明して欲しい?」
「うん」
「ジュース奢りな?」
「わ、わかった」
そう言いながら鷹田は立ち上がり、自販機のある方に歩き出す。
「今すぐ飲みたいの? 買ってくるよ?」
「ちげーよ、場所考えてんだよ。ついてこい」
「あ、うん……」
そのまま鷹田についていく。
……
「まず、軽音部に来る奴ってのはな、3種類いんの」
「うん」
「まず、友だちとツルんで遊びたい奴」
「へぇ……」
「次は女子にモテたい奴」
「やっぱりモテるの?」
「最後、高校デビューしたい奴」
「えっ!? バンド組みたい人は!?」
「そういうのは居たとしても稀中の稀。軽音部に幻滅してさっさとどっか行く」
「え、で、でも、俺、バンドしたくて……鷹田も」
「俺はそこらへんの奴と違うかんね」
「鷹田は軽音部、なんで……」
「それは置いといてだな」
「うん」
「"おう"な?」
「お、おう」
「森夜先輩と黒間先輩はそれ全部なのよな」
「え、じゃあ少なくとも女子とは仲良くできた方が……」
「それができねえから拗らせてんの。俺たちは特別、擦り寄る事はしない、好きにならない女たちが悪いーってなんの」
「えー?」
「細かい事は省くけど、あの先輩ふたりの前で特に女の話しはすんな。絶対な」
「わ、わかった……でも、吹奏楽部の助っ人探しはどうしよう?」
「いや、それって俺たち関係ねーじゃん。楽部の子が解決する問題っしょ」
「そ、それはそうだけど……」
「軽音部やめて楽部入りたいなら続ければいいけどよー、バンドやりたいんだろ?」
「お、おう……」
「そういうわけで助っ人探しは終わり。この話も解決」
「……おう」
納得はいかない……けども、バンド活動に支障が出るなら……自分にそう言い聞かせるしかなかった。
「ほら、これやるから元気出せ」
「ありがと……って全然残ってないけど!?」
「ついでに捨てておいてなー」
「ゴミ押し付けないでよ!?」
――
「いたいた、宙太くん!」
家までの帰り道、宙太くんを探して声をかける。
「……」
手にはハンカチを持っていて、無言で俺に差し出す。
「ハンカチ、返してくれてありがとうね」
「……」
宙太くんは首を横に振る。どういたしまして、という意味だろうか?
「今日は……喋りたくない?」
「……」
首を縦に振る。
困った……俺に対しても喋るのが難しくなっちゃったのかな……レッスンの時間もある……
『関係ないじゃん』
鷹田の言った事も思い出す……
……けど……ロックが出来なくなるわけじゃない。
「宙太くん、ちょっと待ってね」
スマホを取り出して家に電話をかける。
『はい、舞南家です』
「テルです。梶原さん、すみません、ちょっと急用で……レッスン遅れますと上井先生に伝えてくれませんか?」
『あら……承知しました。テルくん。何時頃お帰りになられますか?』
「帰る時にまた連絡しますね……!」
「えっと……宙太くん」
「……?」
「甘い物でも食べに行かない? 奢るよ」
――
夕方4時の喫茶店。
こういう所に入るのは初めてなのだけども、勇気を出して入ってみた。
「晩ごはんもあるから、食べ過ぎないようにね。でも、好きなの頼んでいいよ」
「……うん」
メニューを開いて一緒に眺める。
「宙太くんは何が好き?」
「……チーズケーキ好き……」
「じゃあそれ頼もうね。飲み物も要る?」
「えと……メロンソーダ……」
「じゃあそうしようね」
店員さんに声をかけて注文。
「……どうして、今は喋りたくない気分なんだろう?」
「……昨日……あんな事、言っちゃったから…………」
「うん……」
「また……変な事、言う……」
「なんでだか上手く、言えないんだもんね」
「うん…………」
「どうして、ってわかるかな?」
宙太くんはうつむく……
お待たせ、とチーズケーキとメロンソーダ、それと紅茶が届く。
「まずは一口どうかな? きっとおいしいよ」
宙太くんに促す。宙太くんはフォークで切り分けて一口食べる。
「おいしい?」
「おいしい……」
「うん、よかった」
宙太くんがチーズケーキを食べるのをそっと見守る。
「どうしたら……ちゃんと言えるようになるんだろ……」
宙太くんがポツリとつぶやく。
「……実はね、大人でもちゃんと言うのって難しいんだよ」
「……そうなの……?」
「うん、気持ちを伝えるのってね、難しい」
「……」
「だからね……」
「……?」
「練習しなくちゃいけないと思うんだ」
「練習……?」
「うん、人に自分の気持ちを伝える練習」
「まずは今度、ゆっくり話そう? 土曜日、空いてるかな」
――
「ただいま! すみません! 遅れました! すみません!!」
全力で走って家まで帰り、上井先生の下へ。
「あんなに良い子だったテルくんが続けて遅刻するなんて……立派な不良になりましたね」
「すみません! 本当にすみません!!!」
「大丈夫ですよ。先生は全く傷付いていませんから」
「何でもしますから! 本当にすみません!!」
「では、傷付いた先生のための演奏をしてくださいね」
「は、はい!」
……
「さて、テルくん、理解していると思いますが、この曲――『ハンガリー舞曲』――は元々、連弾を想定して書かれたものです」
「はい、なので特に左手の動きが……」
「一度、先生と一緒に弾いてみましょうか」
「あ、は、はい」
上井先生が隣に座る。
「リズムは……」
「合わせます。テルくんに」
「は、はい……」
俺はセコンド(低い方)を担当する事になった。リズムもそうだし、特に練習が必要なのはそっちだから。
「いつでもどうぞ」
「……はい」
息を吸う。そして弾き始める。
……
「緩急の付け方がやはり、少し足りませんでしたね」
「す、すみません……先生に合わせるのに夢中で……」
「初めての連弾と見れば合格点ですよ」
「あはは……先生とは長いですからね」
「近いうちにテルくんはこの曲をひとりで弾きます。その時は合わせる必要も無くなりますよ」
「そう考えると少し寂しいですね……」
「そうでしょうか。誰かと合わせるのは煩わしく、手間でもあります」
「そ、それはそうですけどもー……でも、一緒に弾くのは楽しくて……」
「でも未熟なままではいられないでしょう」
「はい……」
「ですが……」
「……?」
「未熟な今だからこそ学べる事は多いです。いえ、学びやすいと言いましょうか」
「え、えと……?」
「恋愛相談、がんばってくださいね」
「お、お見通しなんですか……?」
上井先生は笑顔を返すばかりで何も言わなかった。
――
「カナ、今日はどうだった?」
カナとのいつもの晩ご飯。
「普通、かなぁー」
「宙太くんは?」
「今日はホントのホントに声もかけてこないし、目も合わせてない」
「そっか、気まずい……もんなぁ」
「お兄ちゃん、なんで宙太くん目線なの?」
「いや、男同士だし……」
「仲良かったりしないよね?」
「いや、昨日に会ったばかりだよ」
晩ご飯を口に運んでごまかす……
「……まぁいいけど。お兄ちゃんの方は?」
「んー……色々かなぁ」
「いつも通りって事ね」
「い、色々なんだけどなぁ…………」
――
「というわけで色々大変で……」
「た、大変だね…………」
「ご、ごめんね……誰かに話したくて仕方なくて……けど、話せる人が……」
夜、引き続き勉強する約束していた波多野さんに、今日あったことをつい打ち明けてしまった。
「だ、大丈夫だよ……誰かに喋ったりしないから」
「恋愛は本当にしたことが無いからさ……でも、応援したい気持ちと妹の彼氏になったらどうしようとか本当に本当に……」
「ふふ……マイナスくん、複雑だね……」
あ、また笑ってくれた。嬉しい。
「気持ちを伝える……ってやっぱり難しいよねぇ……」
「うん…………そうだね」
「言えるように手伝ってあげられるかな……がんばらなきゃな」
「あ、あの……」
「ん、なんだろ?」
「……伝えたい事がね、溢れて……言えない事も……あったりする……よ」
「溢れて……」
「うん……どの言葉を……選べばいいか……わからなくなるの……」
「……そっかー……」
「……勉強始めようっか」
「うん、よろしくお願いします」
朝起きて高校へ、勉強して委員会して、レッスンがあれば家へ無ければ部活、晩にはカナと一緒にご飯を食べて夜に波多野さんと勉強。
だんだんと、こんなサイクルが俺の日常になっていった。
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