36・まるでロミオとジュリエット
今日は土曜日!
昼から皆で勉強会の予定! 楽しみで仕方ない!!!
――けども、その前に先週の約束のため、俺はいつもの喫茶店にやってきている。
「やあ、聞き上手の学生くん。来てくれて嬉しいよー」
「あはは……なんだかんだ心配でしたし……」
「優しくて良い子だぁ……癒やされるね……メニューのもの何でも頼んでいいよ……」
「それがすみません……昼から友だちと勉強会する予定で……一緒に食べる予定で」
「そんなっ!? 無垢な男子高校生が嬉しそうに食べる光景を見て生きる栄養を接種しようとしていたのに!」
「えっ? なんスかそれ……? それに俺、別にそんなに大食いでもなくて……」
「じゃあ! じゃあ!! 君の友だちが喜ぶようにお土産を包ませてくれよ!
マスター! マスター! お持ち帰りはできるかい!? 丁寧にラッピングも!!」
「待ってくださいよー! そこまでされるような事した覚えはないッスよー!」
マスターは注文を受けて黙々と用意し始めている……
「そ、そういえば一週間前から何か変わったりしなかったんですか?」
「聞いてくれるのかい……君は本当に優しいね……」
「元気無さそうならやっぱり心配しますよ……」
「ふふ、進展なんて無いよ……僕はもう終えた……彼女が幸せになるのを祈るだけだよ……」
「あの、でも、その……お兄さんの幸せ……はどうするんですか……?」
「僕の幸せ……かい」
「はい……その、誰かの為に一生懸命になれるのはすごく尊敬できるんですけども……
だけどお兄さんにも幸せになってほしいって……」
「僕の幸せなんてどうでもいいよ」
「そ、そういうのは! 良くないと思うッスよ!?」
――好きな人の為、一生懸命になれるお兄さん。本当に素敵だと思う。
だけど、なんだか違うって思ってしまった。
「好きな人の幸せ、願うのはわかります!
そのためになら何でも受け入れるのも、わかります!
でも、俺、上手く隠せなくて、心配かけちゃうんですよ!!」
「お兄さんの方は、両想いなんスよね!?
なら猶更じゃないスか!?
自分の事はどうでもいいって相手の幸せを求めてばかりって――」
「じ、自己中じゃないスか」
ああ、そっか……
自分はどうでも良いって、人が幸せになる事だけを願うって、自分の考えの押し付けなんだ。
自己中なんだ……
「……年下の君にそんな事言われちゃうなんて、僕って情けないね……でも――」
そんな時にカランコロンと喫茶店にお客さんが来る。
「――ユンユン!! 見つけた……!!」
「ミーたん……どうしてここに」
「えっ……ユンユン、ミーたん……?」
ふたりともスーツでバチっと決めてるいい歳をしている人たちなのだが、お互いの呼び方にビックリ。
「探したんだもん……仕事以外での連絡を全部無視するんだもん! だから探したんだもん!」
「……せっかく見つけた新しいオアシスだったのになぁ。君のせいで台無しだ」
「そんな事言っても無駄だよ! 私の気持ちは変わらないもの! 私はあなたとの将来しか考えられないの!」
「――僕は君との将来を考えてないって何度も言ってるだろう」
ユンユンさんは席を立つ。
「ごめんね、学生くん。また君に癒されたかったけども、これでおしまいだ」
「えっ、いや、でも、その」
「君は僕みたいな大人にならないようにがんばってね」
「ユンユンっ!!」
「これから仕事なんだ。邪魔しないでほしいな。ミーたん」
追いすがろうとするとミーたんさんをユンユンお兄さんは冷たく突き放して行ってしまった。
……
「ミ、ミーたんさん、コーヒーでもどうぞ……」
「ありがとう……学生くん……」
流石に放っておけなくて、ミーたんさんが落ち着くまで見ていた。
時間は大丈夫……
「そ、その……」
「大丈夫、わかってる……ワガママ……でしょ」
「あ、いや……えと、ユンユンさんは、お付き合いを……断ってますもんね……」
「彼の言う事を聞いてあげた方がいいんだろうなってわかるよ……お見合いだってね、本気で将来を考えるために一度だけ受けたの……」
「その……でも、ユンユンさんを想ってそのまま縁談を受ける……のは、やっぱダメ……なんスよね?」
恋愛のれの字も知らない俺が、婚約とかについて口を出していいんだろうか……そんな疑問が湧いてきて仕方ない。
「お見合いをしてわかったの……本当の自分をね……見せられるのはやっぱりユンユンだけなんだ、って気が付いたの……」
「本当の自分……」
「こんな事言うのはなんだけどね……彼と過ごした日々で、私の世界は鮮やかになったの……
世界は……まるで輝くようだったわ……」
……世界が彩に染まる、あの感覚。すごく、わかる。
「あ、あの。ミーたんさん。俺、何かできる事無いッスか……?」
――
「おーマイナスー、なんか荷物多くないかー?」
「勉強会じゃなくてピクニック系だった?」
待ち合わせ場所へ2番目に来たのは熊谷と新井だった。
熊谷は誘ってたんだけども、新井も来てくれた!
「な、なんかめちゃくちゃ持たされちゃってさ……みんなで食べるのにどうかなって……」
「おー、いいのかー! いくら食べてもやっぱり足りないからなー」
「体育会系は食べてなんぼ系だしな」
「うーっす。あれ? 男は3人じゃなかったっけか?」
「どうもー! ってあれ、本当だ。はじめましてー」
「あ! 鷹田に近藤さん!」
「あははー、勉強会って言うから、頭の良い友達誘っちゃったんだー」
「熊谷よりはマシってだけで、大した事無い系だけどな」
「みんなもう居るやん! 時間やっぱ間違えたかうちら?」
「ちゃんと合ってるよ。こんにちはー」
「渋谷さんに月野さん!」
「わかってたけど大所帯だね」
「ツッキーがな、お菓子焼いてきてくれたんやで! ってマイナス、なんかめっちゃいっぱい持っとるやんーー!」
「みんなで食べてって持たされちゃって……あはは」
「あと一人だったかー? クラス委員だったよなー?」
「おう! そうだよ!」
後は波多野さんだけ! それでも7人もこの場にいて楽しい!
勉強会なんだけども皆で集まれるのってすごい嬉しいなー!
軽音部で高校での俺の初めての友だちの鷹田。
鷹田の幼馴染で家が楽器屋の吹奏楽部の近藤さん。
軽音部希望だったけども今は吹奏楽部で打楽器してる渋谷さん。
同じく吹奏楽部でサックスをしてる月野さん。
野球部で同じクラスで仲良くしてる熊谷。
そしてその熊谷の友達の新井。
それと俺。
「ノンノンまだかなー。あ、波多野さんの事やで!」
「渋谷さんって面白い名前で呼ぶよねー」
「そっちの方が親しみやすいやろ!」
「俺はなんて呼ばれるのかなー」
「熊谷やろー? うーん! クマヤンはどや!」
「"ン"の採用率高すぎ系じゃね?」
「仕方ないやろ! じゃあ"ン"使わんで、新井はライライにしたるわ!」
「パンダ系の名前になったし」
「そのまんまで"ン"が付いただけの俺よりマシだろ」
「言うてタカダンはなんか、ダン!っていう響きええやん……」
「好きに呼べばいいけどよー」
「そういえばタカダン、それ背負ってるのギターケースだよね?」
「おう、ギター持ってきたけど?」
「マイナスくんが集中できなくなったらいけないから、休憩中以外触っちゃダメだからね」
「へいへい、会長の言う事は従いますよー」
「コンちゃんが会長ってどういう事や!?」
「借金背負わされててよー。返済できなかったら地下労働施設送りなんよ」
「そんな事しないから! とはいえローン組んでるのは本当だけどね。うち、楽器屋でさ」
「マジか! うち、ドラムセット買えないか悩んでるねん!」
「ふふ、相談乗るよー」
「楽器やるのってお金かかりそうだもんなー」
「えー、体育会系だってお金かかるって知ってるよ? 野球部とかも大変だよね」
「何かやるにもお金はかかる系だかんねー」
みんなが思い思いに話をしてるのを聞くのが楽しい……
こうやって友達の輪が増えるのってすごい良いよね……
そんな事を思いながら、波多野さんが遅いのがすごい気になる。
既に集合時間はちょっと過ぎていて、連絡を送ったけども返事は無し。
何かあったのかな……心配で心配でたまらない……
「あっ、クラス委員じゃないかー?」
「えっ! 波多野さんどこどこ!?」
熊谷が指した方向に目を向ける。
そこには大きな紙袋をさげている波多野さんの姿があった!
俺は思わず走り出して迎えに行く。
「波多野さーん! 遅かったね、大丈夫!? 荷物持つよ!?」
「あっ、あっ、ご、ごめんね……遅くなっちゃって……」
波多野さんの荷物を預かりつつ、みんなの所へと行く。
「皆! 波多野さん来たよー!」
「ご、ごめんなさい、その、遅くなって、ご、ごめんね……」
「平気平気! でも、その荷物はどうしたの?」
「あ、こ、これ、そ、その……べ、勉強会……持ってきて……」
波多野さんがすごい緊張してる……
1ヶ月近く通話して、俺とは慣れたけども皆とはまだ慣れてないんだなぁってすごく思う。
何か助け舟とか出せたらいいんだけど……!!
「むむむ、むむむ! やっぱりや!
やっぱり間違いない!
なあ、ノンノン! マイナス!」
「ど、どうしたの? 渋谷さん?」
波多野さんもきょとんとした顔で渋谷さんに向ける。
「ゲームフェスに来てたよな? ふたりで!」
「え……?」
波多野さんはゲームの趣味を知られたくないって言ってた。
だから、恐る恐る波多野さんの顔を見る。
なんとも言えない顔をしてる波多野さんが見えた。
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