44・今、俺ってすごく楽しい!!

「お前らよぉ、朗報があるぜえ? いや、悲報なのかもなぁ」

 金曜日のホームルーム。体育祭に向けて色々と準備をする予定なのだけども灰野先生は教室に入ってきてからニヤニヤと笑っている。どうせ碌でもないことだ。


「B組の奴と契約したからよぉ、すんなりお前らが優勝とはいかねえだろうなぁ!」

「えっ!? 待ってくださいよ!? 大人げなさ過ぎッスよ!?」

「なら正々堂々と職権乱用で妨害してやろうかあ? ああ?」

「灰野先生自身が爆弾みたいなもんスから、纏めて謹慎とかッスか……?」

「ダイナマイトを腹に巻くのはマイナ、お前だよ!」

「先生! 俺にもダイナマイトください! 俺にも!」

「喋んな! きしょい奴!!」

「ああんっ!」

「つーわけで後はお前らでやれ。負けろ! 勝つな! やる気失くせ!」


 パーン! と教室のドアを閉めて灰野先生は出ていく。


「いやー、盛り上がってきたなー」

「よーし! じゃあ実行委員とか決めよ! 灰野先生に一泡吹かせる!!」

「マイナスくんの気合も入ってるの面白過ぎー!」

「俺やる! 俺やるよ!!」

「いよっ! 事の発端! お前が俺達の頭領だ!」



 ――



「マイナスのクラスのやる気がうちのクラスに飛び火して面倒くせえ事になっててマジウケるんすよね」

「灰野先生絡みでだっけ? マイナスくんが変態に目覚めて灰野先生に勝ったら何かするって」

「どういう話ッスかそれ!? 渡辺先輩それどういう!? えっ!?」

「伝言ゲーム雑過ぎるんよー」

「でも、なんで鷹田くんの所のクラスにそれが飛び火したのー? 灰野先生争奪戦でもあるの?」

「いや、うちのクラス委員の近藤が灰野先生に取引したんすよー」

「えっ!? 近藤さんが!?」

「A組のライバルになるから、吹奏楽部でちゃんと指揮してくれーってよ」

「な、なるほどー!!!」

「いやー、抜け目ねえよな。契約書も作って持っていったってよ」

「流石だよね……面倒見もいいし……あ、この間の夜の、あの後は大丈夫だった?」

「ん、ああ、おかげさまでな」

「鷹田が一番に頼るのが近藤さんで、幼馴染だしやっぱり仲がいいんだなぁって思っちゃったなー」

「えー!? そうなんだー!? 鷹田くんって……へー! いやでも良い話だね! うんうん!」

「いやいや、家も近いとか腐れ縁ってだけっすからー」

「女の子はね、良い話が好きなんだよ……鷹田くん」

「くだらねえ話でいいなら吐くんで、肩掴むのやめてもらっていいっすか?」

「あはは、渡辺先輩の握力すごいもんね」

「女の子の握力だけど、マイナスくんの頭で計測しようっか?」

「すみませんすみません許してください今のは失言でしたごめんなさいどうか命ばかりは助けてください」

「仕方ない、デコピンで許す!」

「来世では上手くやるんだぜマイナス」

「ヒーン……」

「鷹田くんもね」

「わりぃ俺死んだ」



 ――



「いやもう本当に痛くって……」

「よーしよーし♥ 撫でてあげちゃおうね♥」

 お礼を言いかけたけども、速水先輩が撫でたいだけだ! って気が付く。好きに撫でてもらえばいっか……って諦める。


「そ、そういえばなんスけども、速水先輩」

「なあに♥ マイナスくん♥」

「渡辺先輩や他のファンの人はその……見つけてもらえる? っていうのとは違うんスか?」

「えー♥ マイナスくんの言ってる意味、わかんないな♥」

「ファンがいるってだけで、すごいって思うんスよー……だから、何が違うんだろうって」

「別にスゴくないよ♥ SNSを見れば俺よりもっとすごい人いっぱいいるし♥」

「ええー……? そういうものなんスか……?」

「高評価を100近くもらっても、有名な人は簡単に2000,3000行っちゃうしね♥」

「うー……でも、100人好きでいてくれるっていいなって……」

「たった100じゃどうしようもないんだよ♥ もう、かわいいなぁ♥」

「そ、そうなんスかー……」


 SNSっていう中では100が凄くないとしても、自分の目の前に好きでいてくれる100人がいる事を想像するとやっぱりすごい気がするんだよなぁって思う。

 ……何故か途中で渡辺先輩が100人いるのを想像して怖くなったけど。



 ――



「お兄ちゃん、これお土産ー!

「ん? ああ、そういえば今日は遠足だったっけ」

 家に帰って晩御飯の時間。カナが遠足のお土産をくれる。


「予報だと雨が降りそうだったけども、晴れてくれてよかったよー」

「うんうん、よかったよかった。代わりに明日が大雨なんだっけ」

「そうみたいだね。お兄ちゃん明日は出かける? というか最近は毎週出かけてるよね」

「そうだなー、出かける予定。なんだかんだ忙しくてさー」

「ふふ、本当に最近は順調だね。気を付けて行ってくるんだよ!」

「はいはい、カナの方こそ上井先生とのレッスンがんばってな」



 ――



「コンちゃんのおかげで体育祭、めっちゃ盛り上がりそうやなー!」

「ふふふ、吹奏楽部で指揮してもらうためにちょうどいいなって思ってね!」

 今晩も皆でグループ通話。勉強前にみんなで話す……楽しいなぁー。


「A組とB組で対決……C組も盛り上がりたいなぁ」

「ツッキー! うちらも負けじと乗ろうやないか!」

「あははー、いいかもなー。やっぱり皆で盛り上がりたいしなー」

「体育祭……わ、私、自信無くて……だ、大丈夫かなぁ……」

「お、俺も自信無いから……一緒にがんばろっ!」

「ヘンタイパワーで目指せ優勝や!」

「へ、ヘンタイじゃないよーー!!」

「あはは、今日も勉強だよね。がんばってね!」



 ――



「なんだか大変な事になってるなー、ヘンタイは俺の方じゃないのに……」

「あはは……みんな面白がってるだけだよ。気にしない気にしない」

「だけど、体育祭、本当に楽しみになってきちゃったな」

「うん……私は足引っ張らないようにがんばらなきゃ……!」

「一緒にがんばろっ! 俺も本当に自信無いから……今日もよろしくね!」


 ロックをやりたいっていう気持ちで選んだこの道だけど、毎日が本当に楽しくて仕方ない。

 今日も明日も明後日も、毎日全力で楽しむぞ! がんばるぞー!!

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