恋愛経験ゼロだけど『愛の挨拶』を弾いてもいいですか?というか恋人とか結婚って何の為にあるの……?
26・『新しい世界への扉を開く時』って最高にテンション上がる
――暗い通路の中を俺は、同級生の波多野さんに手を引かれながら走っている。
「ほ、本当に何もわからなくてゴメン……」
「大丈夫、私がついてるから」
古い石造りの地下道で、壁には松明が備え付けられている。通路の先にはドアがあり、いかにも出口といった様子だ。
「待ってね、こういうのは罠があるのが定石だから」
「お、おう……」
波多野さんが手早く何かしている。
「……うん! 大丈夫、行こう!」
「罠、あった……?」
「マイナスくんに体感してもらった方がよかったかな?」
ふふふ、と波多野さんが笑う。
「罠にかかってたらどうなってたの……?」
「うん、死んじゃってたかも」
「ええーっ!?」
さ、行こうと扉を進む。大きな部屋となっていて、その先には地上の光が差している。
「あ! やっと出れる! やったー!」
「マイナスくん! 下がって!」
「えっ!?」
頭上からドーン! と巨大なモンスターが現れる。
「うわー!?!?」
「マイナスくんはサポートをおねがいね」
波多野さんは剣と盾を持ち出し、モンスターの前に立つ。
「お、おう!」
俺は竪琴を取り出す……普通に弾けばいいのかな?
「ふふ、初めてだから緊張しないでね」
そして始まるモンスターとの戦い……その間中にずっと俺は思っていた。
――今、流れてるBGMが超カッコいいって…………!!!
――
「すごい……すごいね、すごい感動しちゃった……」
「ふふ、何とかマイナスくんとクリアできてよかった」
今日は連休2日目。波多野さんと約束通り一緒に出かけている。
最初はどこに行くんだろう? と付いていったらショッピングモールやデパートではなく、ドームに向かっていっててよくわからなかった。
だんだんと変わった恰好の人も見えてくる。
「そのね……マイナスくん」
「おう……?」
「私だけマイナスくんの秘密を知ってるのは、そのよくないかなって思ってね……」
「????」
「私……実は……」
……
「ゲームフェスタってすごいね……!」
「ね……! 私も来るの初めて……一度でいいから来たかったんだ……!」
波多野さんは実はゲームがすごい大好きらしい。
でも、ゲームが好きなのを学校で話すとイメージに関わるからと秘密にしているんだそうだ。誰にも言わないでほしいとも頼まれた。
「俺、ゲームって本当に下手でさ……だから全然触ってなくてね……」
「あはは……苦手そうだもんね。でも遊んだことはあるんだね……?」
「うん……パパの物置部屋に昔のゲーム機があってさ、ちょっと遊んでみたけどもよくわかんなくって……」
「どんなゲームだったんだろう…?」
「なんだっけな……ピューマの三兄弟が出てきて……ミミズみたいな紐が敵で……」
「え、『ピューマーマン2』……?」
「有名なゲームなの?」
「う、うん、そうだね……」
「他は……お金を貯めて買い物するのが目的だけども、家にお母さんがいるとお金全部没収されたり……」
「『ミカジメ大作戦』かも……」
「有名なボードゲームのゲームも一度、プレゼントしてもらったんだけどもさ、妹と遊んで微妙過ぎる空気になってやめちゃってさ……」
「……それはたぶん大正解……」
「だからやっぱりゲームは苦手だなぁー」
「その分、音楽に集中できたって事で……よかった事にしよう?」
「あはは、そうかも。でも、さっきみたいなゲームは本当に初めてで……すごかった」
足を引っ張ってばかりだったけども、白熱した戦いの中を流れるBGM、そして倒した後にズーンと響き渡る効果音、そして扉を一緒に開いた時に流れ出すテーマ曲。
あの時、俺は波多野さんと一緒に新しい世界を見てたんだって感動で悶えて仕方ない。
「すっごい並んだ甲斐があったね」
「時間が無いからまだまだ遊べないだろうけど……発売されたら買ってみたいなぁ」
「マイナスくん、忙しいもんね」
「ねー、ガッツリ遊んでる時間は全然ないや」
たぶん、最初のボスも俺一人では倒せないからなぁ……むしろ、さっきのゲームでも開始直後に出てくる小さい敵にボコボコにされて、波多野さんに助けてもらったくらい。
「ふふ……そろそろ次に行こっか?」
「おう! 次はどこ!?」
「うん……今日の本命なんだ」
「本命!? これよりすごいって事!?」
「えと……すごくはない……かな……?」
どういう事だろう?
そんな疑問は置いておいて波多野さんについていった。
――
「さっきのは『企業ブース』って言ってね、こっちは……個人製作とかサークルで作ったものを見る場所」
長テーブルに簡単な敷居が置かれていて、そこにズラっと色んな人たちが座って色んなものを並べている。
「へ、へぇー??」
「わ、わかんないよね……? とりあえず一緒に行こうっか……」
「お、おう!」
波多野さんについていく。
ゲームをどうやら売ってるらしくて各々が色んな手法で宣伝しているのがわかる。
凝っている所は人が多いし、そうでない所にも人がどんなものかを見て、それから離れたり話したり。
そんな様子を見ながら……誰にも話しかけずにまずは突っ切ってしまった。
「目を引くのはあったけども、波多野さん的には微妙だった……?」
「う、ううん……ち、違う……す、すごい良さそうだったよね……」
どうして声をかけないのか……って思ったけども、もしかして!?
「気になるのがあったらさ、その時は教えて! 俺が声、かけるからさ!」
「い、いいの……??」
「わかんないから声かけるくらいしかできないけど……!」
「あ、ありがとう……! お願いするね……!!」
~~
そう言ってマイナくんは私の前を歩いていく。
周りを見渡しながら目についたものを指さしてはどうかな?って聞いてきてくれる。
マイナくんはヤブイヌが強いって言うけども、なんだかんだ私の前を歩いてくれていて、それってリカオンの習性のかな?って何度も思っている。
そしてその仮面模様で怖く見えるっていうけども、仮面の下に見える本当の表情はとても優しい。
たしかにできない事はとっても多いけども、真面目だしがんばり屋だし好きな事に一直線だし素直だし……
もう推せる推せる推せる推せる推せる推せる推せる推せる推せる推せる……
こんな限界思考は絶対に見せられないけども、少なくともできる事はずっと応援したいよー……
「波多野さん?」
「あ……ごめんね……ちょっと……」
引っ込み思案で奥手の私、上手く表現する手段が無いからすぐに黙っちゃう……
「……あ」
「どうしたの?」
不意に目に入ったのは私が完全にゲームオタクに堕ちた作品の名前で……
それの続編!?音沙汰無しだったのに急に!?
ここで!?
「あっ、あっ……」
「もしかしてあれが気になるの? 列があるし、並ぼうっか」
「う、うん……」
み、見られてるんだよね……私の限界オタク仕草……うん……マイナくんは私の事もよく見てくれてる……
ありがとう……ありがとう……恥ずかしい……
「そ、そのね、あのゲームはね……」
「うんうん」
思わず語り出してしまう。
マイナくんがわかるようにがんばってかみ砕いているけども、溢れる思いに早口で饒舌になってる気がする。
マイナくんは相槌を打ってくれる。
表情を見るとわかんない時はポカーンとしてるから、その時はもっとかみ砕いて……ああ、私ばっかり話してごめんなさい……
「次の方どうぞ」
「あ! はい! こんにちはー!」
もう順番来てた!?
待って!マイナくん待って!
オタクは元気な声が苦手なの!!
~~
「今、友達から話を聞いてたんですけどもすごい面白いゲームなんスね! それの続編ッスか!? すごい!!」
「あ、は、はい、ど、ども……」
最初の挨拶は肝心! という事で元気よく挨拶してみたけども、反応が芳しくない……はっ! 表情がよくなかったのかも!?
「俺、詳しくなくてわかんないんスけども、もう買えるんスか?」
優しい顔……優しい顔……
「そ、その、ダウンロードが基本で……」
「す、すみません。その、グッズを……」
波多野さんがそっと助け船を出してくれる。ごめんね……
「あ、ありがとうございます……えと、何を……」
「こ、これとこれとこれで……あ、続編、その、本当にありがとうございます……前作で本当にハマって……ファン……です」
「そ、そう言ってもらえて恐縮です」
「アクション……気持ちいいのに……ストーリーも……魅力的で……」
「あははは……う、嬉しいです……」
波多野さんのこういう一面を見れて嬉しいなぁー。
波多野さんがあそこまで言うって事はすっごい良いゲームなんだろうなぁ。俺もいつか時間があったら遊んでみたいなぁ。
……
「ご、ごめんね……マイナスくん……色々付き合ってもらって……」
「ううん! 波多野さんが楽しんでくれれば俺も嬉しいよ! けど、ここはゲーム……とはまた違うみたいだけど…」
「あ、うん、ここはね、素材……絵を描く人や音楽を提供してくれる人のスペースだよ」
「へー、そういうのもあるんだ!!」
「うん……ゲームって一人だけで全部作るのは……難しいから……」
ゲームは絵だけじゃ、音楽だけじゃできない。
なるほどなぁ……ゲームも言うならオーケストラか、あるいはオペラか演劇か、そんな風にしてたくさんの人の集大成なんだなぁ……
「あ、ちょ、ちょっとマイナスくん、待っててね……」
「おう! 俺もちょっと色々見てるね!」
基本的には宣伝として並べていてダウンロードする事で無料で手に入れる事ができるものが多いらしい。形にする事で記念としたり、交流のきっかけ、あるいは偶々見かけた人に手に取ってもらえたり。
今、世界には本当にたくさんのコンテンツが溢れていて、だからこそ色んな形で提供していて……
「はぁー……すごいなぁ……」
もう感嘆の声しか出ない……ここに並んでるのを全部見ようとするだけでも時間が溶けてしまうだろう。
そんな時に俺のスマホのアラームが鳴る。
「あ、もう時間か。波多野さんどこだろう??」
見渡すと波多野さんは誰かと楽しそうに話してるのが見えた。
「波多野さーん!!」
そう言いながら波多野さんの所まで行く。
「あっ! あっ!?」
「どうしたの? 波多野さん?」
波多野さんはビックリした様子で俺に待って待ってとする。
「波多野さんって言うんだ?」
話してた男性は笑いながらそう言った。
「あ、俺はマイナって言います。今年の入学直後に知り合って、同級生なんスよーD高校ッス!」
「待って、マイナスくん待って……」
「あはは……大丈夫だよ。でも、全部ボロっと言っちゃう子は初めてだなぁ……」
あれ? 何か変な事したのかな????
「あ、そう! そろそろ時間だからさ、帰らなきゃって」
「もうそんな時間だった……!? どうしよう……」
「よかったら僕と一緒に行く? オフ会ついでに声かけようか悩んでたからさ」
「そうだったんですか!? あ、この人はハヤトさんって言って優しくしてくれてる人で……」
「じゃあ仲良しなんだね! 波多野さんがよかったら良いんだけども……」
普通は知らない人に任せるなんてできないけども、波多野さんの様子は楽しそう。
だから大丈夫かな?
「うん、じゃあ私、ハヤトさんともうちょっとだけ話していくね。今日はありがとう、マイナスくん!」
「わかった! それじゃあまたね!」
そう言って俺はこの場を離れる。
それに同じ趣味の人と話す方が絶対に楽しいだろうしね!
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