47・自分の事はいいけど他人をバカにされたら怒る
「何してるんですか」
帰り道を調べようとして地図アプリを開いたら、月野さんの位置情報が出てきた。同じ建物ですぐ近くで、だからとりあえず来てみたらそこにハヤトさんがいて、そして月野さんが気を失ってるみたいだった。緊急事態かなって思ってドアを開けて来ちゃった。
「ああ? お前……マジでなんなんだよお前」
「いや、たまたま見かけて……ハヤトさんと月野さんは……いや、そうじゃなくて月野さんは大丈夫ッスか!?」
「お前にはネクラがいんだろ? 何? 周りの女は全員お前のもんだって言いたいのか?」
「言ってる意味がわかりません! 月野さんは大丈夫なんスか!?」
「これからする所だから。わかるでしょ?」
「……えっ……?」
「金のためにこの子は俺のところに来たの。だから問題なし」
「いや、でも、そういうのってダメって何かで」
「お金がない子に援助してるだけだよ? 良い事してるんだけど?」
「じゃ、じゃあなんで月野さん、寝てるんですか」
「そういう契約だからだけど? いやさ、信じられないっていうならやめてもいいけどさ、お金が手に入らなくて困るのはあの子だよ?その責任取る?」
月野さんの事、俺、まだよく知らない。でも、お金に困ってる? わかんない。あ、でも……
「すみません……ハヤトさんの言う事は、信じられないッス」
チッ、とハヤトさんは大きく舌打ちをした。それを見て決めた。俺はこの人の言う事は信じない。この人を、波多野さんにも月野さんにも近づけたくないって。
「何? お前も金が欲しいの? 強請りたいの? いくらほしい?」
「要りません!! 月野さんを病院に連れていくんで出ていってください!!」
ハヤトさんを押しのけて月野さんの下へ駆け寄る。抱きかかえて病院に連れていけばいいのかな、それとも救急車?
「一応言うけどもさ、警察に通報とかは辞めた方がいいよ」
「なんスか。怖くなったんスか」
「学校に伝わったらその子退学になるだろうしね」
「……」
「俺は夢を見せてやってるだけなのになぁ。お金もあげて良い夢見させて、楽しい時間を提供してる善人なのに」
「波多野さんにも、こんな事するつもりだったんスか」
「初心で純情で良い子だったのにね。ああいう子に夢を見てもらうのが生き甲斐なのになー」
「……俺、あなたの事、大嫌いっス」
「D高校の子がさ、俺と喋ったりご飯食べられるって最高に幸せな事だよ? 本来は俺、雲の上の存在っていうの? 上級市民って言っていいよね」
「上の立場の人間にさ、奉仕できるとか幸せでしょ。それを君は壊したんだよね。最低だと思うよ」
「……勝手に言っててください」
「ムカついたなら殴る? スッキリする代わりに君はもう表で生きていけないだろうけどね」
初めて、感情のままに殴ってやりたいって思った。でも、相手をして大変な事になるのはご免だ。
「どいてください」
「つまんねえ奴。殴る勇気は無いもんな。そりゃ上級市民様相手じゃな」
「D高校にいる奴なんてさ、社会のカスなんだよな」
「やる気も無くて、努力もできなくて、何も考えないで生きてんだろ」
「誰にも期待されない、誰にも好きになってもらえない、本当に哀れだよ」
「……確かに、俺はロックバンドやりたいって、それ以外、何もわからなくて、バカで、どうして生きてるんだろって思う時もありますよ」
「でも、そうじゃない人もいます。こんな俺によくしてくれる人、います。がんばってます」
「俺は、そんな皆が好きで、応援しかできないけど、きっとすごい人になるって信じてます」
「カスはカスのままだよ」
「違う……っ!!」
みんな、足掻いてるんだよ。どうにかしたいって。
でも、わかんないんだよ。どうしたらいいかって。
不安で、怖くて、辛くて、なのに生きてるから向き合わなくちゃいけなくて。
「諦めろよ」
本人が諦めてるっていうのと、誰かが諦めろっていうのは違う。
少なくとも、少なくとも、
「お前なんかに言われて」
「諦めるわけあるかーー!!!!!!!!!」
思わず我を忘れる。
自分が何をしたか、少ししてから理解する。
初めて、俺は人を殴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます