16・友達に誘われて飛び跳ねるほど嬉しい俺が向かった先に待っていたのは……?
家に帰って昼ご飯。今日はカナのレッスンの日だから、昼食の場には上井先生もいる。梶原さんもいるのだけども、見ていないうちに済ませてるそうで食事を囲む事は滅多にない。
「お兄ちゃん、午前中はどこに出かけてたのー?」
「さ、散歩だよ」
「お兄ちゃんが散歩ー??」
「ふふ、カナさん、年頃の男の子の事を詮索するのはよくありませんよ」
「んーーー………」
「いや、本当に散歩だって!!」
「高校生になると隠し事とか増えるの?」
「年頃になるとそうなるのです。なのでお兄ちゃんの部屋を勝手に漁ってはいけませんよ」
「へ、なんで??」
カナに漁られて困る事に心当たりが無くて聞いてしまった。
「どうやらまだ漁っていいみたいですね」
「じゃあ漁る!」
「別にいいけど、ちゃんと片付けてな……?」
と、その時に俺のスマホから通知音が鳴る。あの通話アプリのだ。ん、とパクパク食事を口に運んで食べ終えてから見てみる。
『マイナス、時間無い?遊ぼうぜ』
鷹田からだ!? 鷹田から初の遊びに誘われメッセージ!? 行く行く行く行く!!
「友だちからのメッセージ?」
「おう! 遊びに誘われたから行ってくる!!」
「おや、テルくんがお友達に誘われる……微笑ましいですね」
「やったね! お祝いのケーキ用意しとこっか?」
「えへへへ、支度して行ってくるねー!!」
ケーキを貰ってもいいかなってくらい嬉しい!
――
「た、鷹田、遊ぶって話じゃ……」
「おいそこのお前!! 遊びに来てんじゃねえんだぞぉ!!」
「サ、サーセン!!」
鷹田に連れられて、おそろの上着だぜって渡されてついていったら何故か引越のバイトをやる羽目になっていた。
……
「鷹田ぁー!? 遊びの誘いじゃなかったのー!?」
次の現場に行く途中で鷹田に聞く。
「行くって行くって。俺、約束は破らねえからよー?」
「バイト終わってから誘ってくれればいいじゃん!!」
「いやさー、マイナスと遊びてえなーって思ったんだけども、人手が足りなくて時間無理そうってなってな。マイナスと遊びてえのになーどうしようなーってなってさ」
「……うん」
「そこで名案。マイナスに手伝ってもらえば人も足りて時間もできる。完璧だろ?」
「じゃあバイト手伝ってでいいじゃん……」
「俺、サプライズ好きなのよねー」
「嬉しいサプライズにしてよ……!!」
初バイトはすごく大変で終わる頃にはヘトヘトだった。
――
「お、来てくれたんだ。バイトおつかれ」
バイトが終わってから向かったのは近藤さんの楽器屋。近藤さんが俺と鷹田を迎えてくれた。
「マイナスが俺と時間作るために頑張ってくれてさー、健気で助かるー」
「普通に嘘ついて来させたじゃん!?!?」
「素直に頼めない奴なんだよね、鷹田は」
「はいはい、素直じゃないですよー」
そう言いながら鷹田はサックスの用意を始める。
「あれ……何やるの?」
「楽部の助っ人の練習だけど?」
「あ、遊ぶのは……?」
「友だちとのセッションは遊びじゃねえのかー、マイナスなら喜んでくれると思ったのにガッカリだぜー」
「違うけど!! 良いけど!! 誘ってもらえただけて嬉しいけど!! 超嬉しいけど!!」
「ふふ……マイナスくんかわいいね。というか鷹田もちゃんとマイナスくんに付き合ってあげなよ?」
「はーい善処しまーす」
「まったく……マイナスくんも鷹田に困ったら相談してね?」
「お、おう……! というか、やっぱり2人って仲いいね……」
鷹田と近藤さん、前から仲が良いと思っていたし幼馴染とも言っていたから少し羨ましく感じる。
「ただの幼馴染だよ。中学の頃とかは吹奏楽部にも一緒にいたりしたし」
「高校が被ると思ってなかったぜ。マジで」
「鷹田はもっと良いところ行けたでしょ? 私は商業高校に入るか悩んだけど、自由に使える時間がこっちの方が多いかなって選んだんだよね」
「近藤さんは商業高校目指してたんだね」
「うん、お父さんがあんなだからお店を手伝ってたら楽しくなっちゃってね」
「ちなみにお母さんは?」
「バリキャリのビジネスウーマンで綺麗でカッコいいぜー」
「うちの大黒柱だねー」
「そうなんだ……見てみたいなー」
「で……今日は鷹田の練習の日。楽部に顔はあんまり出せないからって事で代わりにこっちで練習なんだって」
「女子に囲まれたら面倒くさいかんね」
「はいはいナルシスト。マイナスくんを見習ってほしいね」
「自信があってスゴい良いって思うんだけどなぁ……」
「まぁいいや、練習しよ、練習」
鷹田のサックスは普通に上手だ。『ワシントンポスト』は問題なく吹けるだろう。
「ところでさ、今度適当に私たちだけでも何か合わせてみない? 曲はそのうち用意するからさ!」
「時間作れたらになるけども……いいよ!」
「やったね! よろしくね! マイナスくん!」
「俺にはよろしく言わねえの?」
「鷹田は勘定済みだもんね」
「あーマジで横暴だわ」
3人で楽しく時間を過ごした。
――
「お、そうだ、マイナス。バイトまた誘っても良いか?」
近藤さんが席を外している時に鷹田が声をかけてくる。
「えっと、そっちも空いてたら……? 土曜日がギリギリ空いてるかどうかくらいだけど……」
「じゃあそんときゃ呼ぶわー。近藤への楽器代返済もあるしな」
「もうバイトとか始めてて偉いなぁ鷹田……」
本当にそういう所が凄すぎる……
「始めんのは簡単よ。アプリでパパっと登録できるし」
「ところで俺のバイト代ってどこに?」
「ちょっと待っててー、急ぎだったから話は通さなきゃだからさー」
「だ、大丈夫なのかなぁー……」
「大丈夫大丈夫、ピンハネはバレない程度にすっから」
「するって言っちゃってるじゃん!?」
――
「お友だちと今日は何してきたの??」
キラキラした目のカナが聞いてくる。
「バイトしたり、一緒に楽器の練習してきた……」
やたら気合いの入った晩ご飯を口にしながらそう答える。めちゃくちゃ動いてお腹が減っていたから助かるけども……
「バイトに誘われる……そういうのもあるんだ!」
「人手が足りなくてさ、それで付き合って……」
「お兄ちゃんの高校生活、色んな事があってカナも嬉しいよ……!」
「妹目線の感想じゃないと思うんだけどそれ……」
「今夜も波多野さんと勉強もするんでしょ?」
「うん、ちょっと疲れてて寝落ちしたりしないか心配だけど……」
「時間になったら起こしに行こうっか?」
「んー…………頼んじゃおう」
「オッケー! カナが絶対に起こすから任せてね!」
起こしてもらえる安心半分、どんな起こされ方するのか不安半分。できるだけ起きてるようにしよう……
そう考えていたものの、お風呂を済ませて部屋に戻ってベッドに横になったら意識を失っていた。
――
「ふふ、じゃあ今日はお疲れなんだね」
「ごめんね……寝落ちしないようにがんばる。けど、寝たら本当にゴメン……」
せっかく時間を作ってもらってるのに、数秒後には寝ていそうで本当に申し訳ない……
「じゃあ……今日は勉強お休みにする……?」
「そ、そうしたほうがいいのかな……でも、せっかく時間作ってくれてるのに……」
「その……もし……よかったらなんだけどもね」
「あ、うん、なんだろう?」
波多野さんの『よかったらなんだけど』という言葉、この間はその先を聞きそびれちゃった事を思い出す。
「マイナスくんの演奏……聞いてみたくて……」
「もしかしてこの間もそういう!?」
「あ、えと……うん……そうだね」
「それならお安い御用! いつも勉強に付き合ってくれてるから尚更!」
「じゃあ……今日は聞かせてください」
「おう! ちょっと待ってね! どうせならピアノの練習がてらにもいいかなって」
練習部屋へと向かう。そしてスマホを良い感じに起きつつ……
「これで見えるかな?」
「うん、大丈夫だよ」
「それで……何弾こうかなぁー」
「今、練習してるのはどんな曲なの?」
「ブラームスの『ハンガリー舞曲』っていうのだね。忙しい曲で練習にもピッタリで……」
「わ……すごい大変そう……」
「知ってるの?」
「ううん、調べてみたの。こんな大変な曲を練習してるんだ……」
「別の曲の練習でもあるんだけどね……」
「その曲は……?」
「『ラ・カンパネラ』って曲だね」
波多野さんは調べているみたいだ。その間に俺はウォーミングアップ。
「こんな曲……あるんだ……すごい……」
「その曲を来年の夏までが期限で弾けるようにならなきゃなんだ」
「……弾ける?」
「練習すれば」
「……応援しかできないけども、がんばって」
「うん、もちろん。それで、今はどんなの聞きたい?」
「えと……練習してる曲……で……お願いしようかな?」
「オッケー、じゃあ……」
ちょっとだけ驚かせたい。そう思ったから……まだちゃんとは弾けないけども。
キラキラとした輝くような音を響かせて、それは鐘のように鳴る――
「あ、まだやっぱりリズム通りには無理だ、あはは」
「え、で、でもすごい……最初、ビックリしちゃった……」
リズムを落として、運指を確認しながら、どこからどこへと手を動かすかゆっくりと並べる。
「ちょっとカッコいい所見せたかったんだけどなぁ。背伸びし過ぎだった」
「う、ううん、その、スゴく……スゴいよ……」
「ありがとう。次に聞かせる時はもっと上達してるから楽しみにしてね」
「う、うん……」
完璧に弾けるようになるにはまだまだかかる。けども、やっぱり楽しいんだ。
……
「あの……マイナスくん」
「ん? どうしたの? 波多野さん?」
「時間、大丈夫かなって……」
「えっ? あー!?」
ほんの数十分のつもりが気かつけば日を跨いでいた。
「うそっ!? ゴメン! 夢中になってて時間忘れてた!」
「私は大丈夫、でも、マイナスくん疲れてたから……」
「う、うん、今日はこれで寝るね! 教えてくれてありがとう! 波多野さんおやすみ!」
大慌てで通話を終了、そうしたらドッと疲労が押し寄せてきて……意識を手放していた。
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