37・友達×友達

「見てーや! これ、ゲームフェスの時のうちの格好や!」

「うわー、かわいいなーすごいなー」

「タニッチってレイヤー系? 衣装とかどこかで買える系なの?」

「手作りやで! うちってめっちゃアニオタなんよー!」

「ギャルなうえにアニオタでレイヤーとかモラトリアムの権化じゃん。おもしろー」

「鷹田、ギターの練習は後で!」


 俺達8人はカラオケボックスにやってきていた。

 かなり広くて勉強するのにもちょうど良い。そこで持ってきた昼ご飯を食べている。


「ノンノンはゲーム好きなん? マイナスっぽいのがいるなは思ったんやけど、隣のノンノンに最初気が付かんくてな! デートの邪魔やろ思って声かけんでおいたんや!」

「あ、ああ……す、好き……その……ちょっと好きで……あ、でも、その、マイナスくんに……つ、ついてきてもらって……そ、それだけで……」


 渋谷さんが波多野さんにグイグイ質問してる。

 ど、どうしよう。俺、何かできる事無いかな……


「波多野さんがゲーム好きなの以外だなー、真面目で大人しい印象だからさー」

「見た目からはかなり意外系だよなー。てかマイナスもデートとかやるじゃん。俺も女の子とデート系な事したいわー」

「いやいや、いつも勉強教わってて、それで……」

「いつも勉強教わってるって?」

「あ、いや、その、毎晩通話で教わってるだけで……」

「毎晩!?」

「に、日曜日以外……」


 皆が驚いて少し黙る……


「ノンノンにマイナスの勉強任せられるなら助かるわー」

「鷹田、アンタはそういう……いや、まぁいいけど」

「俺も勉強不安だし、いいなー教わりたいなー」

「あ、いや、あ、えと、あ、私で、よ、よければ、あ、その……」

「ノンノン大丈夫やで! 無理せんで!」

「そういえばノンノンの持ってきたの何系?」

「あ! これ、今日、その! 使う、勉強会で……」

「そうなの? 見てもいい?」

「う、うん……」


 ホチキスで止められた手作りの小冊子が出てくる。


「わっ、これ……中間試験の範囲? これ、波多野さんが纏めたの!?」

「おーすげー。ん、でもひとつだけ明らかになんか違うんだけど」

「そ、それはマイナスくん用で……」

「えっ!? 俺用!?」

「マイナスくんのだけ範囲が違ければ、厚さもある……」

「そ、その、基礎、付けるのに、それで……えと……」

「もしかしてマイナスってバカ系なの?」

「バカ言うなし! めちゃくちゃアホなだけや!」

「一緒じゃん。おもしろ」

「み、みんなには、その、暇にならないように、その、用意してきてて……あっ!?」

「ど、どうしたの? 波多野さん?」

「ひ、ひとつ足りないね……ご、ごめんね」

「あー、いや、俺が勝手に一人呼んじゃったからさー」

「あ、そ、そうだったんだ」


「せやけどノンノン! ここまで準備するの大変やったろ!?」

「あ、えと、その、でも、あの……だ、大丈夫だよ」

「いやーでもこの量の資料、用意できるのすごいよ……パソコンも得意?」

「あ、う、えと……そ、その……わ、私、オタクで……」

「有能や……めちゃくちゃ有能や……オタク仲間って事で仲良くしよ……ノンノン!」

「あ、は、はい……よろしくおねがいします……」

「さ、皆! 今日は勉強会だから!

 まずは勉強するよ! 鷹田はギター仕舞って!」


 ……


「そうそう、まずは分母を合わせて……あっ、xとyは足し算ができないから別で置いておいて……」

「えっと、だから、こうしてこうして……」

「うんうん、途中式は大事だからちゃんと書こうね」

 今は月野さんに数学を教えてもらっている所だ。

 渋谷さんは波多野さんに興味津々の様子で勉強を教えてもらうがてらに色々話をしてるみたい?

 近藤さんと熊谷は、鷹田と新井に色々聞いているみたいだ。


「付きっきりにさせてごめん……いや、ありがとう……」

「ううん、思わず声かけちゃっただけだから……波多野さんとは毎晩こんなふうに勉強してるの?」

「あー、うん。教えてもらって問題解いて、それから間違えた所教えてもらって次へ……って」

「そっか……なにか手伝えたらいいなって思ったけど、私じゃ邪魔になっちゃいそうだね……」

「え、ええー……? そんな邪魔なんて」

「波多野さんはシャイだからさ、気を使わせちゃうなって思ったの」

「あはは……確かにそうかも」

「うん。だから私、波多野さんと仲良くならなきゃだ」

「え? あ、おう。そうだね?」


 波多野さんを眺める月野さん。

 どうして"だから"ってなったんだろう?


「そのうち一緒に勉強しようね。マイナスくん!」


 ……


「あー! だから足し算の時にxとかは増えねえっての!」

「マイナスはルールがすぐにゴチャっとする系なんだなぁ」

「ヒーン……」

 鷹田と新井のふたりは、波多野さんが用意してくれた中間試験対策にサッと目を通してから教える側に回っている。


「ふたりは勉強しなくて大丈夫なの……?」

「俺はそもそも学校違うし、試験範囲違う系だかんね。熊谷の頼みで来た系だし」

「試験っつっても中学にやったことの復習みたいなもんだから余裕過ぎ」

 学力が全然違いすぎるよー……


「てかさ、タカダンってなんでD高にした訳? A高はがんばる必要あるにしてもB高くらいなら行けた系じゃない?」

「そらD高じゃないといけない理由があったからに決まってんよ」

「何々? 熊谷的な野球系な話?」

「勉強も校則も緩いからその分、自由な時間が多いってな」

「へー、その時間で何する系よ」

「将来に備えてバイト。貯金して一人暮らしするためにもな」

「……へー、タカダン偉すぎ」

「ま、たまにはこういう時間も悪くないかってのと、会長様に借金をかさにかけられて出頭命令来ちゃったからよー」

 普通に頼んだでしょ! と近藤さんからのツッコミが入る。


「そういやマイナスの持ってきた奴、余ってるの貰って良いか? 晩飯代浮きそうー」


 ……


 中間試験の対策自体はすごい楽? みたいで俺以外の皆は勉強が一段落したようだ。


「とりあえず休憩にしようっか」

 近藤さんがそう言って皆のんびりとし始める。

「なんか飲み物持ってこよか! ノンノン、ツッキー、一緒行こー!」

「はー、俺はギターの練習しよ」

「カラオケに来るの久しぶりだなー、なんか歌ってもいいかー?」

 おのおの、本当に自由に過ごし始める。


「マイナスはこれまだ終わらない系だなー」

「あ、俺、ひとりでがんばるから大丈夫だよ……!」

「休憩する時は休憩しとけー。てかマイナスにギター教えてもらいたくて持ってきたんだけど」

「え、ええー!? そうなの!? 俺でよかったらいくらでも! いくらでも!!」

「待ってマイナスくん喜びすぎて尻尾振り過ぎ……あと鷹田が素直に教えてっていうの珍しい」

「音楽に脳の容量使い果たしてるってレベルだかんな、マイナスはー」

「音楽版の熊谷って感じ? 応援の時の声も超ヤバい系だったしな」

「マイナスがどこにいるか、バッターボックスからすぐにわかったからなー」

「えへへへへ……」


 褒められてるのかなって思うと照れちゃう……!


 ……


「運指とかは練習してスムーズになるようにするとしてよ、なんか決めの音がしっくり来なくてよー」

「えー!? 普通にめっちゃよかったやん!」

「あー、えっと、うーん、その……あーえーと……」


 しっくり来ない。その理由はなんとなくわかる。

 でもどうやって言ったらいいんだろう??

 説明の仕方、うーん……


「ほれ、実際にやってみせろって。バカの考え休むに似たりってな」

「おう! えっと、とりあえず同じところ弾くね」


 当たり前だけども、曲は音を鳴らして繋げていくことで演奏できる。

 だけど、音を鳴らすだけで良いっていうわけじゃない。

 ひとつひとつの音の意味を自分の中で思い描き、それを音色として乗せて、人に届ける所までが演奏で、曲だ。


「……俺だとこんな感じかな?」

 少し夢中になって弾いたけども、顔をあげたらみんながジッと俺を見ていた。


「あ、あの、みんな……?」

「はー、悔し。やっぱ圧倒的差を見せつけられると自信失くすわー」

「鷹田が完全敗北認めてるの珍しすぎ……だけども、やっぱりすごい上手いね……」

「タカダンのでもすごいな思うのに、なんでこないに違うん!?」

「えっとー、えーと」

「まずは俺の音の繋げ方だよな……それにアルペジオの時も全部綺麗っつうの?なんかスゲー気持ちいいんだよなマイナスの音。もう1回コードで鳴らして」

「お、おう」


 ジャーン……


「次は俺」


 ジャラーン……


「違うのはわかる……」

「一緒なのになんか違うなー」

「あ、えっとね、その、アルペジオで鳴らしてみてくれる? 鷹田」

「おう」


「この音を中心にして和音で鳴らすんだけども、揺らぎがあって……ここをこう抑えて……もう1回鳴らして!」

「うお……前より気持ちよくなった。ヤッベ」

「でしょでしょ! ピアノとかとは違ってギターとかは自分で音を作るから、微妙な揺らぎで和音が濁るんだ。気持ちよく鳴らすってなると、そういう微妙な揺らぎを自分で直すんだね!」

「言われてみりゃ確かにその通りだわ……てか、マイナスはそういうの考えながら弾いてるわけ?」

「……気持ちいい音かどうかで考えてたかも……??」

「なるほどなー、流石音楽全振りだぜ」

「えへへ……」


 ……

 

「聞き入っちゃったね。そろそろ勉強再開のつもり……なんだけどもね」

「マイナスくん以外、波多野さんが持ってきてくれた課題、終わっちゃったよね?」


「ひ、ひとりでがんばるから大丈夫だよ……!!」



 ~~



「マイナスくんの演奏、やっぱりすごい上手だね……」

「う、うん……すごい……よね」


 マイナくんは男子たちに囲まれて勉強をしている。


「その……夜に演奏聴かせてもらったりするの?」

「う、うん……たまに……」

「いいなぁ……私ももっと聞いてみたい」

「あ、でも……ね……」

「?」

「こうやって……目の前で演奏してもらうのは初めて……なの」

「そうなんだ」


「あの、波多野さん……!」

「あ、う、うん……?」

「私たち、友達になれないかな……?」

「えっ!? えっ……!?」

「……イヤ?」

「う、ううん。その、私なんかで、いいのかなって、その……」

「私、波多野さんの事、本当にすごいって思ってるよ」

「あ、あ、ありがと……」

「そのうち……マイナスくんの勉強の手伝いとか、させてほしいな……」

「う、うん……よ、よろしくね」

「連絡先、交換しよ?」

「う、うん……」


「あ、いいなー。俺も交換したい系なんだけどー」

「せや! 皆で交換こっこしよ!」

「おー、女子の連絡先ゲットだーやったー」

「どうせだしグループ作っちゃおうっか!」

「俺、忙しくて顔をあんま出せないからよろしくー」

「えっ!? 俺も交換したい! 待って! えっとえっと……」


 今日は友達っていうフォルダに連絡先が6つ増えて、7つになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る